生存性(メルカバ基本理念) | 軍曹!時間だ!…

生存性(メルカバ基本理念)

コンセプト(concept)は本来「概念」であるが、「基本理念」としての使い方があるので「メルカバのコンセプト」は「メルカバの基本理念」と考えるのが妥当であろう。

中東の小国イスラエルにとって人的損害こそが著しい戦力低下をもたらす。

仮に戦車を無制限に作れるほどの能力があっても、それを使う戦車乗員がいなければただの鉄の箱に過ぎない。

 

つまり、戦車設計において「人命確保」を最優先とした高い「生存性」が求められるのだ。

 

そんなのは全世界共通だという意見もあろう。

実際、人命を軽視した戦車設計は無いといえる。

相対的に見た場合に「軽視してる」ととられる場合もあろうが、基本的には戦車設計の基本理念自体が「人命確保」なのである。

問題は何をもって「人命確保」が行えるかの手段の差異と言えよう。

メルカバ戦車開発時の西側主力戦車は第二世代主力戦車がであり、重装甲戦車(重戦車ではない)と軽装甲戦車(軽戦車ではない)に大別できる。前者はイギリスのチーフテン戦車であり、アメリカのM60パットン戦車である。後者は西ドイツのレオパルト1戦車、フランスのAMX30戦車が該当する。

世代間戦車とか2.5世代戦車と呼ばれる我が国の74式戦車も「軽装甲戦車」に該当する。

イスラエルは第3次中東戦争までの戦訓から「機動力は装甲防御力を補いえるものではない」との結論に達し、当時の西側戦車設計思想の戦車(軽装甲高機動)ではイスラエル国防上十分ではないと判断した。

結果的には第3世代戦車が全て重装甲になっていることを考えるとイスラエルの戦車設計理念は間違っていなかったといえる。

 

戦訓により明確化されたイスラエルが求める戦車像は「撃たれ強い」戦車である。

当時の西側戦車との大きな差異は「歩兵携行対戦車火器からの全周防御」といえよう。

レオパルト2やM1エイブラムスは真横からのRPG-7(40mm対戦車擲弾弾発射筒)の標準弾頭(弾頭直径85mm、貫徹量約300mm)に貫徹される恐れがあり、事実M1エイブラムスは射撃を受け貫徹されている。

 

さて、「人命確保」がメルカバの設計理念である。

概ね次の要素で「人命確保=生き残り性」を達成している。

 

【生存性】

・乗員防護を最優先にする

乗員を戦車中心に置き、戦車に使用される全ての機材、機器等で囲み乗員防御の疑似装甲材とする。

・動力装置(エンジン・ミッション)を前方に置き装甲として使用するとともに車体後方に扉を設け速やかな出入りを可能とする。

・車体弾薬架を外すことにより、乗員以外の人員(武装兵、負傷兵)の輸送・回収が可能

・しなやかな足回りと広い居住空間(戦闘室)がもたらす快適性による高い戦闘維持能力

 

【機動力】

ロングストローク・コイル・スプリングによる独立懸架を採用

戦場機動力を追及し路上最高速度と、路外最高速度はほぼ同じ

しなやかな足回りにより路外機動における乗員の疲労を軽減

 

【火力】

・105mm砲にすることによる生産・整備・補給性及び教育などの利便性の追求

・新砲弾(APFSDS)の開発により120mm滑腔砲に匹敵する威力の付与

・交戦距離において十分な精度を有する射撃統制装置の搭載

・砲身歪みを積極補正することによる命中率の向上

 

【防御力】

・全周に多重空間装甲を採用

・空間にあらゆる素材を組み込む「スペースド・アーマー構造」による防御力の向上

・砲塔は前方投影面積を少なくすることにより、被発見率を減らすとともに被弾率を減少

簡単ではあるが以上の要素により生存性を達成している。

次回は【機動力】について細部を述べたい。