テグジュペリの「夜間飛行」、ウェルズの「宇宙戦争」、アーヴィングの「スケッチ・ブック」など、旧き良きさまざまな小説作品に感銘を受けた2020年であったが、その年のクリスマス前に出会い、クリスマスの日に読み終えた作品といえば、オーストリアの作家、アーダルベルト・シュティフターの「水晶」である。



 ニ年前の今頃もいつもの古本屋さんに立ち寄っていた私は、例によって岩波文庫コーナーの棚を眺めていたところ「水晶─石さまざまⅠ─」という少し変わったタイトルの背表紙に、シュティフターという初めて知る作者に、石にまつわるお話かな?マァ、一つ読んでみようといった、半ば好奇心でこの本を入手した。

 祖父母の家に向かう道中の山道で吹雪に遭遇し、迷子になった幼いきょうだいの話であるが、雄大な風景描写の一方で、子どもにも容赦なく立ち塞がる大自然の脅威、人の温もり、「石」という特異なテーマとは対照的に、これは無茶苦茶素晴らしい小説じゃないかと図らずも感銘を受けたのである。

 猛吹雪のなか、子どもたちに立ちはだかる無数の氷の世界は、畏怖すべき美しさを放ち、読み手は只々二人の安否を気遣うばかり。

 果てしない大自然の脅威の向こうに見えてくる、輝かしいクリスマスの朝の光景に万感の想いが募り、紡ぎ出す文の一つ一つが本当に絶賛に値する。

 後に教養作品「晩夏」を入手したのもこの作品がルーツとなっている。