お仕事でホンダCBR600RRのお相手をしました。
こちらのバイク、中古購入されたらしいのですが、具合があまりヨロシクないらしい。
ご依頼の内容は、調子が悪くなると、
・フューエルポンプが回らなくなる
・ヘッドライトが薄暗く点灯する
・テールのウィンカーが左右同時連続点灯する
しかも、フューエルポンプが回らない時に、ヘッドライトバルブコネクタ
配線を外すと、フューエルポンプが回るらしいのです。
ショップに修理を依頼した時に、異常と思われるバッテリーや、
フロント廻りのサブハーネスを交換したけど、症状は改善しなかったん
だとか・・・
複数個所が同時に不具合になるのは、電源電圧が原因となる事が
多いので、当初はバッテリーの性能かとも思い、お客様に質問しましたが、
バッテリーは取り替えていて、リチウムイオンなどに変えているって
事もなく、純正同様のMFバッテリーです。
では調べて行きましょう。
バッテリーがあるシートと、ヒューズ関係がある左ミドルカウルを
外します。
まずはセオリー通りバッテリー電圧から。
・メインスイッチOFF 12.6V
・メインスイッチON ライト配線接続 12.2V
・ 〃 ライト配線切離し 12.3V
特段異常なし。
続いてミドルカウル内のヒューズ確認 大丈夫 切れてない。
フューエルポンプが回らない原因調査で、フューエルポンプを駆動するフューエルカットリレーは? → 不動作!
配線図を見ると、すぐ隣のエンジンストップリレーが黒/白線の電圧をコントロールしています。
エンジンストップリレーは不動作 → だからフューエルカットリレーが
動作しない。
エンジンストップリレーは、アッパーカウル内のバンクアングルセンサーからの信号で動作します。
このセンサーはバイクの転倒を検知して、コケたらエンジンを止める
回路です。
今度は、この状態でもライト電球配線を外すと、フューエルポンプが
なぜ回るのか? です。
バッテリーのマイナス端子間で、フューエルカットリレー黒線の
電圧を当たります。
念のためヘッドライト電圧を確認 11.9V
バッテリー電圧から結構電圧降下していますが、途中の接点をくぐって
いますので、この程度はあり得る電圧。
エンジンストップリレーのプラス側 黒線の電圧は、
・メインスイッチ,キルスイッチONでライトコネクタ接続 11.7V
・ 〃 , 〃 ライトコネクタ切離し 11.8V
ん?! 電圧あるね! しかもライトの接続,切離しで0.1V しか
差が無い!
こんな差で、リレーが動作したり不動作だったりするのは不自然です。
リレーを外してリレーの動作値を測ってみましょう。
11.7V付近に動作値が有ればこの現象は考えられます。
エンジンストップリレー 動作値 : 7.0V 復帰値 : 3.6V
バッテリー定格の50%強の電圧値ですから、11.7V付近の不動作は
おかしいですね。
もう気付いた方がいると思いますが、各電圧を当たっている場所は
バッテリーのマイナス端子を基準にプラス側のみ計っています。
アース側が不良だとすると・・・
そうです。 アース不良でリレー類が動作できないんです。
では、次にアース回路のどこが不良なんでしょうか?
メインスイッチONでホーンを鳴らしてみると、正常に鳴ります。
ホーンはフロントカウル側のサブハーネスよりバッテリー側の
メインハーネスで分岐しています。
対して、ヘッドライトやバンクアングルセンサーは、フロントカウル側の
サブハーネス内にアース回路があります。
サブハーネスのアース回路が不良なら、ヘッドライトが薄暗く点灯する
のと、バンクアングルセンサーが動作しない事の説明が付きます。
サブハーネスにアースが行っているのは、090型の12極青コネクタ
です。
ここのコネクタをまず切離し、どちら側の配線が不良か確認します。
一般的にはメインハーネス側不良の可能性は低いのですが・・・
切り離したサブハーネス側のアース回路は、アースが落ちている地点と切り離されたので、アース端子間で導通を当たる事ができません。
ライト電球ソケットのアース端子と、外した12極コネクタアース端子間で導通を当たります。 → 導通あり!
今度は、メインハーネス側の12極コネクタのアース緑線とアース端子間を導通確認します。 → 導通無し!!
メインハーネス側が不良です。
コネクターからアース回路 緑線端子を外し、もう1度アース端子間で
導通確認しましたが、導通無し。
(薬指辺りにある配線端子が緑線端子)
端子部分で芯線断線している事も多いのですが、電線と端子は
しっかり接続されていました。
この回路が不良なのが分かったので、引き替えをします。
プラス側の回路だと、切れている部分で悪さをする可能性が有るので
保護テープを剥いで断線箇所を処置しますが、
今回はアース回路で電位が”0”ですから、切りっぱなしでも特に
リスクは内在しないので、切断点は探しません。
090型のコネクタ端子を付けた緑線を用意し、コネクタ側に差し込んだら、メインハーネスに沿わせ、
エンジン横のフレームにあるアース集中端子にクワ形端子で共締め
接続します。
緑線 = アース = 0電位 なので、絶縁上は問題無いので
裸で配置しましたが、フレーム内のエンジン側は流石にそのままでは
と思ったので、フレーム内側には保護チューブを被せました。
アースが不良になって、ヘッドライトの接続切離しでリレー動作が
変化した原因は、
電気は回路さえあれば電流が流れます。
アースが無くなると、アース側の配線を通して、プラスでもマイナスでもない配線を通り、リレーのコイルやヘッドライト球などを通り、
グルグル回ってアースにたどり着きます。
ヘッドライト球が有ると、回路の抵抗値が変わり、リレーコイルに掛かる電圧がリレー動作値以下になり、リレーが動作できなかったけど、
ヘッドライト球の回路が無くなると、リレーコイルの電圧が動作値以上の電圧値にたまたまなったので、リレーが動作できたんだと思います。
フローの電圧回路は極力ない方が良いんです。
アースの回路ですが、アースの集中端子とバッテリーマイナス端子は、電線で接続するんですが、このCBRは接続していません。
バッテリーのマイナス配線は、エンジンに行っているのかな?
目視できない場所だったので確認しませんでしたが。
多分アルミフレームで、抵抗が小さいので、アース集中端子~
バッテリーは接続していないんでしょうね。
鉄フレームで電線接続が無ければ、私だったら接続します。
修理の方ですが、コネクターを組んで、コネクタオス・メスを接続し、
回路が出来上がったので、機能試験をします。
ヘッドライトもフューエルポンプの動作も問題無し。 OKです。
ここまで1日仕事。
翌日外装をすべて戻し、そのほかの保安装置の機能も確認。
全てOK。
当店に来る前に、修理を依頼されたショップさんで、サブハーネスを
交換したのは、目の付け所は良かったんだけど、詰めが甘くて
不具合個所の修理に失敗した、ちょっと残念な結果でしたね。
交換後に症状は一旦収まったそうですので、現象が戻ってしまった
ため、その先 原因箇所特定ができず、
再度発生した時にはお客様からの再修理依頼はお断りだったそう
です。
でも、ヘッドライトを含むフロントカウル内のサブハーネスのアースが、
あんな細い電線と090型端子1本に掛かるのは、ちょっとどうかと
思います。
もう1本引いておけばよかったかな?
おしまい