ある夏の日、それは日差しの強い夏の日でした。
一本の電話が入り、その事件は始まった。
「昨日、お宅で買った洗濯機の調子が悪く洗濯が出来ないのよ」かなりお怒りのご婦人から電話が入り、彼女の話によると、昨日買った二層式洗濯機に水が溜まらず洗濯が出来ないとの事、又何処からか判らないが異音がする、その異音は、コンセントを抜いても止まらないと言う。
水が溜まらない事は、有ると思われるが、音の原因がわからない、本来であれば、メーカーのサービスマンへの依頼となるところだが、買ったばかりなので、当日中にお伺いすることを提案するが、ご婦人、あまりにも不気味な音にじっと待つことは出来ず、店に持ってくると言うので、待つことになった。
当時は、田舎の店に勤めていたため、客宅からは、30キロ以上有り、片道2時間はかかる所、それでも洗濯機は、店に持ち込まれた。
軽トラに乗せられたその洗濯機は、重々しい雰囲気を携えやって来た。
確かに音がする、その音は、機械的な音でもなく、タイマーのカチカチ音でもない、なんとも言えない音、言うならば、かさかさ ごそごそ 無数の音が聞こえる、原因を考えるもののまったく思いつかない。
ここで、二層式洗濯機は、水位を調整するダクト下の弁で水を塞ぎ、水が溜まる仕組みになっている、水が溜まらないとの事だったので、おそらくここに何か問題有るはず、とにかくここを調べなければ。
早速、軽トラから洗濯機を下ろし、水道の蛇口とコンセントが確保できる場所へ移動、調べることに。
まず糸くずフィルターの下にあるダクトのカバーを外した、意外にも詰まりは無くとてもきれいな状態、買ったばかりなので当たり前、このときも奇妙な音は出続けている。
更に、調べるために、おそるおそる弁を引き上げ手を突っ込んだ、その時「ぎゃ~」あまりの激痛に悲鳴を上げてしまった、しかも指先は切り裂かれ、出血しているではないか、あまりの痛さでと驚きで、正直どうしていいか分からなくなってしまった。
その時突然、横にかけてあった排水ホースの付根が動きだし、振り下ろされるように、排水ホースが床にたたきつけられた、さすがにそこは汚水が、汚水が飛び出しかぶる事となった。
動くはずの無い排水ホースが暴れだしたことに、なぜ、洗濯機に近づくことさえ出来なくなってしまった、しかも先ほどからの異音は、更に激しさを増し、その中にキーキーと悲鳴にも似た音も混ざり始めた。
ふと排水ホースに目を向けると、一部分が赤く染まっているように見えた、更に見続けるとそれは確信に変わった、確かに排水ホースの一部が、どんどん血に染まっていくように見えた。
とうとう立ち会っていたお客様が、その場でしゃがみこみ泣き出してしまった。
この場を何とかしなければ、手はまだ痛むが再度点検を試みることにした、又弁を引き上げ中をのぞくと、今度は何も無い、しばらく覗いていると、一瞬何か巨大な虫の足のようなものが見えた、その足を見た瞬間、ぞっとしたが、中に何かがいることを確信した。
よく見ると無数の何か赤いものがうごめいている、しかも早い、ますます恐怖感がこみ上げてくる。
でも何もしないわけにはいかない、勇気を振り絞り、中に何かいるのなら、水で流してやることを思いついた、蛇口にホースをつなぎ水を溜めようとするものの、溜まらない、それではと、排水ホースを恐る恐るつかみフックに掛けた、すると出口を無くした水が洗濯層しまいには脱水層にも溜まり始めた。
ここで、一気に水を流した。
溜まっていた、水が駐車場へ流れ出した。
排水ホースから無数の何かが?赤いものが?大量に。
かっカニだ~。
大量の沢蟹が洗濯機の中から出てきた、すると元気なカニたちはチリジリに逃走を始め、近くの川に逃げていった。
かっカニか、お客様は、平然を取り戻し、実は、排水ホースを家のそばの沢に流していることを話し出し、その沢にはたくさんの沢蟹が居ることを話された。
沢蟹が流れきった、洗濯機はちゃんと機能しだし、何も問題が無いことが確認され、音もしなくなった、当たり前か これでこの騒動は終わりです。

