九五式軽戦車の変速機 | 軍曹!時間だ!…

九五式軽戦車の変速機

九五式軽戦車の変速機

 

昨年、九五式軽戦車が里帰りして4月に一般公開された。

操縦してみたいと思ったが、そんな簡単な話ではないだろう。

とりあえず、変速機はどうなっているのだろうかと調べてみた。

最初は、九七式中戦車同じ変速パターンなのだろうと予想していたのだが

調べてみると意外な事実に気がつく。

 

九七式中戦車については取説(九七式戦車保存取扱教程)を持っており、

変速パターンが記載されている。

1速を後ろに入れ1→2→3→4とN字に変速していくパターンだ。

九五式軽戦車も九七式中戦車と同様のマニュアルミッションであり、形式は「摺動歯車式」と記されている。

英語だと「sliding-mesh(スライディング・メッシュ)と呼ばれるものだが「摺動歯車式」は帝国日本陸軍における和訳名称であり、一般的な自動車用語では「摺動選択式」と記される。

 

九七式中戦者と同様の形式で前進4速、後進1速であることから九五式軽戦車も副変速機がないだけで同じ変速パターンだと思うのは必然である。しかし、高低装置の排除と軽量化などから後退のシフトの位置が左右・前後異なる可能性があるので調べたのだ。

 

十数冊の九五式軽戦車の資料を所蔵しているが、構造機能について詳細に記述されたものは無い。その中で資料価値が高かったのが『ジェイ-タンク将校集会所』が発行した「J-TANK別冊『九五式軽戦車(ハ号)』」である。同人誌ではあるが、帝国日本戦車の研究者方々の本である。

これに、小玉克幸氏提供の「昭和十七年増版 兵器学教程 戦車」から抜粋された記事が掲載されている。一次資料ということで価値は高いのだが、一次資料だからといって正しいとは言い切れないのがこの手の資料であり、私も現役時代に根拠の確認に四苦八苦したものである。

 

第三図がエンジンを含む動力伝達機構(パワートレイン)の図であり、第十七図が変速機の構造図(第十七図その一)と上部カバーを外した写真(第十七図その二)、第十八図が変速機の構造を簡略した図だ。

 

これらの図から、変速パターンが読み取れる。

まず、第三図から見てみる。

車体後部右側に搭載されている発動機(エンジン)出力は主連動機(メインクラッチ)を経て伝動機(トランスファー)により車体中央に動力軸を偏移させ推進軸(プロペラシャフト)により車体前方中央に設置されている変速機(トランスミッション)に動力を伝達する。

 

変速機を出た動力は横軸装置で90度方向を変換され左右の操向機である操向連動制動機(クラッチブレーキ・ステアリング)を経て終減速装置(ファイナルドライブ)で減速され起動輪(スプロケットドライブホイール)に動力が伝えられる。

 

さて、この図では全般的な動力の流れが分かるだけで、変速機の速度段が記載されていないので変速パターンはわからない。しかもギヤが1組足りないので前進3速、後進1速だな。

また、些細なことかもしれないが、変速機の図を見る限り、推進軸から横軸装置まで直結になっているため変速できないぞ。(直結ギヤは入るが直結は速度変化がないので変速にはならない)

 

ということで、第十七図と第十八図で変速パターンの解析を試みる。

第十七図(その一)は構造図である。説明はないのだが、構造図を読み解くと、エンジン出力は「主軸」に入力され・・・・違う。主軸に入力しちゃったらギアチェンジできない。

図に記されている「主軸」が示す先は主軸ではなく「常噛主歯車」だ。しかし、常噛主歯車には「第四速度主歯車」からの矢印も示している。まてまて、第四速度主歯車からは2本の矢印が別々の歯車を示しているな。どちらかが間違いなのだが、多分2本とも間違いだ。

更に第三速度主歯車と第4速度服歯車が噛み合うようになっている。

 

第十七図(その二)からは、ギヤを動かす3本の推桿が操縦手側から後退用、1速2速用、3速4速用であることが読み取れる。

 

第十八図は第十七図(その一)を簡略化した図に各歯車の歯数が記載されており、減速比からも各速度の歯車が判断できる。これにより、第十七図における第3及び第4主歯車は逆であることが判明する。しかし、前述の第三図と同様に推進軸からの動力がそのまま主軸に直結しているのでこれでは変速できない。

 

上記は所見で判断したものだ。実に4図中の3図において間違いがあるのだ。

実際の流れはこうなっている。

推進軸からの入力は常噛主歯車を回し噛み合っている常噛副歯車は副軸を回す。

副軸には各速度の副歯車が固定装着されている。副歯車に対応する主歯車を噛み合わすことで主軸が回り主軸に付いている横軸歯車小が噛み合っている横軸歯車大を回す。

簡単に書くと以下の通り

推進軸→常噛主歯車→常噛副歯車→副軸→各速度副歯車→各速度主歯車→主軸→横軸装置

 

 

なお、件の動画では横軸装置を「デフ」と称しているがデフ(ディファレンシャルギヤ/差動機)ではなく、動力方向変換用のベベルギヤ(傘歯車)が収まっているだけだ。

 

【中立(ニュートラル)】

 

エンジンからの動力は副軸に伝わり各速度副歯車を回すが、いづれの主歯車とも噛み合っていないので操向機に動力は伝わらない。

 

 

【第1速度(ローギヤ)】

 

 

主軸を摺動(スライド)するように取り付けられている第1速度及び第2速度歯車を前方に動かし第1速度歯車同士を噛み合わせることで主軸がに動力が伝わり横軸装置を経て操向機に動力が伝わる。

第1速度主歯車を前方に動かすには変速テコ(シフトレバー)をシフトゲート中央後方に動かす。

 

【第2速度(セカンドギヤ)】

 

 

主軸を摺動(スライド)するように取り付けられている第1速度及び第2速度歯車を後方に動かし第2速度歯車同士を噛み合わせることで主軸に動力が伝わり横軸装置を経て操向機に動力が伝わる。

第2速度主歯車を前方に動かすには変速テコ(シフトレバー)をシフトゲート中央前方に動かす。

 

 

【第3速度(トップギヤ)】

 

 

主軸を摺動(スライド)するように取り付けられている第3速度及び第4速度歯車を後方に動かし第3速度歯車を常噛主歯車と噛み合わせることで主軸が直結となり動力が伝わり横軸装置を経て操向機に動力が伝わる。

第3速度主歯車を後方に動かすには変速テコ(シフトレバー)をシフトゲート右前方に動かす。

 

 

【第4速度(オーバートップギヤ)】

 

 

主軸を摺動(スライド)するように取り付けられている第3速度及び第4速度歯車を前方に動かし第4速度歯車同士を噛み合わせることで主軸に動力が伝わり横軸装置を経て操向機に動力が伝わる。

第4速度主歯車を前方に動かすには変速テコ(シフトレバー)をシフトゲート右後方に動かす。

 

 

【後退(リバースギヤ)】

 

 

主軸を摺動(スライド)するように取り付けられている後退主歯車を前方に動かし後退副歯車と噛み合っている逆転歯車に噛み合わせることで主軸に逆転動力が伝わり横軸装置を経て操向機に動力が伝わる。

後退主歯車を後方に動かすには変速テコ(シフトレバー)のシフトロックを解除しながらシフトゲート左前方に動かす。