以前述べたことがあるが、いつもの古本屋さんの本棚で「水晶」に出会わなければ、恐らく今もシュティフターの名前も知らなかったかもしれない。



 そこからというもの、ふと読みたくなれば、今はすっかり自分の手の中にある本棚から抜いて、少しずつ味わうように読んでゆく。


 そして今日の昼休み、「水晶」からはじめ四作目のシュティフター通読となる「石乳」を読み終えた。



 「水晶」「みかげ石」「石灰石」そして「石乳」。


 岩波文庫の「石さまざま」に収められたこの作品は、それぞれ辿る道すじこそ異なるものの、すべてが人と生活、自然との調和があり、小説を読んでいるというより、それぞれの人物の暮らしそのものの中に存在しているように、或いは溶け込んでいるように思えるのである。


 また作品は、緊迫的な場面がありながら、往々にしてハッピーエンドに至ることも多いが、決してよくある取ってつけたような安いものではなく、なすがままにしてなったというような自然な流れを感じるのである。


 そして、作者の最大の教養小説「晩夏」にも取り組んでみたいと思っており、それについては、例えば一日数頁という勿体ぶったようなスローペースで読んでみたいと思っている。