安穏雲♨️
「喫茶 ignoto 。」
3階建の樽のような変わった形のビルの1階は喫茶店だった。
カフェではなく喫茶にしているところが蔵人は嬉しかったが開店は未だのようだ。
『なんて読むの?』
『イグノート。イタリア語で「未知の」「知られていない」「不明」みたいな意味』
3F 安穏雲♨️
2F UNKNOWN
1F 喫茶 ignoto 。
『全部イグノートと同じ意味だよ。
二階はまだ工事が終わってないんだ。
今日は三階の安穏雲♨️に行くよ。』
三階に上がると"安穏雲♨️"と書かれたドアがあった。
『どうぞ』
杉井がドアを開け蔵人を促す。中に入るとロゴマークのような模様が書いてあった。何だかちょっとモヤモヤする。
ロゴマークの傍まで行くとモヤモヤがピークに達し立っていられなくなりそこにあった椅子に座り込んだ。
座ると同時に頭上が明るくなり低く唸るような音が聴こえてきた。
その音と光を浴びた途端みるみる回復していった。
『なにこれ❓️』
蔵人が尋ねると杉井は左を向いて前方の壁を指差した。そこには全く同じロゴマークがあったが今度はモヤモヤではなくむしろ清々しい気分になってきた。

『詳しい説明は中に入ってからするよ』
杉井はニヤニヤしながら歩き出した。蔵人も続いた。少し歩くと同じロゴマークがあった。どうやら回廊になっているようだ。四つのロゴマークはドアに書いてあった。蔵人は上機嫌で中に入った。
中に入ると上がり框があった。
『靴と靴下は脱いであがってね』
『靴下はここ』
杉井が小さな引き出しを開けると中が緑色に光っていた。
『帰るまでには別物になってるよ』
(別物❓️足袋❓️それとも…)
『今の状態をよく憶えていて』
杉井は微笑みながら、上がり框を上がり引戸を開けた。
そこは密林だった。
密林の中心には円形の小さな池があり池を囲むように座り心地の良さそうな椅子が置かれていた。
『なるほど足湯か』
蔵人は納得した。
『どうかな…好きなところに座ってみて』
と言いながら杉井は指を鳴らした。
すると低い音が鳴り出し池が光り出した。
蔵人の右足が池に触れた。
『あっ❗️』
足湯のつもりで足を入れてみると少し反発しながらめり込んでいく味わったことのない感覚に思わず声を上げてしまった。
『びっくりした❓️…でも気持ちいいだろ』
杉井がしたり顔で言った。
確かに気持ちよかった。
足を入れた瞬間は違和感があったが池の底に足が着くと圧力が微妙に変化しながら全てのツボを千本の指でいっぺんに押されている贅沢な気持ち良さ、千手観音を一人占めして申し訳ないような誇らしいような…とにかくこの上なく気持ち良かった。
『これ何❓️』
蔵人が聞いた。
『簡単に言うと、水に特殊な周波数の音と光を当てているんだ。
さっきクロちゃんが椅子に座って浴びていた音と光もそうなんだ周波数は違うけどね
それからあの絵は自分の中の諦めてしまった本当の夢や気付いていながら封じ込めてしまった才能を思い出させる働きがあるんだ。』
『じゃぁさっき俺が体験したモヤモヤが夢や才能だったっていうの❓️』
杉井は頭を振った。
『そうではなくて人はそれぞれ自分にとって安心し、ストレスを感じずに快適に過ごせる心理的な領域を持っていてそこから外に出そうになると脳の働きによって自動的に引き戻されるんだよ。
たとえば大きな夢を抱いた時、脳はそれを実現した世界を瞬時に予測して今の居心地の良い領域から逸脱しそうだと判断にすると全力で実現させないプログラムを組んで引き戻そうとするんだ。
モヤモヤは夢から目を逸らせるために起こる。
だからあの音と光で引き戻そうと掴んでいる手を離させる』
『脇の下をくすぐったりして❓️』
蔵人がチャチャを入れる。
『クロちゃんはどういう状態かというと』
『夢の世界にいる……いやぁそんなもんじゃない本当の自分創造主の世界』
『そしてここに集まる人たちも創造主』
『それぞれの宇宙の王や女王が集って情報を共有するんだね』
蔵人は杉井の言いたいことがわかったのでスラスラと代弁した。
『ここで情報を共有した人が元の居心地の良い領域に戻ってしまったとしても、本当のその人はいつもこの世界にいるから、この世界に戻ることができれば、新しい情報を共有し協力して居心地の良い領域ごと引き上げることも出来るわけだ』
『銀色の巨人と赤い服の女性の情報を持っている人はネットワーク内にはまだいないようだ』
『・・・・』
『・・』
『・・・・・』
いつの間にか二人の会話は頭の中のやりとりになっていた。
つづく




