戦車用発動機(戦車工学~理論と設計の基礎~) | 軍曹!時間だ!…

戦車用発動機(戦車工学~理論と設計の基礎~)

 

 

1・1・4 戦車用発動機

 

 戦車を設計するに当たっては発動機の形式の選択、ないしはその設計に対しては技術的にもまた戦術的、戦闘的にも特別の注意を払う必要がある。

 事実、現代の戦車製造の実地においては、戦車用発動機は戦車用として特別のものでなければならない様にいわれている。自動車及び牽引車用の普通の発動機は。若干の条件付きで豆戦車及び超軽戦車にしか利用できないのである。

 軽戦車に対し現代の自動牽引車用発動機は出力の点でまず失格する。出力の点で及第したとしても規格に合致しない。戦車用発動機としては出力の点でも規格の点でも航空機用発動機が最適当である様である。この事は初めはちょっと不思議であったが、事実が証明しているのである。しかしながら航空機用発動機は最小限度の重量をもって構成されているので、その各部分の応力は極めて高いから、したがって寿命も短いものである。

 戦車に装備した航空機用発動機の摩耗がはなはだしいのは、戦車用発動機はしばしば各種の地形または各種の障害物通過をなすとき過負荷に遭遇し、かつ激しい動揺をうけ、酷使されがちであるからである。

 軽自動車用発動機《乗用車用エンジン》は平均40%負荷、また貨物自動車は60%負荷の状態であるのに対し、戦車用発動機はほとんど連続的にその最高出力の80~90%の負荷で使われるものである。

 純然たる技術的見地よりする上記の考慮と、戦術的要求とから戦車には特殊の戦車用発動機をつくる必要が生ずるのである。

 その発動機の型式として、現代の技術の程度において戦車用として最も適した発動機は、重い燃料(軽油、重油その他)によって運転され、最も経済的であり、したがってまた火災の危険も少ない圧気噴射式高速ヂーゼル機関であるといわなければならない。冷却方式として望ましいのは空冷式である。これは戦車が水がなくても差し支えないからである。

 型式のいかんにかかわらず、戦車用発動機としては次に掲げる一般的性質を持っておらねばならない。

 a) 戦車用発動機の出力は戦車に十分な戦術的及び作戦的行動力を保証するものでなくてはならない。現代の戦車用発動機の出力の割合は戦車の総重量1tあたり20~30㏋に達し、快速用のものでは40㏋にも達する。

 b) 戦車用発動機の回転数は大きいから伝動装置が複雑であり、したがってそれに対する発動機の機構も頑丈なものでなければならない。発動機の毎分回転数は1800~2000に達し、時には2500に及ぶものもある。

 c) 運転は静かである事。騒音は最小限度に抑えるべきである。

 d) 構造簡単で、取扱い容易である事である。

 

 最近、安全な高圧蒸気罐(100atm以下)を有する蒸気機関が現われ、操縦と調節との自動化の問題が解決された。この場合、排気のための凝縮器も用いられる様になり、戦車に対し蒸気機関を利用してはとの問題が持ち上がっている。蒸気機関は回転力が一定であるから、変速機の必要がなく、急速に加速が出来、また取扱いが極めて簡単になり、したがって極めて軽快に走る事ができる。

訳者注※「回転力が一定であるから変速機が不要である」というのは少し不合理である。回転数の減少と共に回転力が増大する性質があれば変速機は不要となるのである。

 静粛な運転、迅速な逆転、過負荷でしかも長時間の使用可能、ガソリン機関より寿命が長い事等すべてこれらの事は戦車に課せられた戦術的技術的要求に対して蒸気機関が最適当なものである事を裏書きするものである。

 ルノー工場では400kmの行動能力がある蒸気機関付きの8t戦車をつくっていると報ぜられている。

 また蒸気機関はイギリスおよびチェッコスロバキヤの戦車にも用いられている事もまた知られている。

 発生〇ガスで運転する発動機を軍事車両に用いる案は未だ普及されていない。

 

※発生〇ガスの〇は読み取り不能