体感器を背負った面白いヤツラ~パチンコ・攻略プロ達の青春回顧録 -5ページ目

体感器を背負った面白いヤツラ~パチンコ・攻略プロ達の青春回顧録

1990年代バブル経済末期、世間の流れとは関係の無い処で暗躍していたネタプロ(攻略プロ)達のアップダウンな日常風景

宿に帰った我々は、沢井からの誘いについて話し合った


”青天井でパワフルが打てる”


パチンコで飯を食う人間なら、誰しもが飛びつきたくなる話だ


が、問題が1つあった


沢井との事だ


まさか一仕事終わったら『ハイ、サイナラ』とはいかないだろう


当然これを機に、沢井との間で何らかの付合いを持たざるを得なくなるはずだ


そしてそれは、取りも直さず我々が沢井の下につくことを意味するのだった


私にしてもヨシローやタクミにしても、自由という財産を何よりも大切にするからこそ、こんなこと(パチプロ)をやってるのだ


例えカネが儲かっても、誰かの手足になるなんて御免だ


『確かにイイ話には違いないけど・・・後々の支払いがデカ過ぎるんじゃないか!?』私はそう言うと、冷蔵庫から取り出した缶ビールをテーブルの上に3本置いて2人の方を見た


タクミも同じことを考えてたのだろう、『オレも同じく、だ。得るモノより、失うモノの方が大きいと思うな』そう言うと缶ビールを2本とって1本をベッドで寝そべっているヨシローに投げて寄こし、奴にも意見を促した



『沢井さんの顔が利くんでしたら、その店”貸切”で抜いたらオイシイんじゃないですか?』

そうなのだ、たとえ1日とはいえパワフルが無制限で打てるなんて、こんなウマイ話はない。

隠れ打ちのアレマンなら日当10万がやっとこだが(無制限ならMax20万程は可能)、パワフルとなれば少々しくじっても10万、調子よく連チャンが盗れれば20万以上は抜ける。こんなオイシイ話はない筈なのだ。(注1)


『それがやな、”貸切代”がエライ高うかかるんや。』

沢井は、自分と我々のコップにビールを注ぎ足した。


『店のケツ持っとる人間とは親戚付き合いがあるんで、1日だけやったら(店と)話つけたるゆうんやが、その代り50万バックしてくれゆうんや』


1日のショバ代が50!

もし10人ノリで打つとしても、1人当り5万の負担、これはキツイ。

如何に無制限で打てるとは云っても、流石に全員が20万以上抜けるワケはない。

調子の悪いヤツが出ることを考慮すれば1人平均10~15万辺り、仮に13万平均で抜いたとしたらショバ代5を差し引いて純益は8。

これでは、ワザワザパワフルを打つよりは大人しくアレマンで抜いていた方が良かろう。


『場代が50ですか・・・それは重いですねえ。ところで、台は何席あるんですか?』

パワフルと聞いて食指が動いたのだろう、珍しくタクミが口を挟んだ。


『それがや、田舎のちっこい店やから四分の一シマ・7台しかないんや』


7台!・・・という事は、1人当りのショバ代ノルマは約7万!

手取り日当10万を確保する為には10+7=17万が責任ノルマになる。

その他旅にかかる経費やらナンヤラを考えたら20万は抜くつもりでなければシゴトにならないだろう。


なるほど、沢井が二の足を踏んでいるワケはコレだったのだ。

如何にパワフルが高単価ネタとはいっても、流石に20万以上抜ける腕のある人間を7人も揃えるのは並大抵の事ではない。


我々3人の中で最も腕のあるタクミでさえも時給単価アベレージで2万前後なのだ(注2)。

確かに無制限と云う好条件ではあるが、毎回ゲーム終了時にワンショット・コンマ何秒といった感覚でアースタッチを決めていくのは相当神経が疲れる。

それを1日中集中してやるとなると・・・。


『ナカナカ、腕のある奴が見付からんで困っとるんや。で、兄さんたちに話振ってみたんやが・・・』

沢井はそう云うと、傍に居たヒゲに目配せをして冷蔵庫から冷えたビールを持ってこさせた。


『正直云いますと、俺ら3人で一番腕があるのがコイツ(タクミ)で順当に行けば20万は抜くでしょう。後コッチ(私・キョウスケ)と俺はそこまでは・・・。15~20の間と云った処ですねえ』

ヨシローがヒゲの持ってきた冷たいビールを沢井のコップに注ぎながら続けた。

『今のお話からすると、1人当り20抜きが一応のノルマラインになりそうですが・・・沢井さんの方は何人集まってるんですか?』


ヨシローの話を聞くや、沢井はニヤっとして答えた。

『そうや、20は抜ける腕がないと一寸キツイんやが・・・それだけの腕のある奴ゆうたらワシのグループに1人、他所に2人、今のトコ3人しかおらんのや』


その3人プラス我々3人で、計6人。後1席が空席。


不思議な事にいつの間にか我々は、沢井のグループのメンバーになった様な気持ちで話し出していた。


タクミは良いとしても、ヨシローと私は練習が必要だ。しかし、集中してトレーニングすれば日当20ラインまでの腕ならギリギリなんとかなるだろう。


あと一人メンツが揃えばパワフルの”ドリーム・チーム”の出来上がり。


これまで遠慮しながらの隠れ打ちだったのが、制限無しで打てるのだ。


場代やらなんやらを考えれば金銭的には驚くほどのシゴトではないにせよ、ネタで生きている人間なら誰もが考える”腕試し”が出来るのだ。


我々3人は、まるで部活の高校生が全国大会に出場する時の様なドキドキした興奮と歓喜を感じていた。













今にして思えば、この頃は正にネタ・バブルだった。


私達や沢井達が追いかけていたアレンジマン以外にも、数少なくではあるが全国には未だ打てる状態のパワフルがあったし、やや単価は下がるとは云っても日当4つは抜ける『CR黄門ちゃま』もあったのだから。


その他にも、エスケープやムーンライトといった日銭ネタから、ヒラ台の『ヘブンブリッジ』、後々出てくる『マジカルランプ』や『モンスターハウス(実質的な最後のキカイネタ)』・・・とよくもまああれだけ稼げるラインナップが揃っていたもんだと改めて思う。


この他にもゴトネタまで入れれば相当数の『飯のタネ』がアチコチに落ちていたことになる。


私はスロットネタはやらなかったが、聞いたところによると探せばペガサスのネタもマダマダ生きていたらしい。


また、あの当時は平打ちでもなんとかなっていた。


なんせ、開店に行けばカネになったのだから。


新規や改築はモチロン、単なるシマ開店でさえ大甘の開店クギだった。


最後の一発機『ミサイル』などは開店を追いかけるだけで月100万オーバーの稼ぎになったし、ちょっと割のイイ権利モノなんかの開店絡みだと日当10万なんて事もザラだった。


少し時期がズレるがセブン機も面白い台が多くあった。


私が好んで打っていたのが『フィーバーキング』


アチコチ店を渡り歩く関係上、眼にすれば必ずクセをチェックしてバカ台探しをしていたっけ・・・。

(人によっては千円辺り100回回ったとか玉が増えたとか話しているが、私個人では大体千円60~70回転ぐらいの台にしか巡り会わなかった・・・それでも相当ラッキーではあるが)


確かこの台は、誌上プロの安田さんをはじめ、平打ちのプロ達の格好のターゲットになった台だと思う。


その他にも『ホー助君(後々、電波ゴトの的となった)』、『おにぎり(やはり、油ゴトの的)』・・・思い出せばキリがない。


店の雰囲気にしても、当時はマダマダ質の悪い連中の溜まり場的な色合いが残っていて、今の様にミニスカの若い女の子がコーヒーを売り歩けるような感じじゃあなかった。


ちょっと旧い店になれば、板張りの床に、天井からは音の割れた演歌が流れ、ワケありな店員が所在無さ気にタバコを吸いながらシマの端に立っていたものだ。


空調設備なんてシャレたモノは無く、店中に鉄サビとタバコのヤニが混じった何とも云えない独特の匂いが漂っていた。


それが今では、どの店もまるでホテルの様なキラキラしたお洒落な作り。


店員も20歳代の小奇麗な女の子が笑顔で応対してくれる。


一体いつからパチンコ屋は社交場になってしまったのだろう?


パチンコ屋って云うのはゼニカネの盗りっこをする場所だったんじゃないのか?


もしヨシローがいたら、もしタクミがいたら、きっと私と同じ気持ちになるだろう。


時間が経てば、それに応じて世の中も変わる。


多分、私やヨシロー、タクミは世の変化について行けない過去の遺物なのだろう。


それでもいい、それでもいいから、又あの独特の匂いの中で、ガラの悪いパンチ頭の店員に睨まれながら玉を弾いてみたい。


今のパチンコ屋では例えどんな大ネタが出ようとも、多分私達は稼ぐ気が興らないだろうな。


もう、我々の様な人間のいる場所ではなくなってしまったんだから・・・。




『聞いたとこでは、おたくらも関西から旅かけとるらしいけど、どこの人らなんかいな?』

”どこの”と云うのは取りも直さず所属グループを指している。

沢井からすれば我々3人ぽっちのチンピラ等どうという事はないのだが、万が一のことを考えてバックを確かめておきたかったのだろう。

(もしも我々が、沢井と兄弟分もしくは親戚付き合いのあるグループの人間ならば、それなりの応対をしなくてはいけないから)


『いえ・・・俺らは関西じゃなくて~~県から来た者です』

ヨシローがガラにもなく丁寧な口調で答えた。

『昨日は(地元の学生に)ハッタリを咬ましたんです。どこかの人(スジ者)にケツ持って貰ってるワケじゃありません』


正直に云って正解だろう。

普段なら少々はハッタリを効かせて駆け引きをするんだが、相手が相手だ、下手な小細工はしないに越したことはない。


『なんや、アッサリしとんなあ(笑)。テッキリ威勢のエエカマシ入れるもんやと思うとったのに、拍子抜けしたわ』


『・・・いえ、そんなハッタリが通用する人じゃないことぐらいは判りますから・・・沢井さん相手に突っ張ることが出来る人なんてそうそう居ないでしょう』


『なんや、ワシの事知ってるんかいな?』


『ええ、そりゃあ、この業界でメシ喰ってる人間なら誰だって沢井さんの名前は知ってますよ』


ヨシローの恭順の意を表した物言いに気を良くしたのだろう、沢井は口元を緩め、我々の前に置かれたグラスへビールを注いでくれた。


『まあ、そない遠慮せんでもエエから、グイッといこうや』

沢井に促されて我々3人はグラスに手をかけた。


『オマエらも、エエから一杯いきいや』

沢井の一声で、その場に直立していた若衆達もグラスへ口をつけ始めた。


緊張した雰囲気が一気に溶けて、場が寛いでいくのが肌で感じられた。

それだけ沢井の持つ存在感が圧倒的だという事だ。


我々も、やや緊張しながら沢井と歓談を交わすぐらいには口が軽くなった。


陽気酒の沢井が云う事には、彼らはこの店以外にもあと2軒ほどアレマンの店を確保しており、グループを2つに割って使い回しているらしい。


(だから、学生達は5,6人ぐらいだって云ってたのか・・・)


武勇伝を交えた沢井の話を聞きながら半分本気で、半分お世辞で合いの手を入れていたら、沢井がちょっと真面目な顔をして云った。

『ところでな、兄さんらパワフルは触った事あるか? パワフルゆうてもセブン機やないで、太陽電子の方や』


アレパチ・パワフル!!我々3人が知らない筈が無かった。

『ええ、一応ガッツンとツーバイは両方喰いましたけど』(注1

スッカリ寛いでさっきからツマミのチーズサラミをパクついていたヨシローが云った。


『実はなあ、まだイルミが生きとる店があるんや』(注1)


そう沢井に言われ、我々は一瞬顔を見合わせた。


『但し、ヒモ付きでなあ』


やはりワケありだったのだ。この時期にマッサラのパワフルが置いてあるなんて普通は考えられないのだ。


『その店、1日だけやったらワシが話つける事が出来るんやが・・・』


そう云いかけると沢井はナミナミ注がれたグラスをグイッと空けて、一呼吸置いてから我々の方へ向きなおした。




(注1)・・・『ガッツン』と云うのはデジタル下に並んでいるイルミネーションランプの俗     

       称。

       『ツーバイ』は台枠左上にある『2倍ランプ』のこと。

       どちらのランプも点滅周期が内部のカウンターと同調していて攻略が可 

       能だった。    




彼ら軍団の泊まっているホテルに着くと、フロントにはヒゲが待っていた。

『どうも、ごくろうさんですわ』

そう云うとヒゲは椅子から立ち上がって、我々をエレベーターへと誘った。


僕やタクミ、そして場慣れしているヨシローでさえもが緊張していた。

エレベーターの中は、ヒゲのガムを噛む音だけがクチャクチャと響いている。


『お3人さんは関西から来てはるって聞いてますけど、どこの人ですか?』

誰に向かって云うワケでもなくヒゲが尋ねた。


(我々が関西から来ているだって!? そんなこと誰から聞いたんだろう?)


我々が3人共そう考えて沈黙していると、そんな心中を見透かしたかのようにヒゲが続けた。

『ああ、コレは兄さんらがカマシアゲた地元の奴から聞いたんですわ』

・・・地元の・・・ 昨日のアイツらのことか! アイツら軍団と繋がってたのか!?

確か、ヨシローは関西からの旅人を装ったんだった。

だが、迂闊に返事は出来ない。

なんせ相手は本職の、それもどうやら本当に関西からの旅人かも知れないのだ。


チーン、ガタン。

沈黙の中、エレベーターが停まった。

『コノ階ですわ』

そう云ってヒゲは降り、我々は後に続いた。

その階の奥の部屋、そこが彼らのアジトだった。

ドアをヒゲが叩くと中からガチャと開いた。

出てきたのは未だ15,16歳ぐらいの少年だった。

『どうぞ、ごくろうさまです』そう云って頭を下げる。


我々はバカ丁寧な応対に却って緊張を憶えつつも、案内されるままに部屋の奥へと進んで行った。

全部で10人近くは居たろうか。

左右に5人づつ立っていた連中が一斉に我々に向かって一礼した。

そして、その中心に座っている37,38歳ほどのパンチパーマの男、そいつが軽く立ち上がって挨拶を入れた。

『いやいや、どうもワザワザ来てもろて。すんませんなあ』

笑いながらそう云うと、ユックリ腰を下ろしながら若衆が用意してくれた椅子に座るように促してくれた。


こう書くと如何にも平穏な印象を持たれるかもしれないが、実際にはそのような空気など一片も無かった。

顔は笑っていても眼の奥にシャープな眼光を潜ませているその男性からは、ナントモ表現の仕様の無い威圧感が漂っていた。

まるで、眼に見えないナイフを喉元に突きつけられて身動きが出来ない、そんな金縛りの様な状態だった。


それもそのハズなのだ、そのパンチの男は続けてこう云った。

『ワシは大阪の###から来とる**(仮に沢井とする)ゆう者ですわ』


”大阪の沢井!!” この世界では誰もが知っている名前だ。

当時名を馳せていた春一攻略で有名な某攻略グループとは違ったが、###を拠点に関西中を、イヤ、日本全国を荒し廻ってる武闘派グループの頭であり、又そのスジでも有名な立場の人だ。

我々は3人共ビックリした。

(この人がアノ沢井さんだったのか!!)


我々など、沢井からすれば赤ん坊みたいなものだ。

煮て食うなり焼いて食うなり、どうとでも出来る。

それに対して我々の方は、何も為す術なんてないのだ。

『この店は邪魔だから出て行け』と云われても黙ってハイと云うしかない相手なのだ。


そんな沢井が、一体我々に何の話があるというのだろう?


僕、ヨシロー、タクミは若衆が持って来てくれた缶ビールに口をつける事なく、黙って沢井の言葉を待っていた。