注意の焦点錯覚による因果関係・確率計算の誤解の話。 | 粳間メンタルリハビリテーション研究所/一般社団法人iADLのブログ

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(記事の最後にR2.3/13-新型コロナウィルス感染症のPCR検査の話を追記しました)

 

いつもお世話様です!

高次脳機能障害・認知症・発達障害のための集団メンタルリハビリテーションデイケアプログラム
「オレンジクラブD」第71-72回(2/1,2/13)の内容をお届けいたします。

 

今回のテーマは・・・

「注意の焦点錯覚」の話。

そして、焦点錯覚による因果関係の誤解と確率計算の誤解の話です。

 

 

前回のブログで以下の説明をしました。

http://ameblo.jp/u-mri/entry-12241121321.html


・判断材料を正しく集めて考えないと因果関係の錯覚(誤解)が起こる
・その対策には、漏れなく/重複なく情報を集めること(MECE)が大事


基本的には速くて楽な直感モードを使い、直感ではわからないことだけ熟慮熟考モードで頭を使うことが大事です。脳の限られた容量で、効率よく頭を使うためです。

(参照リンク:http://ameblo.jp/u-mri/entry-12238885019.html

 

そのためには、「直感ではわからない内容はどういったものか?」知識として覚えておく必要があります(≒タスク設定)

今回も、直感だけで考えてしまうと因果関係の誤解が起きる例題を示します。

 

前半は難易度低目、理解しやすい例です。

後半はしっかり計算方法まで勉強したい人用の、難しい例です。

 

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因果関係の誤解を起こす例(焦点錯覚)

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「直感的にわからないことの代表は…"物事の因果関係"」です。
何が原因で、何が結果であるのか、それが直感モードの脳ではわからない。

 

今回も、まずはその例題から。

下記の問題をよーく考えてみて下さい。

まずは直感で答えを出してみましょう。
そして、その答えが正しいかどうか、熟慮熟考してみて下さい。

 

 

さて、これはかの有名な「生存バイアス」に関する問題です。

(知っていた方もいるかもしれません)

 

上のデータを見た人の多くは、被弾箇所が多い部分の装甲を強化すればいいんじゃないか?と考えました。

みなさんもそう思った人が多いのでは?と思います。

 

一方で、統計学者Abraham Waldは、異を唱えました。論旨はこうです。

・上のデータには、最も重要な、「撃墜された爆撃機」のデータが含まれていない。
・本来被弾箇所はランダムになるはずである。
・上のデータで被弾箇所が少ない部分があるのは、その部分に被弾した爆撃機が生還していないということである。
・よって、上のデータで被弾箇所が少ない部分(主翼のエンジンのあるところ等)の装甲を強化するべきだ。


この説明を聞いたら、データから被弾と撃墜の因果関係を解釈する方法がわかったのではないでしょうか?
Waldの考えにならって爆撃機の装甲を強化したところ、被撃墜率が減少したそうな。

 

データを元に何かを判断する場合には、まず、そのデータで判断材料は十分か?と考えることが大切です。
システム1の直感では、得られたデータだけで整合性のあるストーリをこしらえてしまいますから、データを見る時は判断材料の不足に気をつけろと、そうタスク設定しておく必要があるわけです。

 

このように、「自分が今気にしている情報がすべて」になってしまう錯覚を、心理学者Kahnemanは「焦点錯覚」と名付けています。
注意の焦点が向いている情報以外は存在しないと思い込んでしまうと。

この焦点錯覚も、直感モード(システム1)の特徴とされています。

 

生存バイアスと言う表現の注意喚起するところも、「生存したデータだけに焦点を向けて、生存していないデータを無視すると、生存と因果関係のある因子を特定できない」ということですが、焦点錯覚という表現のほうが私はわかりやすいと思っています。

 

これはそのまま、自分の経験に置き換えて考えることが出来ます。

自分の経験を元に何かを考える時、システム1だけしか使わないと、判断材料の不足に気付かないで(そしてあつまった判断材料だけに考えの焦点を向けて)、整合性のあるストーリをねつ造してしまうよと。

 

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☆もっと詳しく知りたい人のために☆
-確率計算の誤解を起こす例(焦点錯覚)-
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今度は確率計算に関係してくる焦点錯覚の話をしましょう。

次は完全に計算問題です。

医療従事者でないかたはかなりなじみのない問題かもしれませんので、無理に理解しなくても爆撃機の問題だけわかれば十分だと思います。

 

医療従事者のかたはぜひやってみてください。

統計計算の復習です!(ベイズ統計)

 

 

直感では(システム1は)、80%見分けられるんだから正解も80%でないの?と囁いたかもしれませんが・・・この問題、タクシーの事故率と識別率のどちらの確率を優先するのか?というクイズではありません。確率を計算するにはどちらのデータも必要です。

 

解説しましょう。


この問題の場合、経験された可能性があるのは、


①青タクシーのひき逃げを青タクシーと正しく識別できた場合と、
②緑タクシーのひき逃げを青タクシーだと見間違えた場合の、二通りしかありません。


ここに、元々の事故率と識別率を組み合わせて計算すると、
①の確率は、

青タクシーの事故発生率(10%)×青タクシーを正しく識別できた確率(80%)で、8%
②の確率は、

緑タクシーの事故発生率(90%)×緑タクシーを見間違えた確率(20%)で、18%になります。

・・・え?合計100%じゃないじゃないか?と思うかもしれません。①-②だけでも計算は出来るのですが、ちゃんと理解するためにはMECEの考え方を登場させましょう。経験されたケースだけではなく、経験してない場合も合わせた全てのケースを想定しましょう。事実と目撃の二つの%があるので、4群必要。経験されていないデータは下記二つです。

③青タクシーのひき逃げを緑タクシーだと見間違えた場合:10%×20%=2%
④緑タクシーのひき逃げを緑タクシーと正しく識別できた場合:90%×80%=72%


はい。①~④を足すと、合計100%になりました。表にまとめると以下のようになります。MECEで考えた全事象です。

 

この問題で問われているのは、目撃者が青タクシーと言っている場合に本当に青タクシーの事故だった確率なので、①と②を全事象であるとして、その中で①が起きる確率を計算します。

 

よって最終的な計算式は、①÷(①+②)=8÷(8+18)≒31%

31%が正解です。

なんと、80%識別できる人が青と言っていても、この町の事故率では、見間違いである可能性のほうが高いのです!

直感に反する答えだったのでは?


識別率80%じゃないじゃないか!と思うかもしれませんが、左の表の識別が正解している部分(①+④)の合計は80%だから合ってますよね?緑タクシー/青タクシーの事故発生率も同様に考えれば、それぞれ90%と10%になります。
 

経験していないケースも判断材料に含めよ、と口酸っぱく言っていた意義がよく伝わったのではないでしょうか?


医療従事者はピンと来たかもしれませんが、これ実は、検査前確率と検査後確率の話と同義なんですよね。

正診率が高い検査で陽性になったとしても、事前の有病率が低いと、本当に病気である可能性は低い。

 

医療の世界で最も用いられる検査精度の指標は、

 

・感度:病気を本当に病気だと見抜ける確率

・特異度:病気でないものを本当に病気でないと見抜ける確率

 

の二つです。

 

先の問題で言うと、青タクシーを本当に青タクシーと識別する割合が感度(先の表で言うと①÷(①+③)で80%)、緑タクシーを緑タクシーと識別する割合が特異度(先の表で言うと①÷(①+③)で80%)にあたります。目撃者の正解率と同じですね。

 

感度80%というと、検査が陽性の場合に本当に病気である確率と誤解している人がいますが、これは、先の問題でいう「目撃者が青と言っている場合に本当に青タクシーの事故であった確率」に当たりますから、感度とは違う。80%ではありません。31%です。

 

検査が陽性の場合に本当に病気である確率は、陽性反応適中率といい、感度とは全く異なる値になります。検査の感度と特異度を理解し、検査前確率(≒その時点での有病率)を考慮しないと、陽性反応適中率は求められません。ではここで、もう一問やってみましょう。

 

 

是非真剣に考えてみてほしいお題------

春になり、インフルエンザ流行期が過ぎた時期のお話です。

流行が過ぎ、発熱で病院を訪れる患者さんのうち、インフルエンザが占める割合が10%まで下がっていることがわかりました

(発熱患者がインフルエンザである検査前確率は10%であることと同義)

 

そんなある日、発熱で受診した患者さんにインフルエンザの検査をしたところ、陽性の結果が出ました。

 

では・・・この人がインフルエンザである確率は何%でしょう?

(陽性反応適中率は何%でしょう?)

なおこの病院にあるインフルエンザ診断キットの正診率は80%です(感度/特異度ともに80%)。
(インフルエンザの人を陽性と診断する確率と、インフルエンザでない人を陰性と診断する確率は同じ80%という意味です)
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はい。この問題の答え。

タクシーの問題とその説明が理解できた人には、一瞬で解けたのでは?

ピンとこない人はヒントを見てください。

 

 

からくりに気づきましたか?

先ほどの目撃者が青タクシーひき逃げと言っている場合に本当に青タクシーがひき逃げしていた確率と同じ答え、約31%が正解だとわかったのではないかと思います。

 

考え方は全く同じです。

 

この患者さんに関しては、

 

①’インフルエンザをインフルエンザと正しく検査で識別できた(真陽性)場合と、

②’インフルエンザでないものをインフルエンザと見間違えた(偽陽性)場合の、

二通りしかありません。

 

ここに、元々の有病率と検査精度を組み合わせて計算すると、①’の確率は、10%×80%で8%、②’の確率は、90%×20%で18%になります。

 

よって、8÷(8+18)≒約31%。

夏にインフルエンザ検査をしなくて良いと言うからくりがわかりましたか?

 

上のインフルエンザの問題を流行期に書き換え、発熱で受診した患者さんがインフルエンザである確率を90%に書き換えて考えてみましょう。

 

タクシーの問題の計算で言うと、目撃者が緑タクシーひき逃げと言っている場合に本当に緑タクシーがひき逃げしていた確率と同じなので、前ページの④の値、72%を、③+④の74%で割って、約97%が正解です。

 

このように事前確率(インフルエンザの場合は有病率)によって陽性反応適中率は変動します。だから、医療検査の精度と言うのは、陽性反応適中率という指標を使わず、感度と特異度という指標を用います(あるいは正診率)。

 

 

「正診率80%のインフルエンザ検査で陽性が出たのに、インフルエンザである可能性は31%」。この結果は明らかに直感に反する事態だと思います(実際の診断キットはもっと優秀ですが仮の話として)。

 

でも、この問題のような事前確率であればこの結果は正しい。

 

今回説明したような考え方をよく理解し、かつ、真剣に考えてくれた人であれば、システム1とシステム2が頭の中で衝突し、システム2が勝ったことを実感できたと思います。

 

ご参考までに!

 

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参考文献

 

1). ダニエルカーネマン(著),村井章子(著,翻訳):フアスト&スローーあなたの意思はどのように決まるか?(上)(下).早川書房,2014.

2). 粳間剛, 仙道ますみ. つながりを司る人間独自の脳:連合野—遂行機能の話②意味・理由づけ・連合学習」 高次脳機能障害・発達障害・認知症のための邪道な地域支援養成講座第9話. 地域リハ 2016:11;804-811.

(リンクはこちら→http://ameblo.jp/u-mri/entry-12232378861.html)

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(記事の最後にR2.3/13-新型コロナウィルス感染症のPCR検査の話を追記しました)

 

R2年3/13-現在、コロナウィルス感染症(COVID-19)の話題で持ちきりになっています。

特に、PCR検査に関しては間違った情報が多く広まっているので、解説しておこうと思います。

 

☆100万人の希望者にPCR検査をしたらどうなるか?

 

新型コロナウィルスのPCR検査を100万の希望者に施行したらどうなるか?の例で解説します。

 

まずは話の前提となる仮定を以下のように設定します。

 

-(前提となる仮定)----

・PCR検査の感度を70%と仮定

・PCR検査の特異度を90%と仮定

・100万人の検査希望者のうち、1%が新型コロナウィルス感染者と仮定*

⇒つまり、感染者が1万人、"非"感染者が99万人と仮定

----------

 

この条件でPCR検査をすると、以下の表のような結果になります

 

この表だけではわかりにくいと思うので感染者と"非"感染者をわけて円グラフにします。

 

 

☆結果①感染者の円グラフ

 

感染者の円グラフは以下のようになります。

 

感染症検査の感度は「感染者が陽性になる割合」です。

この条件では感染者が10000人で、感度が70%なので、7000人が陽性になります(真陽性)。

残りの3000人は残念ながら、陰性と誤って判定されます(偽陰性)。

 

円グラフの赤い部分が真陽性の割合で、網掛け白が偽陰性の割合を示します。

 

ちなみに、「検査が陽性になった人の中に感染者が含まれる割合」は陽性的中率です。感度とは違うので注意(後述します)

 

 

☆結果②"非"感染者の円グラフ

 

"非"感染者の円グラフは以下のようになります。

 

感染症検査の特異度は「"非"感染者が陰性になる割合」です。

この条件では"非"感染者が990000人で、特異度が90%なので、891000人が陰性になります。

残りの99000人は残念ながら、陽性と誤って判定されます(偽陽性)。

 

円グラフの白い部分が真陰性の割合で、網掛け赤が偽陽性の割合を示します。

 

 

☆結果③感染者の円グラフと"非"感染者の円グラフの実際の大きさの比率は?

 

さて、上に示した2つの円グラフの大きさは実際の大きさとは違います。

感染者の円グラフと"非"感染者の円グラフの大きさを、実際の比率にあわせて書くと以下のようになります。

 

2つの円グラフを実際の大きさの比率に合わせて書くと円グラフの大きさが全然違います。

 

実際の比率に合わせた大きさの円グラフを見比べると、『真陽性の数(感染者で陽性になる人の数)より、偽陽性の数("非感染者"で陽性になる数)のほうが多い』と直感的にもわかると思います

 

 

この記事の条件ですと、「検査が陽性になった人の中に感染者が含まれる割合(陽性的中率)」は非常に低い★のです。

 

・感染者で陽性になる人の数⇒7000人(=感染者10000人×感度70%)[真陽性]

・"非"感染者で陽性になる人の数⇒99000人(="非"感染者1000000人-"非"感染者1000000人×特異度90%)[偽陽性]

・全陽性者の数⇒106000人(=真陽性7000人+偽陽性99000人)

 

★陽性反応的中率≒6.6%(真陽性7000人÷全陽性者の数106000人)

 

 

☆希望者全員にPCR検査をやっても結果はあてにならないよ!

 

上記の説明で、希望者全員にPCR検査をやっても結果はあてにならないことがわかりましたでしょうか。

タクシー問題とインフルエンザの問題が計算出来たかたはこちらのPCRのお題も計算してみてくださいね!

 

ではでは。

ご参考までに。

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