車に着くと2人の内、格上と思しき方が『中へどうぞ』的なカンジでドアを開けてくれた。
(意外と丁寧な奴なんだな)
僕は(多分ヨシローもだろうけど)、ホッとした。
なにせ、こういう場合は最悪、イキナリ後ろから車に蹴り込まれてそのまま連中の巣にさらわれてもおかしくないのだから。
後部座席に僕とヨシロー、前に2人と云う形で『話し合い』が始まった。
『アンタら、見かけん顔だけど何処の人?』”格上”が尋ねた。
この質問から推して、彼らは地元のプロには違いないのだろうけど、多分スジ絡みでは無さそうだ。
もしヒモ付きなら、もう少し強気で来るだろうし、例え1日とはいえ黙って打たせたりはしない。
何より相対(アイタイ)してみて判った。
(彼らは我々よりは”下”だ)
僕やヨシローだって大した場数を踏んでたわけじゃあなかったが、彼らから感じる”空気”は明らかに彼らが我々よりも格下であることを教えた。
ヨシローもそれに気付いたのだろう、最初の緊張感なんて何処へやらでリラックスしているのが手に取るようにわかった。
『人にモノ尋ねるんやったら、先ず自分らの事から云わなアカンのンとちゃいますか!?』
何処で覚えたのか”さんま”のような関西弁。
少しだけ語気を強めて云い、ヨシローはタバコを1本取り出して口にくわえる。そこへすかさず僕がライターの火を持って行く。
いつものパターンだ。
バカバカしいと思われるかもしれないが、こんな小芝居1ツ入れるだけで相手は勝手にヨシローの事を『偉い人・怖い人』だと思ってくれるのだ。
『・・・ああ、すみません・・・僕ら地元の者で・・・』
ヨシローはタバコの煙を大袈裟に吐き出すと、ややドスを効かせて尋ねた。
『オタクら本職!?』
『い、いえ、僕ら・・・学生なんで・・・本職って云う訳じゃあ・・・』
フラグ成立。
やはり小遣い稼ぎのアンちゃん達だったのだ、しかもカタギもカタギ、大学生さんじゃあないか!!
『オイコラ!!ナメとるんか、オマエら!?』云うが早いか後ろから座席を蹴り上げた。
『ワシら関西から先乗りで来とるモンなんでえ!!おお!?それにイチャモンつける云うんかい、オイコラ』
ココでいう”関西からの先乗り”と云うのは当時有名だった某武闘派攻略軍団を意識させる為のセリフであるのは云うまでもない。
よくもまあ、こんな出任せがペラペラ出るもんだ。
こういう関西弁を使った”カマシアゲ”はヨシローの十八番(オハコ)なのだ。
ルームミラー越しにも前の2人の顔がこわばって行くのが判る。
『・・・あ、あの、知らなかったんで・・・すみま』
ドスッ、もう一回蹴りを入れて続けた。
『すみませんで済んだら警察要らんのんじゃい!!オイコラ、オマエら関西敵に回す云うんかえ、おお!?』
後にも先にも、この吉本新喜劇の様なセリフを実際に聞いたのはこの時だけだった。
笑う者は1人もいない。車中はピーンと張りつめた空気で一杯だった。
(もちろん、僕は心の中でクスクス笑っていたけれど・・・)
何も云えなくて黙っている2人を観て、(頃合いかな)と判断した僕は仕上げの口上を挟んだ。
『マアマア、兄さん(ヨシローのことです)、2人とも未だ学生さんだっていうし、なにもそこまで云わなくても・・・。』
僕は前の方に身を乗り出し2人に優しく云った。
『そっちも悪気があったんじゃあないよね。ウチの兄さんは気は荒いけど話は判ってくれる人だからサ。ね、チャンと詫び入れたら、もうそれでイイから。』
2人は黙って頷くとヨシローの方に向かって頭を下げた。