戦車操作の利便性と容易な取扱い(戦車工学) | 軍曹!時間だ!…

戦車操作の利便性と容易な取扱い(戦車工学)

「1・2・3 乗員の戦闘能力と戦車の確実性」の4)、5)項の細部記述である。《》内は言葉の説明である。

 

1・2・3 乗員の戦闘能力と戦車の確実性

乗員の戦闘力を保証する戦闘車両の技術上の性能は次の様なものである。

1) 戦場においての外部観測法

 

2) 外部との連絡法(部隊及び分隊編成の場合の指揮)

3) 内部の連絡法

 

4) 操縦、運転や射撃の利便及び乗員の作業上の正規衛生条件を備える事

5) 重要部分の取扱い容易な事

 

戦車の操縦の便利さと乗員の作業条件の便利さ: 乗員の疲労度、したがって又その戦闘力は設計に際して戦闘状況において戦車の運動を掌握し、火砲を操作するための利便をどの程度まで充分にあらかじめ考慮してあるかによって定まるのである。この要素に対して最近の戦車製造界では大なる注意を払いかけて来たようである。これは、世界大戦型《第1次世界大戦型》の戦車は、乗員の行動に便利な操作にしておくという見地からすれば、なお全く不完全であったからである。

 今日要求される所は

1) 衝撃を受けた時や障害物を通過するのに当たって、戦

 闘員が打撲傷を受けぬ様に各員をめいめいの席に最も

 具合よく配置する事

2) 綿密な観測を要するすべての器材、及び分置されたそ

 れらの機材を操作する槓桿《レバー》最初の計画にお

 いて便利な様に配置する事

3) 戦場でも、また道路上でも、観測に差し支えない様に器

 材類の照明をよくする事

4) 操縦用槓桿には余り力を要しないようにする事、またそ

 の槓桿の動きを小さくし、しかも操作の度数を減少する事  

5)  標準温度状態を確保する事、すなわち夏季における温

 度がはなはだしく上がり、また冬季において温度が下がる

 のを防ぐ事

6) 乗員に対し新鮮な空気を保証する事、すなわち燃料の

 燃焼生成物およびガソリンの蒸気を車体内より完全に駆

 逐し、また塵埃の侵入を十分に防ぐ事

7) 運転に当たっては、乗員を疲労せしめるばかりでなく、戦

 車ないしは戦車集団の行動を暴露する騒音を可及的に減

 少しめる事

8) 負傷乗員の医療救護を表示し得る事、および戦列に離

 れた者を乗員中の他のものに換え得る様にしておく事

  操縦に浪費する努力を減少する事と、操作回数を減少

 する事とはサーボモーター機構を用いるか、伝動装置の

 機能そのものを完全にする事によって達成される。

 

 標準温度条件を維持するには特殊の換気装置をつけ、かつ熱の不良導体(アスベスト等)で装甲板に裏張りをする事により冬季にあっては空気を暖め、また夏季にはこれを冷却する事によって行われる(イギリスのビッカース12t戦車)。

 戦車が縦隊をつくって舗装しない道路や凸凹な砂利道を運行する場合、夏季には多量の塵埃が舞い上がり路上の監視を困難とし、かつ乗員及び戦車の機構に有害な影響を及ぼすものである。

 したがって、近代戦車の設計に当たっては換気装置《ベンチレータ》、吸塵器《エアフィルタ》、排塵器等の組み合わせがあらかじめ考えられるようになった(ドイツおよびその他の諸国)。

 各戦車は撒毒地帯内の進行の際に毒ガスの作用に対し2時間までは乗員を防御する様に集団的または個人的防毒装備を持っていなければならないとされている。

 戦場において戦車が活動している時、排気ガスや火薬ガス中にある一酸化炭素(CO)が、戦車の戦闘室内に侵入してくる。ある資料によれば、戦車の活動時間とその構造とによりCOの濃度は1ℓの空気中に0.022~0.05㎎に達し、又ある場合には0.11㎎/ℓにまで達する事があるという事である。COが長時間空気中に滞留する時は、その濃度が0.05㎎/ℓでも既に人体の器官の障害を惹起《じゃっき:事を引き起こすこと》するから、戦車内の換気装置には特別の注意を払う必要がある。

 

騒音: 騒音は隠密性を暴露する要素であり、また乗員の作業能率に影響するものであるから望ましくない現象である。永い間騒音の作用を受けると、行動間も行動後も聴覚に異常を来すものである。

 戦車における騒音発生の原因は、次の様なものである。すなわち

 a) 発動機《エンジン》および伝動装置の回転

 b) 無限軌道およびその他の走行部全体のガチャガチャ

   する音

 c) 射撃する時の音響学的作用

 

 発動機は低い音響を、走行部は高い音響を発する。高い音響は著しく耳に響くものである。一般に2~3時間連続運転後には聴覚の鋭敏度は平均して1/3に低下する。又その時出入口を開けておくと、聴覚は更に低下してしかも持続的で修復し難いものである。

 運転中の騒音を減少するためには、伝動装置の組立てを完全にし、また歯車の仕上程度を改善して静かな噛み合わせを使用し、あるいは走行部の各装置の関係を最も正確な組み合わせになる様に選択する事等により実現される。しかし、これに対する技術的対策は未だ十分に研究されてもいないし、活用もされてもいない。

 不完全な観測器具と明るさの不足の下では視力の鋭敏さが低下する。したがってこの方面に対しても注意が向けられる様になった。戦闘室および器材の照明は昼と夜とではかえている。

 連続的に反復される車体の衝撃と振動とは、たとえその力が大きくなくとも、人体に対しては極度に影響を与えるものである。すなわち、普通の疲労と、筋肉の凋萎 《ちょうい:しぼみなえること。》とがあらわれ、兵員に「酔う」といった様な症状を起こさせる(これは船酔いと同じ症状である)現代の大多数の戦車においては乗員に対するこの様な症状は、中等度の不整地を2~3時間連続走行すると現れるものである。  

 重要部分の取扱い容易な事: 車両の一般的構造に対して課せられた主要な要求の1つは主要部分の点検、手入、小修理、または部品の取換えに当たって車から出ないでも容易にその装置に近付き得る事である。

 最も緊密な結合を要する箇所に対しては特にそうである。すなわち、発動機の気化器《キャブレター》や、ガソリンおよび潤滑油《エンジンオイルやトランスミッションなどに使用されるギヤオイル》の濾過器《フィルター》や点火栓《スパークプラグ》や、注脂器《グリスニップル等》のある場所がこれである。戦車にヂーゼル機関を用うる場合においては、この他、噴射系統に対しても確実に近づきやすくしておくべきである。なお、電気部品(点火装置、照明装置、信号装置等)は、その確実性のほかに、速やかに損傷の箇所を発見し、それを迅速に除去する事が出来る様にしておかねばならない。構造が複雑な電気式や、水力式《油圧式》あるいは空気式のサーボモーター機構や装置を有する場合も同様な事がいえる。これらの要求は特に重要なもので、実際の戦車設計に当たってもある種の装置はいかに優れていても、このためだけで拒否される事さえある。

 戦車全体の確実性は戦車に対する最も重要な要求であって、設計の際の正しい計算と許容応力および材料の正しい選択とによって確保されるものであり、また設計の際は材料とその熱処理および機械加工とに応じて各部品に適当な工作条件を与える事により確保されるものである。