月刊パンツァー(PANZER)2020年2月号 特集■74式戦車 | 軍曹!時間だ!…

月刊パンツァー(PANZER)2020年2月号 特集■74式戦車

月刊パンツァー(PANZER)誌2020年2月号

特集■74式戦車(1)

今回が、『74式戦車-その開発とメカニズム』ということで、『74式戦車の開発』と『74式戦車の技術』から構成されている。

 

74式戦車が2021年3月に全車用途廃止になるという。

74式戦車は1975年度から1990年度までに873両納入されている。

初回部隊納入車は1975年9月に納車された7号車、最終車両は1991年3月に納入された879号車になる。

74式戦車の車体番号はSTBで始まる4桁であり、試作車がSTB-0001~0006の6両、量産車がSTB-0007~0879の873両でありSTBの総計は879両になる。

戦車の耐用命数は30年だから来年度(2020年4月~2021年3月)が最終ロットの耐用命数切れとなるわけだ。

 

 今号の記事内容は過去記事(1978年4月、5月号)の焼き直しである。

『74式戦車の開発』が5月号の『74式戦車〈2〉開発の経過と性能』、『74式戦車の技術』が4月号の『74式戦車〈1〉メカニズムと機能』を加筆、修正したものだ。

記載内容を逆転させたのは開発経緯→メカニズムにしたかったのだろうが、元記事がメカニズム→開発経緯の構成なので整合性に微妙なズレが生じてしまっている。

次号(2020年2月号)では、「74式戦車の開発経緯とメカニズムに焦点を合わせる」と記述されているが、今号の記事で開発経緯と、メカニズムが語られてしまっているように思える。語られていない機関及び動力伝達機構(エンジン及びパワートレイン)及び主砲、射撃統制装置などの開発経緯とメカニズムがより詳しく説明されるのであろうか。

楽しみではある。

 

さて、焼き直し記事であるのだが、最近の読者には有難い特集ともいえるので、僭越ながら補足説明をしてみたいと思う。

 

まずは、油気圧懸架装置について

 

27ページ右12行目から

 

 また油気圧懸架装置は最初の計画通り、主砲の府仰角の増大のために採用されたが、この機構の採用は、これらの他に車高の変化による防御上の効果、及び斜面における射撃精度、水田における通行能力にも良い影響をもたらした。

 

過去記事と一字一句違わない記述内容である。

文章的には赤字で示した「これらの他に」「主砲の府仰角の増大」という1項目にしかかかっていないので「この他に」だな。

そんな事よりも内容が間違っている。

 

32ページからの『74式戦車の技術』に記載された「油気圧懸架装置」の記事でも油気圧懸架装置の最大のポイントとして「車体の姿勢を自由に調節できる」としている。

しかし、記事内容は本来の油気圧懸架装置の事ではなく、油気圧懸架装置を利用した姿勢制御装置の説明となっている。したがって、油気圧懸架装置を「他の戦車が採用しなかった理由はなんなんだろうか。」(36ページ)という疑問も出るのであろう。正しくは「姿勢制御装置を採用しなかった理由」なのである。ここら辺をちゃんと理解して居れば韓国のKシリーズ戦車が姿勢制御を採用している理由も納得できるであろう。

 

上記に続く「油気圧懸架装置のスペースについて」以下の記述がある。

 

スペースについては次のようにいえる。74式の油気圧懸架装置に関連する装備を全部外せば、主砲弾がさらに10発くらいは積める(通常の搭載弾数は51発)

 

根拠はなんだ?

主砲弾が搭載できるほどのスペースは空かないぞ。

懸架作動油タンクが無くなっても主砲弾を搭載できる程のスペースは出来ない。

砲塔バスケット下のアキュームレータ(窒素ガスが入ったボンベ)が無くなっても、トーションバー懸架にしたら、やはり主砲弾のスペースは取れないばかりか、車体弾薬架下にトーションバーが入ることで主砲弾数が減少する。操縦席の位置が上がり居住性が悪化する。更に機関室下部にもトーションバーが横断するのだからパワーパックの位置が上がる。つまり、機関室容積が増すという事を示し、必然的に重量が増大するのだ。

画像は74式戦車油気圧懸架装置の油圧及び電気系統図であるが、この図を見ると油気圧装置がかなりのスペースを取っているように見える。

だが、騙されてはいけない!!

この図は分かりやすいように大きくデフォルメされて描かれている事に注意だ!

 

ちなみに、(通常の搭載弾数は51発)、これは間違い。

「薬室に1発入れて計51発」みたいなことだと思うが、そんな理由だったら「装填手が1発持って52発」更には「装填手が1発持ちながら1発足で踏んで押さえれば53発」、「装填手が1発持って弾薬箱(2発入り)の上に載って54発」とかになってしまう。

 

話を元に戻そう。

 

奇しくも1978年には月刊誌であった戦車マガジン5月号でも『74式主力戦車』の特集記事が組まれている。著者は61式戦車の開発官であった元陸将の近藤清秀氏である。

近藤氏によれば油気圧懸架装置の特性として以下のように記している(記事の要約)

① トーションバーにくらべホイル・トラベル量(転輪上下動量)の増大

② ばね特性が非線形であり、優れたばね特性を有する

③ 油圧回路に絞りを入れることでショック・アブソーバーを必要としない

 

 上記によりトーション・バーに比べ各段に懸架性能が向上し、乗り心地の改善と路外速度の高速化が可能と記し、この機動性能の向上に加え、油圧回路の油量を加減できる機構(姿勢制御装置)を備えれば姿勢変換が容易に可能となり、更なる機動性能の向上と射撃性能、防御性能の向上が図れるとしている。

 

 しかし残念なことに近藤氏も「油気圧懸架」=「姿勢制御」という記述になってしまっていることだ。これは、当時、油気圧懸架と言えばスウェーデンのStrv103戦車(Sタンク)及びアメリカと西ドイツ(当時)が共同開発していたMBT70の油気圧懸架が姿勢制御を採用していたことにある。

本来のトーションバーに比し優秀な性能の懸架装置であるはずの「油気圧懸架」が「姿勢制御用の懸架」という図式になっていたのだろう。

当時であれば、状況から止むを得ない記述といえよう。

しかし、現在の主力戦車ではイギリスのチャレンジャー戦車、フランスのルクレール戦車は油気圧懸架装置を採用しているが姿勢制御機構(姿勢制御装置)は有していない。姿勢制御装置付きの油気圧懸架を搭載した主力戦車は日本と韓国だけであり、姿勢制御装置は油気圧懸架装置の付随装置と捉えるべきであろう。

 

結論として、姿勢制御装置付き油気圧懸架装置の採用は技術的困難を有するが、戦車のコンパクト化と火力・機動力・防御力の戦車三要素の向上が出来る事から必要とされた装置であり、国産戦車の必須条件であるコンパクト戦車の実現として、後継戦車の90式及び10式戦車にも採用する必要があったのである。

 

なお、30ページに掲載された姿勢制御状態の写真キャプション「(前略)駆逐戦車的運用に最適化する上では避けては通れない技術であった」は、言語道断である。

どう見ても駆逐戦車の外見をしたスウェーデンのSタンクも同様であるが、機動打撃が主任務の「主力戦車」であり、待ち伏せが基本の駆逐戦車とは運用が異なるという事を声を大にして言いたいが、聞こえないので字を大きく目立つ色にしてみた。