戦車のサスペンション(その14)クリスティー式サスペンション②
Tー34はクリスティー式ではないと述べた。
ではT-34のサスペンション形式はなんであろうか?
勿論「コイルスプリング(蔓巻ばね)」である。
懸架方式は独立懸架だ。
「コイルスプリング(蔓巻ばね)独立懸架」
と、断定しよう
そもそもT-34戦車のサスペンションは
クリスティー式だと
誰が言い出したのだろう?
M1931クリスティー戦車をフルコピーしたのがBT戦車である
従ってBT戦車は誰が何と言おうと
クリスティー式サスペンションだ
余談だがM1931は米陸軍において
T3中戦車(Medium tank T3)として試験されている。
Christie M1931
戦車部隊(歩兵)にはT3中戦車
騎兵部隊にはT1戦闘車として試験採用
ところが、T-34はどうだろうか?
T-34はBT戦車の後継戦車だ
見た目の足回りは同じだからクリスティーなのか?
そこで、識者の見解を見てみる
月刊紙であるグランドパワー2018年11月号
先月発売されたものだが特集は
「ソ連軍T34戦車(5)」著:斎木伸生
以下の記述がある。
37ページ
走行装置
■クリスティ式走行装置
(前略)
“もう一つしばしば誤解されるのが、上部支持転輪を廃して大直径転輪としたものだが、これはクリスティの専売特許ではなく、またクリスティ式の本質ではない。”
(後略)
うむ、まっとうな一般的見解である。
しかし「走行装置(Runnning Gear:ランニングギア)」としては
それらすべてが「クリスティー」というのが
専門家の見解なのは以前に述べたとおりである。
サスペンション(懸架装置)としてみた場合はどうであろうか?
前記事の斎木さんは以下のように
本質を記述している
”クリスティ式の特徴と言うべきは、この大直径転輪を独立してアームで支持して、ストローク長く縦置きのコイルスプリングで縣架したことである。これにより高い地形への追従性を発揮できた。”
まとめるとクリスティ式の本質は以下の3つになる
① 大径転輪
② 独立懸架
③ 縦置きロングコイルスプリング
この定義だとT-34はクリスティー式と言える
ところが、その後の記述がとんでもないのである
”そして、クリスティ式サスペンションは、その性能が優れているというだけではなく、その構成パーツの多くが車内に収められ露出していないため被弾による損傷を受けにくい。同じく泥や雪が詰まりにくいといったメリットがあった。”
・・・・・・・
クリスティ式って外部サスペンションだよ
最初はむき出しにスプリングが付いてたので
アメリカは当初
「そんな脆弱なサスペンションは戦闘車両として受け入れできない」
ということで、陸軍への納入を可能とするべく
スプリングを防護する外部装甲板をつけたのだ
BT戦車もイギリスのクリスティーサスペンションの戦車も
戦車内部には走行装置は無い
外装式で、その外側を装甲板で覆っている
T-34は第一転輪は車内配置になっているが
第2から第5転輪は車内に食い込む装甲ケースが作られ
ケース内にスプリングが入る形式の外装型である。
当然のことながら、そのスプリングは装甲板で覆われているため
スイングアームの稼働範囲は装甲板が切られており
ケース内には泥や雪がぎっちり詰まる仕様だ
38ページに
”このためアームとコイルスプリング接続のため、装甲板が弧状に切り欠かれていた”
と、ご自分で記述しているのに
どうした訳であろう?
ではクリスティーが特許としたサスペンションの本質とは何か
特許に書いてあるな
① スーパースプリング
② 独立懸架
どこにも「縦置きロングコイルスプリング」
とは書かれていない
つまり、独立懸架でバネ能力が高い
スーパースプリングであれば
コイル(蔓巻き)
リーフ(板)
ボリュート(筍:タケノコ)
トーションバー(ねじり棒)
いずれのバネでも「クリスティー」の特許に抵触するといえる
単に、コイルスプリングの使用例が図として掲載されているだけなのだ
縦置きなのもスイングアームの稼働によるスプリングの
横移動が最も少ないのが垂直に近い位置
であるだけだ。
また、
スイングアームの中央付近にバネとの接合点を設けることで
長いコイルスプリングをスーパースプリングとしている
つまり、当時はコイルスプリングでしか
スーパースプリング
として採用できなかったのである
イギリスのクリスティー式サスペンションの
コイルスプリングの装着方法は
スイングアームにベルクランクを使用するので
斜めに配置され車高が高くなるのを防いでいる
縦置きではない
そもそもM1931クリスティー戦車自体
第1転輪のバネは水平である
ドイツのパンター(Panther)戦車に採用された
ダブルトーションバー方式が
トーションバーを使用したスーパースプリングと言える
トーションバー全てが高性能なのではなく
パンターが使用したダブルトーションバーが高性能だったのだ
パンターのサスペンションは
スーパースプリングの独立懸架方式なので
本質的にはクリスティーサスペンションと言える
しかし、この本質による分類には大きな問題がある
現用戦車は、ほぼクリスティー式
になってしまうのである
T-34はスプリング取り付け位置から
バネ長さがBT戦車と同様であれば
バネ能力はテコの原理で半分となてしまう
これでスーパースプリングと言えるのだろうか?
各転輪のバネ取付位置は
アーム先端に取り付けられる
ロングスプリングの効果を減じている
第1転輪のバネ取り付け位置
問題のは無いアーム中央付近である
しかしバネ長が短いのである
よって本質的には
T-34のサスペンションは
クリスティー式では無いという解釈も成り立つのだ
屁理屈?