7月27日の「超RIZIN4真夏の男祭り」では、クレベルコイケとのリベンジマッチにスプリット判定で辛勝した朝倉未来さんですが、格闘家としてはまだ未知数の頃からYouTubeで成功し、それに留まらずBreakingDownというまったく新しい格闘技イベントを企画、主催し、あっという間に大ヒットイベントに仕立て上げ、いまでは他の格闘技イベントの追随を許さないコンテンツになっています。とやかく言う向きもありますが、この事実はまったくもって朝倉未来の類い希なる経営手腕の証明と言って差し支えないでしょう。
本当は暴力が好きな世間
BreakingDownは優れたビジネスモデルだと思っています。はっきり言って、格闘技のレベルは箸にも棒にもかからないものです。少なくとも最初は。チンピラの喧嘩です。でも、世間はそれが大好物なんですよ。「暴力は絶対いけない!」なんて言ってますが、それなら何で「東京リベンジャーズ」なんて映画がヒットするんですかね。「日和っている奴、いねぇよな!」の台詞に興奮した紳士淑女も多かったでしょう。私なら間違いなく日和りますけどね。話がいささか脱線しましたが、朝倉未来はそれに気づいていた。自身も少年院経由のかのアウトサイダーの出身で「路上の伝説」ですからね。世間の真のニーズ、インサイトをよく理解していたわけです。
オーディションで集客、ペイパービューで収益
でも、彼が経営者として優れている点、そしてBreakingDownが優れたビジネスモデルである最大のポイントは他にあります。現在、ボクシングも含め格闘技イベントはほぼネットで配信、放映されています。いわゆる地上波は皆無です。このネット放映で有効な収益手段がペイパービューです。この仕組みにより会場に行かない閲覧客からも同等のチケット代が支払われます。商圏は、全国規模、いや世界規模になりますから、うまく行けば、莫大な収益を産みます。ところが、日本の格闘技イベントでこの制度を採用できるのは、最大手のRIZINとBreakingDownだけなのです。有料ですから、有料でも見たいと思われないと誰も見ないということになります。それが怖くて、他の団体はペイパービューに踏み切れないのです。それなら、無料放送でみんなに見てもらい元締めからの放映料だけ確実に確保した方が賢明と考えています。最大手のRIZINについては有料でも見たいと思われたとしても当然かも知れませんが、そのような背景があるなか、なぜ得体の知れないBreakingDownまでがペイパービューを採用でき、そのうえで圧倒的な視聴を稼げているのでしょうか? この秘密こそが、朝倉未来の経営者としての才覚の真骨頂ではないかと考えます。その秘密は、あの評判の悪いオーディションにあります。オーディションについては、無料で誰でも視聴できます。それは、はっきり言って見るに堪えない暴力沙汰、醜態ですが、人は下らないと思っていても、怖い物見たさというか、野次馬根性というか、あるいはカリギュラ効果か、ほんの好奇心で覗いてしまうものです。そこには目を覆いたくなるような光景しかありませんが、その顛末は試合、つまりペイパービューでしか確認できません。オーディションを見た人は、最初は本戦まで見る気はなかったとしても、ツイガルニク効果で頭から離れなくなり、気になって仕方がなくなって、ついついペイパービューを買ってしまうのです。そして、本戦まで見た人の多くが嵌まっていくわけです。その理由としては、1分という短時間だからこその激闘が面白かったということもあったのかも知れませんが、それよりそのオーディションからの顛末に物語性を感じたからということが大きいように推測します。飽くまで推測です。だって、私は見てないんだもん。また、これも人の心理なのですが、自らの意思をもって有料で見たことで、その行為を正当化するため、いいものだと思おうとする自己正当化バイアスがかかっているという側面もあると思います。
いずれにせよ、あの悪名高きオーディションが成功の鍵だと思っています。私は、常日頃、プロモーション戦略の重要な視点として、集客と収益を分けて考えるように助言しています。売りたいものを直球で宣伝するのではなく、集客のためだけの仕掛けを作り、集まってきた見込客に対し効果的な方法で売りたい商品を売り込んでいくという段階を踏んだプロモーション戦略の視点です。集客の仕掛けとは、具体的には、セミナーや見学会・体験会、ショールーム、あるいはトライヤルユースなんかもこれに当たります。要は、その商品や事業者自身の魅力を端的に伝えたり、知ってもらえる機会にするなどで購買意欲を最大限に膨らませる仕掛けです。ポイントは、明らかに需要があって引きがあること、顧客にとってコストや労力が少なく低リスクであること、そして顧客の警戒感を解く後腐れの無さです。このような集客の仕掛けが構築できれば、多くの見込客を獲得でき、そしてその見込客は言葉は悪いですが飛んで火にいる夏の虫で、フット・イン・ザ・テクニックよろしく飛び込んできた時点でもう購買へと一歩も二歩も近づいていますから、多額の広告宣伝費を費やして営業するより、効率的に売上を伸ばすことができます。もうお気づきかと思いますが、BreakingDownで言うと、無料視聴できるオーディションこそこの集客の仕組みであり、これで煽るだけ煽って懐疑的な見込客をペイパービューの本戦へと巧妙に誘導しています。
人気コンテンツの好循環
BreakingDownが人気コンテンツになったことで、副産物も生まれています。それは、実力についてはクェッションマークがつくにもかかわらず、参戦している選手たちも大スターになっているということです。そして、そこにスポンサーもついて、プロと呼ばれる格闘家たちのほとんどが別に仕事も熟しながらその合間を縫って練習に勤しんでいるのに対し、BreakingDown組はスポンサーの支援のもと左団扇で格闘技に専念できるわけです。その結果、素人と思われていたBreakingDown戦士にプロの格闘家がしてやられるという逆転現象が起きているのです。ますますBreakingDownの価値が高まるという好循環が生まれています。朝倉未来が、ここまでを見据えていたかはわかりませんが、だとしたら恐ろしいまでの洞察力ではないでしょうか。
格闘技界隈からそのポテンシャルを買われて格闘技への専念を熱望されている朝倉未来さんですが、格闘技以上に経営者としてのポテンシャルの方が高いと思っちゃうのは私だけでしょうか? もしかしたら逆に格闘技選手はこれぐらいで切り上げて経営に専念する方をお勧めする経営者界隈の方も少なくないのではと思っちゃいます。いずれにせよ、才能に恵まれていることは羨ましい限りです。本人にとっては悩ましいのかも知れませんが、これと言って取り柄のない私には及びもつきません。とっとと引退しちゃえよ!