外科医T-bo 消化器がんよろづ通信

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外科医T-boが、消化器(食道、胃、大腸、肝臓、胆道、膵臓)がんの診断、治療(手術、化学、放射線、免疫、補完代替医療)について情報発信します。





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一昔前までは、医局の人事権は絶大なものでした。昨今かなり様変わりしてきました。これには三つの因子があると思っています。

1.臨床研修医制度が2004年から義務化されたこと。

2.ナンバー内科、外科がなくなり、サブスペシャリティの診療科となったことで、大学病院の求心力が落ちてきた。

3.女性医師の割合が増えてきたこと。

 

人事権の崩壊につれて、医師特化型転職サイトが、医師の求人、転職、いわば人事にかなり関するようになってきました。

医師 転職 理由と検索すると、今ではかなりのサイトが出てきます。

 

来年からはいよいよ新専門医制度も始まります。米国のように面接(interview)により、キャリアアップを図っていくことが、医師のコモンセンスになっていくかもしれません。

 

アスピリンの起源は、柳の抽出液に含まれる天然の消炎鎮痛成分「サリチル酸」である。古代ギリシャの医学の父、ヒポクラテスも処方した由緒ある薬でもある。消炎鎮痛薬としておなじみだが、医療現場では心筋梗塞や脳卒中の発症要因となる血栓形成を抑える薬としても使われている。近年はがん予防効果も知られるようになった。

 

最近の報告によると、3~5年未満「低用量(1日75~100ミリグラム)」のアスピリンを継続して服用している人は、全がんで発症率が20%、5年以上服用している場合は30%、それぞれ低下したという。13万人を超える米国人を対象とした大規模研究から、低用量アスピリンを定期的に服用している成人では、服用していない人に比べて数十年以内のがんによる死亡率が女性で7%、男性では15%低いことが分かった。アスピリンの定期的な服用者では大腸がん、乳がん、前立腺がん、肺がん(男性)による死亡リスクが低減したという。

 

この報告を見る限り、心血管系の血栓イベントを制御し、がん予防もできるとなれば、夢の薬と言える。

 

ただし、タイトルの「低用量アスピリンの功罪」ともあるように、デメリットもある。それは「易出血性」だ。頭蓋内出血、肺出血、消化管出血はしばしば致死的となり、1人当たりのアスピリン消費量が日本の10倍以上にもなる米国では、アスピリンを含む消炎鎮痛薬が原因の出血性消化管合併症で、年間2万人近くが死亡しているという報告もある。それと、アナフィラキシーまで起こりうるアレルギーもある。低用量アスピリンの服用で肝不全となり肝移植を受けた方まで世界にはいる。

 

消化管出血はPPI(プロトンポンプインヒビター)で制御し、脳出血は降圧剤でコントロールする手法もあるが、低用量アスピリンはがん予防としては未承認で、処方箋が必要なのは言うまでもない。

 

私は、低用量アスピリンは総合的に擁護(がん予防+心血管血栓予防>出血イベント+アレルギー)しています。

消化器がんの検査は、一般的に安価、低侵襲のものから始まり、高価、高侵襲、技術的に困難なものへと、必要に応じて段階的に進みます。

 

安価、低侵襲は、簡便かつスクリーニングで、高価、高侵襲は専門的となります。

 

消化管(食道、胃、大腸など)がんと実質臓器(肝臓、膵臓など)がんの検査でも、広義で解釈すると検査の進め方は同じです。

 

A)消化管がん

 

1)食道がんの場合

 

安価、低侵襲は、スクリーニングでの上部消化管内視鏡検査(通称胃カメラ)となります。併せて血液検査で食道がんの特異的腫瘍マーカーSCCや貧血の有無となるでしょう。胃カメラで食道に進行性の腫瘍性病変が指摘された場合は、生検(組織を採取し、病理検査に回す)を行うこととなります。粘膜に何か異常がありそうだとなった時は、ルゴール散布まではされるでしょう。ルゴール散布は食道の正常粘膜は染まり、がんあるいは異型上皮は染まらないことによって、異常粘膜病変を描出する手法です。進行食道がんであれば、3領域(頚部、胸部、腹部)造影CTが当然撮像されますし、場合によっては(というよりもほぼルーチンに)PETが行われるでしょう。ここまで終了すれば進行度が判明し、治療戦略構築となります。では、何かあるらしいとなればどうなるかと言いますと、詳細な評価ができる内視鏡に切り替え、後日精密内視鏡検査が行われます。精査に含まれているのは、拡大内視鏡、NBI、さらには内視鏡的超音波検査(EUS)も含まれてきます。早期の食道がんであれば内視鏡的治療(内視鏡的粘膜下層剥離術、ESD)も視野に入れた検査となります。EUSでの検査は消化器内科専門医しかできません。

 

2)胃がんの場合

 

安価、低侵襲は、血液検査での腫瘍マーカーCEA、貧血の有無、上部消化管造影検査(通称バリウムを飲む検査)、ルーチンの上部消化管内視鏡検査(通称胃カメラ)となります。進行性の腫瘍が見つかれば、食道がんと同様生検の上、進行度評価のため造影CTとなるでしょう。何かあるらしいとなれば、これまた食道がんと同様、精密な内視鏡検査+EUSとなるでしょう。早期胃がんも、昨今内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の適応が徐々に拡大しています。

 

3)大腸がんの場合

 

安価、低侵襲は、便潜血2日間法がグローバルスタンダードです。次のステップは血液検査での腫瘍マーカーCEA、貧血の有無、下部消化管内視鏡検査(通称大腸カメラ)となります。大腸カメラは医師の技量により、苦痛の程度や病変指摘能力がかなり変わってきますので、信頼された病院、医師により行わってもらうべきと考えます。進行性腫瘍があれば生検の上、同様に造影CTにより、リンパ節転移や腹膜播種、肝転移、肺転移を主とした遠隔転移の有無評価となります。必要に応じてCTコロノグラフィー、3Dアンギオが追加されます。早期大腸がんであれば、内視鏡的粘膜切除(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を視野に入れた検査(Pit paternの検索や拡大内視鏡、色素散布、NBI)となります。実際にESDの適応となると、かなりの技量を必要とします。大腸壁は薄く、大腸穿孔(大腸に穴が開くこと)が起きやすいからです。早期胃がんのESDはかなり普及していますが、早期大腸がんのESDはまだまだです。

 

B)実質臓器がん

 

1)肝臓がんの場合

 

安価、低侵襲は、血液検査での腫瘍マーカーAFP(アルファフェトプロテイン)、PIVKAII(ピブカツー)、HBs抗原、HCV抗体、腹部超音波検査(エコー)となります。これらの検査により肝臓がんが疑われた場合、造影CT、MRI、造影エコーなどと進んでいきます。肝臓がんかその他の肝臓腫瘤か鑑別がつかない場合、エコーガイド下肝生検(肝臓腫瘤から組織を取ってくる検査)を行う場合もあります。

 

2)膵臓がんの場合

 

安価、低侵襲は、血液検査での腫瘍マーカーCA19-9、腹部超音波検査(エコー)となります。膵臓は元々後腹膜下にあるため、肥満の方などは描出しにくいです。そこで次のステップはシンスライス造影T(スライス幅をたとえば1mm程にする)となります。MRI/MRCPもほぼルーチンに組み込まれます。ほぼこれで存在並びに質的診断がつきます。ここで迷いが生じた場合、超音波内視鏡(EUS)下FNAB(針を使った生検)を行うことまであります。ここまですれば、ほぼ診断がつきます。補助的な診断としてPETも行うことがありますし、手術の可否を見極める目的で審査腹腔鏡(全身麻酔下に腹腔鏡を腹腔内に挿入して手術ができるか否か判断する検査のこと)を行うこともあります。

 

胆道がんも同様に、安価、低侵襲から高価、高侵襲で検査が進められます。

 

消化器がんの検査は、最終的には急性期のがん拠点病院などの専門施設で行う必要があるのは、検査の医療機器の整備、消化器内専門医の常勤がマストだからです。

肝臓がんは、厳密には原発性肝細胞がんと胆管細胞がんに分別されます。原発性肝細胞がんはC型肝炎を背景に60%、B型肝炎を背景に10%発症し、ウイルス性肝炎が発がんの最大のリスクファクターです。その他、最近増えてきましたNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)が原因として増えてきています。C型肝炎はインターフェロンから、ハーボニー(商品名)により、かなり制御されてきましたし、B型肝炎も出生時から含め、制御率がかなり高まっており、やがてはウイルス性肝炎からの原発性肝細胞がんの発がん率は消滅に向かうのでは考えます。

胆管細胞がんは、肝臓がんの10%程ですが、なかなか減りそうもありません。
肝臓がんは、ほとんど自覚症状がありません。発見の契機は、ウイル性慢性肝炎、肝硬変での定期的な検査(腹部エコー、AFP、PIVKAIIといった腫瘍マーカー)が大部分を占めています。したがって、ウイルス性肝炎の無い方は、たまたま腹部エコーあるいはCTで偶然に肝腫瘤として指摘されることが多いようです。
原発性肝細胞がんの予後は、肝臓がんの進行度もさることながら、ウイルス性肝炎もしくは肝硬変による肝障害度が深く関与しています。肝臓がんはが、各種治療(肝切除、熱凝固療法、血管内治療、全身化学療法)によって肝がんが治ったとしても、肝障害が進行すれば肝硬変、肝不全となり死に至ります。したがって、肝がんの制御もさることながらウイルス性肝炎の治療も延命を図る重要なポイントとなります。
肝臓がんの治療は、原発性肝細胞がんは多彩(手術、熱凝固療法、血管内治療、化学療法)でありますが、胆管細胞がんは、ほぼ手術のみとなります。胆管細胞がんは、熱凝固療法、血管内治療、化学療法はほとんど効きません。
肝臓がんの手術は、この20-30年でものすごく進歩してきました。30年前は出血との戦いともいひとつは、どれだけ肝臓を切っても大丈夫なの?ということの戦いでした。肝切離の手法がデバイスの発達などにより出血が少なく行われるようになり、どれだか肝臓を切離しても大丈夫なの?という疑問に対しては、肝予備能評価法の確立と術後肝不全予測の確立により安全な肝切離が現代ほぼ確立しています。
日本では肝移植のスタンダードは生体肝移植です。世界で標準的な肝移植が生体肝移植であるのは日本だけです。これは宗教観などもあるかもしれませんが、最大の理由は、ドナーからの肝採取に4000例を超えるまでドナーの死者が出なかったことによるものです。肝切離の手術死亡率は施設間にある程度差がありますが、これはすごいことで、日本の肝切離技術は世界に誇れる冠たるものだと考えます。
CT(Computed tomography)は広く認知された検査です。では、単純CTと造影CTはどういった違いがあるかに焦点を当ててみたいと思います。
 
その違いは、一言「造影剤」を使うか否かとなります。造影剤には問題があります。第1は、腎機能障害を惹起するあるいは増悪させることです。通常は腎機能障害(例えばクレアチニン値が1.2mg/dl以上)があれば使いません。イコール単純CTとなります。第2はアレルギー症状が出ることがしばしばあります。
 
単純CTは診断能がはっきり極端に落ちます。消化器がんの場合で考えてみましょう。例えば、自覚症状のない方が、2cm大の膵臓がんが膵体部にあったと仮定して、単純CTのみであると、存在診断(どの臓器に何かあるという診断、この場合膵臓に腫瘍らしきものがあるということになります)もままならなくなりますし、質的診断(何かあるとしたらそれは何なのか)も到底無理となります。つまり膵臓がんを見逃してしまう可能性が十分にあるということとなります。
 
では、何故造影CTをルーチン化しないかということですが、腎機能障害も当然ありますが、多くはアレルギー症状を回避してということと、造影剤注入に必要なライン確保が障壁の一つになります。アレルギーは、軽症であれば、発疹やかゆみ程度ですが重症となるとアナフィラキシーショック(意識消失、低血圧、呼吸停止)に至ることも稀ではありますが、あります。ライン確保も、脱水や血管の細い方には難渋することがあります。医療サイドは単純CTのみに至るエクスキューズとなります。
 
CTを撮像するからには、中等度以上の腎機能障害や、明らかな造影剤アレルギーがない限り、造影CTを付加することが望ましいです。
 
自覚症状なしの2cmの膵体部がんを想定しますと、膵がんは乏血性ですので、造影早期は周囲の膵臓に比し、血流に乏しく、晩期(門脈相)には、じんわり造影された腫瘍として描出されます。そして、進展度評価(周囲への局所進展やリンパ節転移の是非、肝転移など)も同時に可能となります。消化器がんは、血流の評価(多血性、乏血性)、発育状況(膨張性、浸潤性)など各臓器において特徴があります。
 
単純CTでは、存在診断もままならないのが現状です。
 
消化器がん手術後の再発チェックも原則造影CTで行います。
 
したがって、CTを受ける時の病院は、造影CTがしっかり行えることに加え常勤の放射線科医(読影専門)が居る方が良いです。