戦車の操向装置(ガク引き) | 軍曹!時間だ!…

戦車の操向装置(ガク引き)

防衛技術ジャーナル2012年3月号の特集に「戦車の操向変速機(61式~10式戦車の変速と旋回のしくみ)」という記事がある。「国産防衛装備品 研究開発ものがたり」の10式戦車特集として書かれたものだ。

著者は山田 晃也という方で「防衛相技術研究本部陸上装備研究所システム研究部技術分析官」という長い肩書を持っている。

 

さて、この記事内で「ガク引き旋回」という文言が出てくる。

 

戦車乗員の方で、この「ガク引き旋回」なる言葉を聞いた、もしくは使っていた方はおられるのだろうか?

 

少なくとも私は聞いたことはないし、むろん使ったこともない。

 

一応、61式及び74式戦車の多角旋回操向方法を「ガク引き旋回」と仮称している。

 

まあ、仮称だからあくまでも当該文を分かりやすくするためだと思うが、この記事を読んで「74式戦車の操向は『ガク引き』するんだ」と思われても困る。

 

そもそも「ガク引き」とは行ってはならない操作のはずだ。

 

有名どころでは銃の引き金操作だな。

 

「ガク引き」、一気に引き金を引くと命中しないアレだ。

素早く射撃任務を達成するためには速く引き金を引かなくてはならない。

だからと言って「ガク引き」になってしまうのはご法度だ。

操向操作についても同じだな。

 

操向操作における「ガク引き」については、戦後日本戦車界の重鎮である林磐男さんも著書の「タンクテクノロジー」に以下のように記述している。

 

「したがってこの現象を防止するには操向レバーを思い切って迅速にめいっぱいに引くことである.しかし,その結果として急激に旋回する,いわゆるガク引き現象となる.」

 

日本帝国陸軍の九五式軽戦車

中戦車とは異なり軽量化のためにクラッチブレーキ操向方式を採用している。

 

 

文中の「この現象」とは、クラッチブレーキ操向方式の欠点である「逆操向」を指す。

逆操向とは降坂時(坂を下っているとき)に通常の操向操作を行うと逆方向に曲がってしまう現象だ。

この現象(逆操向)はエンジンブレーキがかかった状態のときに通常の操向操作(一般的には操向ハンドルレバーをわずかに引く)を行うと発生する。

 

逆操向は危険であるが、だからと言って急激に旋回する危険な「ガク引き」を起こしていいのか?林氏の記述の裏には「思い切ってめいっぱいに引くけども、ガク引きになってはならない」と解釈すべきではないのだろうか。

 

この操向方法は自動車のブレーキ操作に例えられる。

坂道で速度を維持する場合、ブレーキペタルを浅く踏みっぱなしでもブレーキが焼けるから駄目だし、かといってガク引きよろしく思いっきり踏む者はいないだろう。

数回に分けたポンピングブレーキを行う。

このポンピングブレーキと同様の操作が操向においては「多角旋回」という現象になるのである。

 

我々は「短切に数回引け」と教わった。

ちなみに

「短切(たんせつ)」って漢字変換しないので一般的な用語じゃないんだと、知った。

 

なお、旋回時にガク、ガクとなることから「ガク引き」と呼ぶようになった。という話もどこかで読んだが、これは後付けだと思う。ガク、ガクとなるような旋回方法は「へたくそ」なだけだな。

 

操向操作ではないがブレーキがらみで苦言を一つ

ガッツンブレーキが流行っているようだ。

私が現役のころは90式戦車のガッツンブレーキをいかに柔和に止められるかを競ったものだが、AAVですらヒップアップさせるブレーキングって現職操縦手は「操縦ヘタなの?」