戦車の各装置に対する技術的要求(戦車工学~理論と設計の基礎~) | 軍曹!時間だ!…

戦車の各装置に対する技術的要求(戦車工学~理論と設計の基礎~)

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戦車の各装置に対する技術的要求: 戦闘車としての戦車の特性を左右する基本的な技術的要素は次のごときものである。

 

a) 車体;この要素はその中に配置される乗員、武装、伝動装置、発動機その他の特殊装置等の観点からする戦車の容積を特性づけると同時に乗員に対する装甲防御力、ならびに戦車自体の堅牢度を特性づけるものである。

b) 発動機;この要素は戦車の運動性を制約する装置に極めて密接な関係がある。

c) 伝動装置;これは戦車の内部構造と戦車の運動性を制約するものである。

d)  走行装置(懸架装置);これは戦車の外部構造と戦車の牽引性とを左右する。

e) 武装;戦車の戦闘力と戦術上の使命とを左右する。

f) 特殊設備;戦車を専門化し、その技術的に完全なものとする事に関係する。

 

1・1・3 戦車の車体

戦車の車体の戦闘上必要な容積すなわちその大きさは、車体内に配置しなければならない装置、武装ならびに乗員等によって決定される。これらの配置は車体内に無駄な容積のない様に合理的にしなければならない。何となれば、無駄な容積があるとただ余計な重量を増し、自身の目標が大きくなるからである。

車体内における車両の生命組織である各部の機構と乗員とをいかに配置し、その又いかに防御すべきかは、戦車の設計者ならびに製作者にとって真に重要な問題の1つであり、下記の各項に基づいて決定されるものである。

 

1) 装甲板の材質

2) 装甲板の厚さ

3) 接合部の性質(車体装甲板の結合用当板の性質)

4) 装甲板の配置(車体装甲部の形状)

 

装甲板の材質: 現代の戦車の装甲板はほとんど全て良質の合金鋼である。この鋼板の成分は各国各種の会社において種々なものが秘密裏に作られており、しかもそれは秘密にされているが、その主要な成分はCr, Ni, Mo, Vであることは知られている。

※Cr;クロム、Ni;ニッケル、Mo;モリブテン、V;バナジウム 

 

戦車用装甲板の近似的成分は次のとおりである。すなわち

 C  0.35%  Ni 3.5~3.75%  Cr 1.5%

※C;炭素

 今日の装甲板の機械的特性は抗張力140~200kg/m㎡ブリネル硬度500~550である。この場合の熱処理法は多種多様であり、装甲板の成分によってそれぞれ異なる。炭素の含有量の少ない場合には浸炭法を施すとか、あるいは板の厚さにより表面だけを焼入硬化するか、または全部を焼入硬化する。熱処理法の大体の過程は次のようなものである。すなわち、装甲板の機械的特性に本質的に影響を及ぼす圧延加工の温度は850℃で、次に組成改善のために焼鈍(やきなまし)し、油、水あるいは空気により焼入れ後、焼戻しを行う。

 装甲板は板全体にわたって一様な機械的特質を持っていなければならない。そのためには全ての熱処理過程において1組の板が全部同一の温度に保持されるばかりでなく、1枚の板の各部分がまた同一の温度に保たれねばならない。

 時には2,3の箇所の装甲板は、その形状からいって鋳物を使用する事が必要となって来る事があり、この場合は鋳鋼が用いられる。旋回鏡《※ストロボスコープ》、展望塔、また時には操縦者の防護用湾曲版等は鋳鋼で造られる。鋳鋼の機械的性質は合金鋼に比して劣るが、この短所を厚さを以って充分補い得る様な場合には、上に列挙した様な場所に結構十分使い得るものである。一般的にいって、同一の防弾性を得るためには鋳鋼の厚さは、合金鋼の厚さの2.5%増しにしなければならない。

※この時代の装甲板は小口径徹甲弾に対処するためブリネル硬度500以上の超硬鋼を使用したが、砲弾口径が上がり、硬さではなく粘りによって防護するようになった。

ティーガー戦車やM4シャーマンはブリネル硬度300前後、T-34は400前後であった。

 

装甲板の厚さと配列: 戦車に要する装甲板の厚さもまたその用途と構造上の可能性とから選ばれるものである。一般に戦車の装甲板の厚さは12から55mmないし60mmの範囲内にあるものである。

 イギリスの軽戦車は12mmの装甲板を持ち、徹甲弾及びその破片を十分に防御しえるものである。16t中戦車は22mmの装甲板を持ち、またフランスの重戦車は55mm装甲板を持っている。

 戦車の車体における装甲板の厚さは次の様に配置するのである。すなわち、最も損傷を被りやすい箇所(垂直前面板、側面板)は極めて厚い装甲板で防護し、また最も損傷を受け難い箇所(傾斜したる板、屋根板、底板等)は薄い板にする。

 装甲の厚さを増加した事と同時に、その性質(材質及び熱処理)の改善をした事が現代の装甲板の進歩発達の点となっている。

 板の材料の特性を一層合理的に利用し、また材質も向上し、その上戦車内のあらゆる装置が新しい構造様式のものとなり、また発動機の出力が高まった結果、装甲板の重量の割合(すなわち、戦車の全重量に対する装甲板の重量比%)は増大してきている。これは表1・1によって明らかである。

  

 装甲板の接合法: 接合部は戦車の損傷防止上重要な価値を持っている。接合部に対して与えられる要求は普通の弾丸が命中した時、鉛の飛散物が通過してはならないという事と、残留応力のために亀裂を起こさぬだけの十分の強度をもつものでなければならない。

 現代の戦車には溶接車体とまた鋲絞めの車体とがある。鋲絞車体に比べ溶接車体は次のような欠点がある。

 1) 溶接個所の金質が一様でなく、また面白くない組織が生まれる。

 2) 溶接する時の局部熱応力の結果装甲板に亀裂を生ずる可能性がある。

 溶接車体の特徴と鋲絞車体の欠点は次の諸項の比較から自ら明白となる。

 1) 溶接車体は重量が軽くなる。

 2) 溶接車体は穿孔を要しないから熱処理前の板の硬度を拘束しない。

 3) 鋲絞車体はその壁に弾丸が当たった場合、内部の鋲頭が飛び散り、乗員を損傷させる怖れがある。

 4) 鋲絞車体は生産上高価で、かつ面倒である

※鋲絞車体:鋲接車体(リベット車体)のことである。