宿に帰ると、とりあえず皆でその宿にある露天風呂に浸かった。
それまでは大して言葉を交わさなかった連中が、湯船に浸かりながらその日の事を振り返ってアレコレと言葉を交わしている。
不思議なものだ。
アチコチから集められて来た知らない者同士が、たった1日一緒に打っただけで昔からの知り合いの様になるのだから。
少しのぼせた私が湯船から上がり、岩肌に座って涼んでいると、シゲが隣へ腰掛けた。
『よお、おつかれ。最後のマクリはごっつかった(注)やんか!』
【注 ”ごっつかった” ・・・関西弁で、すごかった・見事だったという意味】
『いやあ、ハマってた時に食事休憩を入れたのが良かったのさ。そっちの御蔭だよ』
そうなのだ、午前中調子が悪かった時にシゲが店裏で声をかけてくれたことを思い出した。
『それにしても今日のラストは皆、猛スパートやったなあ。まるでパワフル祭りみたいやったで』
そう言うとシゲは、ギュッとしぼったタオルで顔の汗を拭いた。
シゲの言う通り、まさに ”お祭り” だった。
そして、その祭りが終わった後の寂しさも、これまた同じであった。
『だね。だけど、そのお祭りも今日一日で終わりだと思うと・・・なんだか寂しいな』
『なんや、別に死に別れるわけやないんやから、生きとったら又どっかで会えるで』
”生きとったら又会える” なるほど、そういえばそうだ。
昼間、休憩をとって馬酔木に行った際に聴いた、彼が母親・父親ともに死に別れていた話を思い出した。
死んでしまったら二度と会えないが、生きてさえいればいずれどこかで会う事もある。
当たり前の事だが、シゲが言うと妙に腑に落ちた。
そして・・・我々の様な生き方をしていれば、否が応でもいずれどこかの店で顔を会わせざるを得ないのも、コレマタ事実だった。
ただ、その時にも又今回の様に仲良く一緒にシゴトが出来るとは限らないが・・・。
私は出来れば、シゲとはズッと仲間でいたかった。
友達と言うほど甘ったるいものではなく、戦友と言うほどガッチリしたものではない何かを、私は(そしておそらくはシゲも)感じていた。
だが、沢井の傘下にいる彼と単なる部外者の私が、グループの垣根を超えて個人的に付き合いを持つことは許されない。
ひょっとしたら何らかのシガラミから、次は敵として相対しなければならないのかも知れないのだ。
さもさらばあれ(それはそれで仕方がない)、我々は人生の自由を得る代償に世間的な幸せを引き換えたのだから。
おそらくシゲも私と同じことを考えていたのだろう。
『次に会うた時には・・・』 そう言いかけて一瞬口をつぐみ
『・・・今度はそっちが昼メシおごる番やで!』 作り笑顔の空元気で、そう言い放った。
★★★作者(キョウスケ)から★★★
Kやんさんのブログ『 kaneyantiさんのブログ 』 でわざわざ紹介して頂き、ありがとうございます。
これで読んでくれる人が増えれば、ヤル気もアップして文章も長くなるかも・・・(笑)