脳機能低下が、社会生活上の問題につながるかどうかは、環境しだい。(単行本解説) | 粳間メンタルリハビリテーション研究所/一般社団法人iADLのブログ

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地域リハ誌連載新シリーズ(H28年4月~)
「高次脳機能障害・発達障害・認知症のための邪道な地域支援養成講座」
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「高次脳機能障害・発達障害・認知症のための邪道な地域支援養成講座」単行本が出版されました。

今回は単行本だけの収録の特別編2.5話を解説していきます(・∀・)b

 

特別編2.5話は、本編第二話「高次脳機能障害・発達障害・認知症の相違点のお話」の補足解説ですので、まだ2話をご覧になってないかたはそちらを先にご覧ください。


本編2話無料サンプル http://ameblo.jp/u-mri/entry-12285022152.html

 

 

 


脳機能画像を使って、脳機能を比較すると、社会的生活が自立できない脳外傷例(若者)よりも、健常な高齢者(70歳~)のほうが脳機能が低下していることがわかります。

 

高次脳機能障害が明らかな若者よりも、問題なく見える高齢者のほうが、脳の機能は低いのです。

 

でも、傍目では、そうは見えない。

高次脳機能障害のある若者のほうが社会生活上困っているように見え、健常な高齢者は困っていないように見えます(脳の機能低下は後者のほうが強いハズなのに)。

 

ではなぜそうみえるのでしょう?

考えてみましょう。

 


脳機能低下が、社会生活上の問題につながるかどうかは、環境しだい。

 

高次脳機能障害のある若者のほうが社会生活上困っているように見え、健常な高齢者は困っていないように見える理由の多くは、求められる社会生活レベルの違いにほかなりません。

 

言い換えると、生活環境の違いが大きく影響しています。

 

 

上の図のように「脳の異常」「障害」「症状」の関係性をとらえてみましょう。

 

すなわち、

 

①. 「脳の異常」が、高次脳機能や認知機能の「障害」を引き起こす

②. 「障害」が「環境因子」や「個人因子」に影響を受けて…

③. 社会生活上の問題である「症状」を引き起こす。

 

①~③のようにとらえてみましょう。

 

そうすると、高齢者では、仕事をする能力がいつのまにかなくなっていても、仕事をしようとしない限り、高次脳機能(認知機能)の低下に気付かれないことがわかると思います(環境因子として仕事が加わらなければ症状である仕事上の問題は顕在化しない)。

 

一方で、若年者に求められる社会生活能力は就労することも含まれます(環境因子として仕事が欠かせない)。

 

結果として、若者だと容易に障害に気付かれることはわかるでしょう?

 

 

生活環境を社会生活能力のレベルに合わせるのが大事


求められる生活能力のレベルは、高齢になるとおのずから下がります。生活に必要なやるべきことの量は若年と比べて少なく、時間的制限も減ることがほとんでしょう。自身の情報処理能力の限界を超えない環境であれば、高度な認知機能が発揮され、生活に支障はきたしません。このような環境調整が、定年退職や子供の独立などによって自然となされれば、脳の機能に支障が生じていてもなかなか気づかれないだろうことは簡単に想像できるでしょう。

 

このような事実から、高齢者の場合は、以下のような支援に対する基本的な考え方が得られます。

 

高齢者の、保たれている部分の高次脳機能(認知機能)を発揮させたければ、土台となる情報処理容量・速度のレベルに、生活(環境)のレベルを合わせることです。

 

少ない量をゆっくりと、であれば、残存した高度な機能を発揮しやすくなります。

 

日々の生活において、重要度が低いものから順に「手を出さない」ように生活が変わっていくのであれば、やるべきことの量は減り、時間に余裕も出来ます。

高齢者に見られる「新しいものに興味を示さない傾向」を、意欲低下・発動性の低下などと称し問題視することも出来なくはないですが、自身の能力低下に対する適応的変化と捉えることも出来ます。

 

「なぜ新しいものに興味を示さないか?」という問いに対する答えを、「脳機能低下に伴う意欲低下・発動性低下が原因である」と原因論で捉えるか、「脳機能低下に伴う情報処理容量・速度の低下を補うため」と目的論で捉えるか、この違いは支援を考える上で非常に重要になってきます

(障害の原因論・目的論の解説はコチラ→http://ameblo.jp/u-mri/entry-12228346353.html

 

新しいことを覚えられないとしても、やることを増やさないことにつながるため、必ずしも全てが問題とは限りません。容量の限られた脳機能を、生活に最低限必要なモノに割り振るためには、不必要なことを覚えないことが有利に働く場合も多いと思いませんか?

 

高齢者が高い認知機能を発揮するためには、若年よりも多くの領域の脳活動を必要とすることがわかっています。認知機能を発揮するために必要な注意資源は限られており、かつ、その利用効率が悪いという事実を念頭に置いておけば、自ずと、環境調整において手を加えるべき部分、自然のままにしておくべき部分が見えてくると思います。

 

 

本編2話の置き教科書の例をもう一度思い出してみましょう。

注意を限られた資源と捉え、それを重要なモノから順に割り振るべきだという考えで。

 

毎日毎日教科書を忘れず持ってくるために限られた注意資源を消費し、他のもっと大切なことに使えなくなってるのだとすると…

 

本当にこんな指導必要?という考え方だってできるわけです。

 

高次脳機能障害・発達障害・認知症の症状が顕在化するかどうかは環境しだいです。

 

ご参考までに!

 

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参考文献

1). 粳間剛. 高齢者の高次脳機能障害の特徴と治療・リハビリテーション. 老年看護2017;24:2-12.
2). 粳間剛ほか. 高次脳機能障害の症状と治療的環境. 綜合臨床 2010; 59: 2141-2.

 

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P.S.1.

今回のお話は、単行本「高次脳機能障害・発達障害・認知症のための邪道な地域支援養成講座」からの抜粋です。

 

 

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P.S.2.

前シリーズ連載

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(H28年5/23-数時間だけでしたがw)

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