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戦車砲弾の区分

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』の「砲弾」(2021年11月8日現在)には砲弾の分類として下記のように記されている。

 

標的に命中した際に弾頭が起爆して破壊をもたらす化学エネルギー弾と、発射時に得た砲弾自身の運動エネルギー(質量、速度)により破壊する運動エネルギー弾とに大別される。

上記分類は対装甲弾(Armor-Defeating Projectiles)に適用されるものであり、一般砲弾の区分ではない。
化学エネルギー弾(CE弾:Chemical energy projectiles)と運動エネルギー弾(KE弾:Kinetic energy projectiles)の区分は米陸軍の野戦教範「戦車射撃(FM 17-12 TANK GUNNRY)」によるものだ。
もちろん、この教範を参考にした陸自教範の「戦車射撃」にも同様の記述があった(現行教範は知らん)。
 
では、どのように記述されているのであろう。
戦車射撃1943年版の戦車砲弾薬には散弾(キャニスター)、徹甲弾()、榴弾()と記されているだけである。
戦車射撃1957年版には化学エネルギ―弾及び運動エネルギー弾の分類が記されている。
 
1957年版の戦車射撃教範によると戦車砲弾は3種類に分類されている。
①対装甲弾(Armor-Defeating Projectiles)
②対人/対物弾(Antipersonnel and Antimateriel Projectiles)
③化学弾(Chemical Projectiles)
 
そして、対装甲弾には運動エネルギー弾および化学エネルギー弾があると記述されているのだ。
【原文】

Armor-defeating projectiles achieve their effect by means of kinetic energy or chemical energy.

運動エネルギー弾の種類

徹甲弾(AP:armor-piercing (shot:ショット))

被帽徹甲弾(APC:armor-piercing capped (APC:エーピ-シー))

高速徹甲弾(HVAP:hyper-velocity armor-piercing (hyper-shot:ハイパーショット)

装弾筒付高速徹甲弾(HVAPDS:hyper-velocity armor-piercing discarding sabot (Sabot:サボ)
 

化学エネルギー弾の種類

対戦車榴弾(HEAT:high explosive antitank (HEAT:ヒート))

粘着榴弾(HEP:high explosive plastic (HEP:ヘップ))

※ちなみにカタカナ名は射撃号令時に使用する呼称である。

 

ちなみに、対人/対物弾には榴弾(HE:High explosive projectiles)と散弾(Canister projectiles(キャニスター))、化学弾には黄燐発煙弾(WP:white phosphorus projectiles (WP or smoke:ダブリュピーもしくは発煙)がある。

このように化学エネルギー弾にはHEATとHEPの2種類しかないのだ。

あくまでも「装甲破壊(貫徹、裏面破壊)」を行うために使用するエネルギーが運動エネルギーなのか化学エネルギーなのかの違いによる分類である。

 

しかも、1978年版になると区分が変更され、化学エネルギー弾はHEATのみで、HEPは対物弾に区分替えされている。

 
「戦車射撃」1978年版による戦車弾薬区分
 
① 対装甲弾(Armor-Defeating Projectiles)
 ・ 運動エネルギー弾:APDS及びAP
 ・ 化学エネルギー弾:HEAT
② 対人弾(APERS:Antipersonnel Projectiles)
 ・ 散弾(Canister projectiles(キャニスター))
 ・ 榴散弾(Beehive projectiles(ビーハイブ))
③ 対物弾(Antimateriel projectiles)
 ・ 榴弾(HE:High explosive projectiles)
 ・ 粘着榴弾(HEP:high explosive plastic))
④ 特殊用途弾(Special purpose projectiles)
 ・ 黄燐発煙弾(WP:white phosphorus projectiles
 ・ 演習弾(TP:target practice projectiles)
 
そして、私が所持しているうちの最新の教範である2005年版の「戦車射撃(エイブラムス)」には 
① 対装甲弾
・ KE弾(運動エネルギー弾):120-mm M829A3及び 105-mm M900
※どちらもAPFSDS
主任務は戦車及び重装甲目標、副次的にヘリコプター目標に使用する。
・ CE弾(化学エネルギー弾) : 120-mm M830A1 [MPAT:エムパット] 及び 105-mm M456A2)
※M830A1はHEAT-MP、M456A2はHEAT
主任務は軽装甲目標、副次的に戦車及び重装甲目標に使用する。
M830A1のエアモード(空中破裂)での主任務はヘリコプター目標である。•
 
② 榴散弾(Beehive)、散弾(Canister)及び粘着榴弾(HEP)は部隊及び野戦築城物に使用する。

③ 黄燐発煙弾 (WP)は地点指示、煙覆及び焼夷任務に使用する。 ammunition is used for marking and screening, and for incendiary purposes.

④ 演習弾 (TP)は実弾射撃訓練に使用する。

 
⑤ 擬製弾(Dummy ammunition)は射撃操法訓練で使用する。
 
と記されている。