あの日を境に、
わたしはクリムトのカップを
引き出しの奥にしまった
空白を埋めるように
ニューヨークから届いた
ポスターを
北側の壁に飾る
青い夜と月夜の灯り
光をまとうビル群
「新しく買い替えたの」
そうつぶやくわたしに
気づいてましたよ、と
聞かれるまでなにも言わないキミは
その瞳の奥で
何を感じていたのだろう
沈黙の中、
しばらく二人で眺めたあと
いつの間にか
会話は
これから掴もうとする
それぞれの夢の話
わたしが昔、
大切にしていたものへ
今度はキミが
触れようとしている
今しかない自分を
残しておきたいことも
それは
まるで
月明かりの街が
地面に映し出された
この壁画のように
二人が
写し鏡であることを
物語っているようだった
きっと
はじめて出会った
あの瞬間から
互いのリフレクションだったのかもしれない
キミが帰ると
いつも
部屋が少しだけ広くなるまだ静まりきらない
金色の抱擁が描かれた
壁画に目を向けると

バスの中に並ぶ
ふたつの影を見つけた
何度も眺めていたはずなのに
気づかなかった
座席の残像か
人影なのか
まえの自分なら
二人を重ねていただろう
今のわたしは
ふたつの影を
もう重ねることはなかった
同じ車両に
並ぶことはないまま
光と影
リフレクションの境界を
行き来しながら
それぞれの場所で
揺れながら進んでいくのだろうか

ポスターの下には
グスタフクリムトの文字が
大きく印字されている
※私two-miracleの綴る詩は
内にある記憶や感情と、創作の中で重なり合う様々な愛のかたちを、丁寧に描いています。
この詩に触れた方が、 それぞれの心と記憶に、
静かに響きますように。


