あの音のあとで


「今度は、どんな曲を使うの?」

去年の秋
共有してくれた、
内側の風景。

流れるメロディが
今、一番大切にしている音だと
聞いていたから

次に選ばれる音が
どんなものなのか
その景色に触れてみたくて

何気ないふうを
装いながら問いを投げた。

あの場所は、

わたしの内側を

静かに揺らしてくるからだろうか。


「あとで送りますよ」

疑いもせず
そのうち届くと思っていたのに、
画面は静かなまま。
     
ただ、忘れてしまったのか、
それとも優しさの形をした
言葉だったのか。

夕暮れとともに、
胸の奥にあった淡い色が
濁りはじめていた。



午前零時を過ぎたとき、
なぜか、目が覚めた。

暗闇から
ベッドサイドのテーブルに
小さな光がついて
一瞬、手を伸ばしたけど

触れてしまうと
眠りが遠のきそうで
暗闇にそっと置いたまま
そのまま目を閉じた。

あえて、さわやかな
朝の光の中で
その音を開けた。 

朝でよかった、と思う。

その旋律が
内側の隠していたものに
静かに触れてきたとき、

たしかな昂りがあったのに 
わたしはそれを
体調のせいにしておいた。


しばらくして、
ここへきた日

わたしのほうが
いつもと違うことに気づいていた。

ふだんと同じ、
痛みに触れる。

しばらくして、 

痛い場所に置いた手の上に

手のひらが

静かな重力で

やさしく包むように

何度か、重なった。



前からそうだったのか。

病で過敏になった脳のせいか、
あの音に、
心が開きすぎてしまったのか。

.——多分、どっちもなんだろう。

いつもと違うのは

わたしのほうだと知りながら、

ぬくもりと安心の狭間で
さらに開いていく。

ふと窓際に目を向けると
アロマの瓶の傍らに飾る
クリムトの黄金のカップが
目に止まった。

一歩先は、崩れ落ちる断崖で
抱擁する二人と
恍惚の表情を浮かべる彼女。

カップに目を反らしても
また、戻ってしまう。

そのまま、見ていたかった。


崩れ落ちそうな縁の狭間で
彼女はなぜ、
あんなにも深く、
恍惚と目を閉じていられるのか
ずっとわからなかった。

その表情(かお)の意味を、
わたしはその日、
少しだけわかった気がした。


※私two-miracleの綴る詩は

内にある記憶や感情と、創作の中で重なり合う

様々な愛のかたちを、丁寧に描いています。

この詩に触れた方が、 それぞれの心と記憶に、 

静かに響きますように。


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