井上尚弥とBCP | よしなり行政書士事務所 よしなり経営コンサルタント事務所

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 2024年5月6日、東京ドームに衝撃が走った。あの井上尚弥がダウン?! 誰もが、あのマイクタイソンの悪夢を彷彿としたことだろう。でも、結局、最後は悪魔(ネリ)といっしょにドームの魔物も退治してしまったわけだけど。

 そして、改めて井上尚弥の凄さを痛感させられたわけだが、中でも専門家たちが挙って舌を巻いていたのが、あのダウンを喫した際の立居振舞だった。片膝を立て、カウントエイトまでしっかりダメージを抜き、残り約1分間を巧妙にディフェンスして1ラウンドを凌ぎきった点が絶賛されていた。井上にとって人生初ダウン。普通は、冷静になれず、焦ってすぐ立ち上がってしまうもののようだが、彼は初めての経験にもかかわらず、お手本のような対処ができていた。もし、すぐに立ち上がってしまったら、ダメージを回復できず、マイクタイソンの二の舞にもなっていたのかもしれない。

 なぜ、井上はそれが出来たのか。それは、彼が、自身の強さに驕らず、そういうこともありうることを想定して準備していたからに他ならない。そのような場面を想定して、イメージトレーニングを欠かさなかったからこそできた離れ業で、日頃の準備の賜なのである。

 このことは、企業経営にも通ずる話である。この場合、ダウンは被災であり、イメージトレーニングに当たるのが、事業継続計画、いわゆるBCPである。誤解してほしくないのだが、BCPは防災とは一線を画すものである。防災というのは、災害が起きても被災しない、つまりダメージを負わないようにする取組であって、いわばダウンしないための取組である。建物の耐震構造を改善するとかは、しっかりガードしてパンチのダメージを軽減するようなことに似ている。そうではなく、BCPは、ダウンしないようにしっかり防御していてもそれでも喫してしまうダウンからどう立て直すかという話なのである。被災が前提であり、ダメージを負うことを前提とするものである。防災に絶対はなく、被災するときは被災する。そうなったときでも、為す術なく経営を諦めるというわけにはいかない。事業を立て直して、経営を継続しなければならない。そのためには、事前の準備が必要で、それこそがBCPである。

 井上は、次の第2ラウンドには、ダウンを取り返し、イーブンにしている。そこから完全にペースは井上。あのダウンシーンでは、井上の敗北、あるいは長期戦も頭をよぎったが、第6ラウンドにはもうネリは二度と立ち上がることはなかった。この早期決着も井上のあのダウン後の対応力が無関係ではない。初動がうまく行ったお陰で、立て直しがスムーズに進んだのだ。BCPでは再開の早さが何よりも優先される。競合より先に立て直した方が勝ちであり、その後の勢力図を塗り変えることにつながる。準備を怠らず、計画通りに遂行するが、より重要になる。

 度重なる災害、感染症の経験、紛争の影響など企業経営も未曾有の危機が訪れる時代に突入している。想定すべきピンチがあり、日頃の準備が不可欠になってきている。企業が末永く生き残るための強固な経営基盤には、BCPも不可欠な要素となる。井上尚弥も階級を上げるにつれて、段々簡単には勝たせてもらえなくなってきている。そんな中で、またこれまで経験したことのないようなピンチに見舞われることも増えるだろう。だが、そういったことも想定に入れながら準備を怠らなければ、いらぬ心配は杞憂となるだろう。