前回の記事「ヴォーカルや演奏者の実演家人格権とは何か 」において、楽曲をCDにするために行われるヴォーカルの歌唱や演奏者の演奏のレコーディングの際に発生する権利の一つ、実演家人格権の内容を確認及び整理しました。




今回は、ヴォーカルや演奏者、すなわち実演家による実演によって発生する権利の中核をなすものである、著作隣接権について確認及び整理をします。










【著作隣接権も複数の権利の集合体】



著作隣接権は、いわゆる著作権とはまた別の権利になるのですが、性質的にはわりと著作権に近い権利になります。著作隣接権は、著作権と同様に、複数の権利の集合体となっており、その権利の内容も著作権と同じような権利がいくつかあったりします(譲渡権や貸与権等)。




そうした著作隣接権とは、具体的には次の権利の集合体となります(括弧内の条文番号はいずれも著作権法の条文番号となります)。




① 録音権及び録画権
「実演を録音し、又は録画する権利」(91条第1項)

② 放送権及び有線放送権
「実演を放送し、又は有線放送する権利」(92条第1項)

③ 送信可能化権
「実演を送信可能化する権利」(92条の2第1項)

④ 譲渡権
「実演をその録音物又は録画物の譲渡により公衆に提供する権利」(95条の2第1項)

⑤ 貸与権
「実演をそれが録音されている商業用レコードの貸与により公衆に提供する権利」(95条の3第1項)




ヴォーカルや演奏者等の実演家は、自分の実演(歌唱や演奏等)について、上記の①~⑤の権利(著作隣接権)を取得することになります。




上記の①の権利(録音権)によって実演が録音されてCD化されます。そして上記の④の権利(譲渡権)によって、実演が収録されたCDが市場に流通します。また④の権利と併せて③の権利(送信可能化権)によって、インターネット等を通じて実演が収録された音源をもとに音楽配信をすることができます。⑤の権利(貸与権)によって、TSUTAYA等のCDレンタルショップを通じて実演が収録されたCDのレンタルが行われます。




尚、著作隣接権は、著作権と同様に譲渡することが可能な権利です。よって、実務上は、各実演家の実演によって発生する著作隣接権は、その楽曲のCDを製造・販売するレコード会社に、契約(専属実演家契約又は原盤制作契約等)に基づき権利が譲渡されることが一般的です。そしてレコード会社はそうした権利譲渡の対価として、実演家に対してアーティスト印税(CD売上の1%~3%ぐらい)を支払うということになります。




アーティスト印税という用語自体はいくらか聞く機会がありますが、このアーティスト印税は、実演家による実演と、その実演により発生する著作隣接権等の権利の譲渡に対する報酬というような位置づけとなることが一般的です。



但し、実際は全ての実演家に対してアーティスト印税が支払われるのではなく、そのCDの発売名義アーティスト(「HONEY」で言えば「L'Arc-en-Ciel」さん)に対して支払われ、その他のバックミュージシャン等の実演家に対しては、単に演奏に対する報酬として一定の固定金額を支払う、というような形がわりと一般的であるように見受けられます。




レコード会社は、譲渡された著作隣接権に基づき、上記の①~⑤の権利を行使することになるのです。









ということで、今回に至るまでに、作詞・作曲・編曲をすることで発生する権利関係を整理して確認をし、そこからヴォーカルの歌や演奏者の演奏をレコーディングする過程で発生する権利というものを順次整理して確認しました。




但し、レコーディングにより発生する権利は実はこれで終わりではなく、いわゆる原盤権という権利がまだあります。よって、この原盤権についても確認及び整理をしていきたいと思いますが、ここまでの内容を書いていくだけで少し疲れましたので、一旦閑話休題し、これまでよりはいくらか気楽に読めるようなものを書いて、その後に原盤権について詳しく確認及び整理をしていきたいと思います。





とりあえず次回は、これまで確認及び整理をした権利が実務上、どのように取り扱われるのかということを確認する意味でも、ヴォーカルや演奏者等のいわゆるアーティストが、プロダクションに所属する際にプロダクションと取り交わす契約がどういうものなのか、ということを書いてみたいと思います。




次回「アーティストがプロダクションに所属する際に交わす契約 」につづく




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