
梅雨が明けた途端、
暑さで目が眩むほどの
灼熱の午後だった
季節の変わり目はいつも弱い
体が変化になじむまで、
わたしは人よりずっと、
時間がかかってしまう
三日、沈んでいた
まだ浮上しきれていない
服選びは気持ちと
つながっている、とおもう
黒のワンピースを
一度手に取ったけど
不思議な胸騒ぎと
気持ちを少しでも
前へ向けたくて
あえて
夏空を映し出した水色に
向日葵が咲く
ワンピースをまとった
キミは今日も少し、
遅れてくるらしい
髪を切ってから向かう、と
また連絡があった
インターホンが鳴り、
扉を開けた瞬間、驚いた
黒で統一された装い
さっきの胸騒ぎは
なんとなく
重なる予感が
したからかもしれない
会うなり、
うっかり香水をつけてしまった
とあやまってきた
香水は、昔から少し苦手だった
出会った頃、何気ない会話の中で
そう口にした時
香りを愛するキミは、
二度目の夏を迎えても
守り続けてくれていた
だけど、今日は
いつもの朝の習慣に
手が先に動いてしまった、という
「気にしないで。何の香り?」
少しだけ戸惑いながら
部屋に招いた時
「ルラボのAnother 13」
と、キミは答えた
そして、 両手をそっとわたしへ向け、
黒いシャツからのぞく
真白な腕を揺らして
香りを運んできた
その仕草が、 なぜだろう
香りよりも先に、
心の奥に入り込んできた
わたしも 天然の香りは好きだった
この部屋も、 空気も、 リネンも、
その日の心と体に合わせて
そっと香らせていた
だけど、 ルラボの香りは、
そのすべてを上書きしてきた
わたしの部屋なのに、
わたしの部屋ではないような感覚
この体になってから、
五感は研ぎ澄まされているのに
その日は
その香りがすべてを
塗り替えてしまった
触れられている感覚さえ霞み、
残っていたのは
香りと、
火照りだけだった
灼熱の午後のせいにしてみたけど
わたしは、その答えを
まだ言葉にできなかった
あの約束が
「うっかり」のままでは
どこか、片付かない気がして
キミが帰ったあとも
ルラボは 部屋のあちこちに
消えずに残っていた
わたしの呼吸の奥にまで
張り付いているようだった
この、胸騒ぎの正体は
何なんだろう——
香りの記憶を
そこから辿っていくうちに、気づいた
最初に差し出したのは
キミじゃなかった
再会したあの日から、
ピン札を包む白い封筒に
天然の香りを
そっと忍ばせていたのは
わたしのほうだった
ふと、横を見ると
鮮やかな
水色の向日葵をまとうわたしが
鏡に映っていた
明るい夏空を選んで
良かったと思う
もしもあのまま、
黒をまとっていたら
ルラボの香りと、
あの空気に
輪郭をほどかれて
もう少し深く、
溶けてしまっていた気がする

※私two-miracleの綴る詩は
内にある記憶や感情と、創作の中で重なり合う様々な愛のかたちを、丁寧に描いています。
この詩に触れた方が、 それぞれの心と記憶に、
静かに響きますように。
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