前回の帰り際、
ふと気づいた
キミの仕草
汗ばんだ手を
きれいなシャツで
そっと拭っていた
その小さな仕草が
帰った後も
しばらく心に残った
この時間、
手のひらも
足の裏も
わたしは汗に濡れる
夏はとくに
なのに
「後で手、洗ってね」
いつも伝えるだけで
タオルひとつ
渡したことがなかった
いつの間にか
キミなら
大丈夫なのだと
思っていた
痛みも
汗も
わたしの弱さまで
いつから私は
そんなふうに
片寄ったんだろう
会う間隔が空いたぶん
余白の中で
見えてきたものがあった
自分の気持ちが
先に走って
キミが何を感じているのかを
置き去りにしていたと思う
今さらでもいいから
気づいたことを
ちゃんとしたくて
今日は
タオルと
ウェットティッシュを
準備しておいた
「これ、使って」
そう伝えると
「全然気にならないから」
結局、
使わなかった
使わないという
キミの答えも
深く考えず
そのまま受け取った
暫く続いた
亜熱帯の空が
今日は久しぶりの青空
風はどこか
夏の終わりを告げていた
「外、出ますか」
わたしたちは
いつもの店へ向かっていた
店先では
ひとりの女性が
りんごジュースの試飲をしていた
「おいしいですね」
一口もらうと
「向こうに東屋がありますよ」
と教えてくれた
店内に入ると
途端に
お腹が空いてきた
「お稲荷さんを食べて、
その後にアイス。
一緒に買ったら溶けちゃうから」
食べる順番まで決めたいわたしと
食べる順番なんて気にしないキミ
小さな違いに
笑ってしまう
「じゃあ、アイスはあとにしましょう」
東屋の日陰に入ると
思っていたより、
ずっと涼しくて
首元をすり抜ける風が
汗ばんだ肌を
そっと乾かしてくれた
朝から
何も食べていないというキミと
お稲荷さんをひとつずつ
「おいしい」
と頷きながら食べた
「アイス、買ってきてくれる?」
私の小さなお願いに
少しだけ苦笑して
颯爽と立ち上がり
もう一度、お店へ向かった
こんなに暑いのに
風がやさしい
気づけば
痛みのことを
少し忘れていた
しばらくすると
二つのカップを
持って戻ってきた
ふと
誰かの視線が
こちらに留まっている気がした
目を向けると
さっきの女性と
目が合った
わたしはその日
黒いワンピース
胸元には光るユニコーン
耳元には
夏色のシトリン
キミは
グレーのシャツに
黒いパンツ
似た色で
並んだふたりを
外から見たら
いったい
どう映るんだろう
あまりにも違う時間を
歩いてきたように
見えるのだろうか
一瞬、戸惑ったけれど
浮かんだ疑問符は
そのまま風に預けた
からだがゆるんでいる
おいしいね、と言い合える
それだけで
今日はよかった
「荷物、大丈夫ですか?」
「大丈夫。
すぐそこだから、がんばるわ。
今日はどうもありがとう」
少し離れて
向き合ったまま
笑って手を振る
キミも
やわらかな笑みを返した
わたしは右へ
キミは左へ
一本の道を
それぞれの方向へ
歩いていく
セミの鳴き声だけを
背中に聞きながら
.——もう
振り返らずに

※私two-miracleの綴る詩は
内にある記憶や感情と、創作の中で重なり合う様々な愛のかたちを、丁寧に描いています。
この詩に触れた方が、 それぞれの心と記憶に、
静かに響きますように。
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