戦車の装甲防御、ガス防御(戦車工学)
1・2・2 装 甲 防 御
戦車の損傷を著しく少なくするのは、もちろん、戦車の速度と旋回性能によるところが多い。また、その大きさにもよるが、速度が増せば、それだけ目標となる大きさも小さくなり、命中の公算も減少するのである。しかし対戦車砲(ないしは戦車の砲)の命中率の増大と、一地点から突然射撃される事(肉迫行動域あるいは偽装の可能による)により以上のごとき条件に全幅的に信頼することが出来なくなっている。なお、自己固有の火器はそれ自身最良の防御法の一つであるが、火器に対し戦車を最も確実の防御する方法は装甲防御である。
各種弾丸による装甲板の被侵徹性及び各種要素の影響の詳細は後述の装甲防御の理論において研究する事として、ここでは、ただ、戦車の任務に適応する装甲板の厚さを選定するために必要である装甲板の被侵徹性について2、3の一般的知識を記述するに止める。
板の被侵徹性は次の要素によるものである。
a) 装甲板の性質
b) 弾丸の重量とその径
c) 装甲板の厚さ
b) 装甲板に弾丸が命中した時の速度、すなわち弾丸の初速度、距離及び弾丸の形状係数
e) 装甲板に対する弾丸の衝突角度
これらの量そのものの間の関係を表す近似式は極めて多い。
次に装甲板の厚さを換算するために一般に用いられているジャコブ・デ・マラー氏の式を紹介する。
《23P 計算式挿入》
種々の距離から種々異なる弾丸を使用した時の装甲板の被侵徹性に関する概略の数字を示すために次の表1・4及び1・5に掲げておく(本表は各種の資料により編纂したものである)。
軽戦車に最も多く使われる装甲板の厚さの徹甲銃弾に対する防御力に関して、外誌に報道されたビッカース会社の装甲板についての報告を次に記しておく(本表は前のものと同様絶対正確の数字であるかどうかは保証の限りではない)。
板の厚さ9mmの時、距離150m以上からの徹甲銃弾を防ぐ。
板の厚さ11mmの時、全ての距離からの徹甲銃弾を防ぐ。
板の厚さ11mmの時、距離450m以上からの13mm徹甲銃弾を防ぐ。
板の厚さ20mmの時、距離100m以上からの20mm徹甲銃弾を防ぐ。
これらの装甲板は明らかにはなはだ硬いが脆いものである。したがってこれを実験するに地雷を使用すれば更にいくぶん悪い結果になろう。
装甲板の配置は極めて重要なもので、また起り得るべき衝突角を最小限度にすることは板の厚さを増す事と同様に重要である。これに関連して戦車の車体の形状に対し要求が生じてくる。すなわちなるべく垂直板の使用を避ける事である。理論上最も望ましい形状は球面であるが、この様な装甲板を製造する事は困難であるから、装甲車に対するこの要求は目下のところ未だ実現を見ない。ただ個々の装甲板を設計上許し得る範囲で傾斜せしめ、砲塔の外面を円筒形にするに止めている。
ガス防護
戦車にとっての最も有効なガス防護は、個人防護ももちろん考えなければならないが、集団的防護が有効であるとされている。
1) 可動具部及び非動部を通じあらゆる結合部に特殊のパッキングを入れて車体全体を密閉する事
2) 戦車の内部を高圧に保つ事
3) 特殊の構造を有する濾過機すなわち防毒具を備え、その濾過機を通して外部の空気を吸い込むようにする事
個人的な防毒装置は乗員の動作を束縛するものであるから、この様な装置を取付けるのは極めて面倒ではあるが、戦車の毒ガス防御法としては極めて望ましい事である。