「悩みのるつぼ」朝日新聞 be 2024.5.25.

 

相談:「友人と距離を置きたい私は薄情?」

相談者:女性 60代

 

回答:「『いい人』でいたいかどうか」

回答者:社会学者 上野千鶴子さん

 

 

相談内容:

相談は60代後半の

学生時代の友人のこと。

 

20代で親のすすめる相手と

結婚。すぐに離婚。

実家暮らしをしている。

 

身体が弱く、50代過ぎてから

職に就かず、同居の母の

年金で暮している。

ひとりっ子。

 

彼女とは年に数回

食事をするつきあい。

 

親戚づきあいもないようで、

もし将来入院したときは、

保証人になってくれないか。

そう頼まれたことがあった。

 

そのときは自分の年齢、

家族を心配して断った。

 

彼女はいま一生懸命、

母親の世話をしている。

 

共通の友人は、

「彼女は母親と

共依存関係にあるから、

お母さんが亡くなったら

大変だよ」と言う。

 

「共依存」という言葉は

知らなかったが、

結婚もそうだが、

昔から「なんでそこで

お母さんが出てくるの?」と

思うことが時々あった。

 

お母さんが亡くなられた後の

友人も心配だが、

私に何か頼られても困る。

 

正直、距離を置きたい気持ち。

 

一方でそんなことを思う自分は

薄情かなと思う。

 

どのように友人と

接していけばよいか。

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回答:

不思議なご質問。

問題を抱えているのは、ご友人。

あなたにとって何が問題?

 

入院の際の保証人に

なってくれという

ご友人からの頼みを

既に断っている。

 

しかし、それに今でも

後ろめたさを

感じているんですね。

 

問題は、あなたご自身が、

「自分は薄情かな」と

責めていること。

 

あなたは、「いい人」で

いたいんですね。

 

問題は、それが、

友人に対してか、

世間に対してか、

それとも自分自身に対してか。

 

ご友人は、あなたを

責めているわけでもない。

あなたを責めるのは内面の声。

 

その声はもしかしたら、

「世間の声」かもしれないが、

あなたとご友人の関係を

第三者に語る必要はないから、

世間の声を気にする必要は

ないだろう。

 

残るのは、

「いい人」でいたいかどうか。

これが一番の難題。

 

自分に対して

「いい人」であろうとすると、

報酬は、自己満足だけ。

 

相手に何かしてあげても、

感謝を求める必要はないし、

借金を申し込まれても、

返ってこないと思えばいい。

 

それが10万円ならいいが、

100万円ならためらう、

1000万円は無理! と

「程度の差」があるもの。

 

愛情にも友情にも

限度がある。

 

その限度とは自分の

エゴイズムと向きあう

臨界点のこと。

 

「いい人」でいるための

対価を払うか、それとも

自分の薄情に向きあうか。

 

いずれにしても、

どんな支援も相手のニーズに

合わなければ、単なるお節介。

 

ご本人から具体的に

こうしてほしいと、

依頼が来るのを待とう。

 

それが、あなたの許容範囲なら、

やってあげればいいし、

その限度を超えていたら、

キッパリ断ろう。

 

うかうか「いい人」幻想に

ひきづられて無理をしたのに

相手から感謝も得られず、

見当違いの結果になって、

後悔することになれば最悪。

 

ご友人は、高齢の母のお世話を

しているのだから、

医療保険や介護保険、

場合により、生活保護制度など、

使える公的福祉の情報や

ノウハウを提供するのはよい。

 

年金のない高齢女性の貧困を

あなたが背負うことはできない。

 

でも愚痴や悩みを聴いて

あげることはできるかも。

 

それにも限度がある。

深夜にかかってきた長電話に、

「明日は早いからここまでね」と

きちんと言えるか。

 

ご自分が何者か知るための、

またとない機会。

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「ご自分が何者か知るための、

またとない機会」、ですね。

 

ご自分の許容範囲を

見定め、しっかりと

境界線を引きましょう。

距離をとってもいいのです。

 

共依存関係で慣れている人は

似た関係でつきあえそうな人を

選びます。

 

相談者さんのご友人たちは

彼女とは距離をとって

おられますか?

 

もしそうなら、

相談者さんは、彼女にとって

たったひとりのご友人。

 

ご親戚づきあいもないなら、

相談に乗ってくれる人も、

愚痴を聞いてくれる人も

彼女にはいないのでしょうか?

 

 

相談者さんは、心優しい人。

彼女は、相談者さんに

頼りたそうですか。

 

「力になりたい」と思いつつ、

期待に応えられなかったことで

今も自分を責めてる相談者さん。

 

相談者さんが、依頼を

ハッキリ断ったことは

よかったと思います。

 

むしろ引き受ける方が、

無責任かもしれません。

寿命はわかりませんからね。

 

相談者さん、

ご自分を責めるのは

もう止めましょう。

 

公的福祉の情報や

おひとり様の身元保証など

お役立ち情報を伝えられたら

いいですね。

 

ただ、相手が、それを

必要としているか、ですね。

 

本当に心配なら、自分で

調べると思います。

 

「どんな支援も相手のニーズに

合わなければ、単なるお節介」

 

このことを肝に銘じましょう。

 

叔母の介護問題に向きあう

今の私にも必要な言葉です。

 

ご友人にとって、いまは

「介護が生き甲斐」なのかも。

 

「ひとりで抱え込むことの

ないように」というつもりで、

話した言葉でも、

相手の心に届くかどうか......

心もとないですね。

 

・ご友人が何か言ってきたとき、

対応するかどうか考えておく。

・「いい人」したがる自分に

ブレーキをかける。

・自分を責めない。

 

この3点を意識して、

距離をとりましょう。