体感器を背負った面白いヤツラ~パチンコ・攻略プロ達の青春回顧録 -3ページ目

体感器を背負った面白いヤツラ~パチンコ・攻略プロ達の青春回顧録

1990年代バブル経済末期、世間の流れとは関係の無い処で暗躍していたネタプロ(攻略プロ)達のアップダウンな日常風景

やや出遅れたスタートを切った私だったが、毎回、毎回、丁寧にアースタッチを決め、ナントカ10連チャンまで引っ張る事に成功した。


1時間ちょっとで10回めのアースタッチを決めた私は、右手指をほぐしてながら考えていた。


権利1回で約2千発として計2万発、あいだの連チャン取りでの使用分を差っ引いても5万円弱(当時は、2.5円換金が主流だった)は出てる。


午前中のマイナス3万円を考慮すれば、やっと宿代が出た程度ではあったが、私の気持ちは午前中とは打って変って晴れやかだった。


時刻は午後3時半。


今からでも追い駆ければ、十分皆に追いつける。


赤髪が1人突出している様だが、ザッと計算して皆の平均収支は1人・プラス7~8万円といったところだろう。


朝一からの出来レースで打っていれば、この時間ならタクミにせよヨシローにせよ10万円のラインは余裕で超えているはずなんだが、今一つ届いていない。


もう後10連チャン欲しい!


そうすれば皆に追いつける!


・・・たかが10連チャンぐらいで何を、と思われるかもしれない。


私も勝手知ったる地元でなら、そう思ったろう。


しかし、いくら話のついた状態とは言っても、知らない土地での攻略というのは想像以上にやり難いものなのだ。


事実、タクミほどの腕のある人間がココまでで2回も飛ばしてる。


なんとかもう一発長打が欲しい!


ここ2週間ほどズッと部屋にこもりっぱなしで、その上ホテルにまで実機(パワフルの台)を持って来て練習したんだ。


(その甲斐あって、平均15連チャンまでは引っ張れるようになっていた)


せめて、後5つは欲しい!


私は再度、気持ちを引き締めてハンドルを握った。







後半戦、再び打ち出してから10分かそこらだったろうか。


いきなりデジタルが揃った。


午前中ウンともスンとも言わなかったのに・・・


当る時はアッサリ当たるのがパチンコの不思議なところでもあり、又面白いところでもある。


後半戦に備えて崩した1万円分の500円硬貨の内、残りの18枚をポケットにしまうと、私はハンドルを右いっぱいに切って権利を消化し始めた。


【注・・・当時は今と違って、ほとんどの店がカードではなく硬貨サンドだった】


左右に座っているタクミとヨシローが盤面越しに ”おめでとう” の目配せを送ってくれる。


沢井の仲介で店と話がついている以上、大っぴらに言葉を交わしても構わないのだが、いつもの習性からか私たちは盤面を通しての合図で会話をしていた。


権利消化が進み最終ラウンドが近づくに連れ、私は徐々に緊張していった。


御存じの通り、パワフルは最終ラウンド終了後のアースタッチが勝負処。


そのワンチャンスを逃してしまったら、次は更に遠い(注)。


【注・・・ ”更に遠い” →パワフルは電源を入れた朝一状態では初当り確率が約190分の1のサービスモードだが、一旦初当りした後の通常確率は360分の1になる】


順調にゲームが進行し、とうとう最終ラウンド終了!


ココで飛ばしたらネタプロ廃業だ!


私は全神経を右手の中指1本に集中させて、デジタル下のイルミネーションランプの動きを追った。


タイミングを計って・・・ワン・ツー・スリー、SHOT!


瞬間、全灯ジャストで綺麗にアースタッチが決まった。


タクミとヨシローも盤面越しに ”OK” のサインを出している。


私は大きく息を吐いて、沢井からもらった缶コーヒーのプルタブを開けた。







店に戻り席に着くと、私は気合を入れなおした。


なにせ前半でのマイナスを穴埋めした上に、今日の責任ノルマを叩き出さなくてはならないのだ。


やってやる!


心の中でそう叫んで、私がハンドルに手をかけようとした、その時、盤面越しに沢井の姿が見えた。


普段なら店内で仲間同士であることが分かるような動作はしないのだが、今回に限っては沢井の仲介での出来レースなのだ。


私は振り向いて、少し申し訳無さそうな表情で会釈をしたと思う。


総ノリの全シャー(注)である以上、私の抱える午前中のマイナス分はメンバー全員のマイナスになっているのだ・・・。


【注・・・ ”総ノリの全シャー” →プラス・マイナスを皆のトータルで計算し、全員で等分に分けるコト】


『マイペースで行きや。心配せんでもアガリは十分出とる。赤髪の奴が1人で20万円近う抜いとるさかいな』


見ると、赤髪の台枠が点滅している(権利消化の最中というコト)


そして、その隣のメッシュも赤髪に負けじと足下にドル箱を積んでいた。


今の時間で20万円近く抜いてるということは、連チャン中であれば1時間で4~5万円のハイペースで出る事を考慮しても朝からアタリっぱなしという事になる。


ひょっとして、朝の初当りからズッと飛ばしてないのか・・・?


『アイツはパワフルの連チャン採りでは関西でも有名な奴でな、調子のエエ時やったら1日中でも引っ張っとるんやで(連チャンを続ける)』


沢井はそう言うと、缶コーヒーを私に差し出してくれた。


最前に沢井の言っていた通り、赤髪とメッシュの2人の腕はホンモノだったのだ。


それにしてもいくら出来レースとは言え、旅先の初見の店でココまで腕が揮えるとは・・・相当場馴れしている上に根性も据わっているのだろう。


それに何よりも、沢井という人物だ。


ただの強面というだけでなく、メンバーへの心配りがあればこそ、一匹狼的な連中を束ねることが出来る。


わざわざコーヒーを持って来てくれたのも、肩に力の入った私の緊張をほぐそうと考えての事なのだろう。


『ありがとうございます』


私はコーヒーを受け取ると、軽く笑顔を作って再度会釈した。











うらぶれた喫茶店―馬酔木でのひと時は20分にも満たなかったが、その時の事は私の心の記憶に今でも鮮明に残っている。



ヒゲ、つまりシゲの話が強く印象的だったからだ。



在日朝鮮人として生まれてきた彼にとって、生きるという事は生存をかけた闘いだった。



私の様にパチンコ好きが高じて大学生活からドロップアウトした鈍(なまくら)と違って、彼にとってパチンコを打つという事はマサシク生きていく為に必要な生存活動だったのだ。



中学を出た後、土方や水商売を転々としていた彼が沢井と出会ったのは、ちょうど飛田で女衒(スカウトマン)をやっていた時だという。



『オレみたいな人間を雇ってくれるトコなんてあらへんからね。普通やったら死ぬまで社会の底辺を這いずり回ってるのがオチなんや・・・』



そう言ってシゲはランチに付いて来たコーヒーに口をつけた。



『売ったオンナの代金でパチンコに行くのが唯一の楽しみやったわ。そんな毎日に辟易しとった頃やろか、西成のパチ屋で、エライ出してる連中がおるって聞いて見に行ったら・・・』



『そこで打ってたのが沢井さん達の軍団だったってワケだ』 私が合いの手を入れると、シゲの奴はニヤリとしてうなずいた。


もともとゴト師まがいの事をしていたシゲが攻略プロになるのは、そんなにハードルの高い事ではなかった。


小遣い稼ぎの遊びではなく、生きて行く為のパチンコ。


沢井軍団の使いっ走りから右腕にまで昇りつめるのは、シゲにとって造作もなかったろう。


シゲの話から察するに、奴が攻略業界へ足を踏み入れたのはセブン機のストップボタン攻略が体感器攻略へと移り変わっていった過渡期の様だった。


ランバダやボルテックスといった初期のキカイネタや、当時はマダ流通していた紙ネタ(注)の話など、奴の面白おかしい想い出に耳を傾けていると、いつしかその時代にタイムスリップしているかの様な気分になったのを覚えている。


【注・・・ ”紙ネタ” というのはキカイなどを使わずにある一定の手順を踏むだけでアタリを引いたり、連チャンを誘発したりするネタの事。紙に書いてある簡単な手順を踏むだけで攻略できたことからそう呼ばれた】


『おっ、アカン、アカン、休憩時間過ぎてもうてるわ。そろそろ戻ろか』


時計を見ると休憩終了の時間だ。


シゲは残りのコーヒーを飲み干すと、テーブルから素早く会計票をとって立ち上がりざま言った。


『ココはオレが持っとくわ。後半戦、頑張りいや、キョウスケ』











”馬酔木(あしび)”


確かそんな名前の店だった。


定食屋なのか喫茶店なのかよく分らない、田舎によくある中途半端な店と言えばいいのだろうか・・・。


東京などで流行っているお洒落なアンティーク調の店構えが、かえって田舎臭さを感じさせる。


おそらく名前も ”それっぽく” 付けたのだろう。


”馬酔木”


馬がその葉を食べれば、まるで酔ったかのようにふらつく有毒性の植物。


その時の私はまさに馬酔木を食べた馬の様にフラフラになっていた。


『そやけど、エライ運が悪いようやなあ、なんやかんやで開店から3時間はハマってるんとちゃうか? ええと確か・・・』


『キョウスケでいいよ』


私はコップの水を一気に飲み干すとソファにグッタリ背中を沈めた。


『そっちは確か、 ”シゲ” だっけか? 沢井さんがそう呼んでたようだけど・・・』


ヒゲはテーブルに置いてある水差しで、私のコップに水を入れながら言った。


『ああ、ホンマは ”シゲヒサ” なんやが、みんなシゲって呼んでるわ』


ヒゲの名前はシゲだったのか、1文字違いなんだな。


そんなどうでもいい事をボンヤリ考えていると、これまた如何にも ”冷凍でござい” といったランチが運ばれて来た。


とりあえず空腹に食べ物をかっ込みながら、私とシゲ(=ヒゲ)はポツリ、ポツリと言葉を交わし、少しづつお互いの距離が縮んで行くのを感じていた。