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朝日新聞beの「悩みのるつぼ」(2026.8.2)に、
「弟の盗撮がいまも苦しい」という
20代女性からの相談が掲載されていました。
高校生の頃、3歳下の弟に脱衣所で裸を盗撮された相談者さん。
謝罪はありましたが、その後、家庭内では話題にされることはありませんでした。
10年以上たった今、大学生活を楽しむ弟のSNSを見たり、
両親が弟の本代を出していると知ったりすると、
「盗撮したくせに」という怒りが湧いてくるといいます。
性被害、親への信頼、きょうだい間の不公平感。
いくつもの傷が重なっています。
目次
1.「昔のこと」では終わらない
2.「加害した弟の方が大切にされている」という傷
3.いちばん傷ついたのは、家族の態度かもしれない
4.「事件を必要としている自分」を責めなくていい
5.謝罪より先に、家族が何を受け止めるべきか
1.「昔のこと」では終わらない
弟から謝罪があった。再発もしていない。
それでも忘れられない。
性被害は、「謝ったから終わり」と
簡単に区切れるものではありません。
しかも、自宅の脱衣所という、
本来なら安心できる場所で、家族から受けた被害です。
家族や顔見知りによる性被害では、
その後も相手との関係が続きます。
以前、小学生の頃に兄から性的虐待を受けたという40代女性のお話を聞いたことがあります。
その方が許せなかったのは、兄だけではありません。
「母は気づいていたのではないか」
「気づかないふりをしていたのではないか」
その思いが、何十年たっても消えていませんでした。
「未遂で終わってよかった」
「男の子はやんちゃだから」
そんなふうに片づけていい話ではありません。
被害の大きさは、外から簡単には測れません。
2.「加害した弟の方が大切にされている」という傷
相談者さんが怒りを爆発させたきっかけは、
両親が弟の本代を出していると知ったことでした。
「私は自分で買っていたのに」
一見すると、よくあるきょうだい間の不公平感です。
でも、相談者さんにとって弟は、ただの弟ではありません。
自分に性被害を与えた人でもあります。
「家族は忘れている」
「あんなことをしたのに、何のペナルティもなかった」
「今は私より大切にされているように見える」
そう感じれば、本代の話が引き金になっても不思議ではありません。
自分の息子が娘を傷つけたという事実を、
親が直視するのはつらいことです。
ただ、親が蓋をしたからといって、
被害を受けた娘の傷まで消えるわけではありません。
さらに、もし親の中に、
「息子を加害者として扱ってしまったことへの負い目」や、
「これ以上問題を起こさないように、
なるべく不満を持たせないようにしよう」という気持ちがあり、
それが弟への手厚さにつながっているのだとしたら、
どうでしょう。
被害を受けた娘にとっては二重の傷になります。
3.母親の「何のこと?」が残したもの
もしかすると、相談者さんが
今いちばん傷ついているのは、
弟さんの盗撮そのものだけではなく、
その後の家族の態度なのかもしれません。
とくに、同性であるお母様には。
数年前、盗撮のニュースを見て、
相談者さんがお母様に昔の事件を話したところ、
「何のこと?」
という反応が返ってきたそうです。
この一言は、相談者さんにとって、
「私があれほど傷ついた出来事を、
お母さんは覚えていなかった」という、
もう一つの大きな傷になったと思います。
性被害では、加害者の行為だけでなく、
その後、周囲の大人がどう反応したかが
被害者の回復に大きく影響します。
相談者さんが「家族にも覚えていてほしい」と願うのは、
執念深いからではありません。
「私に起きたことを、家族までなかったことにしないで」
という切実な訴えなのだと思います。
4.「事件を必要としている自分」を責めなくていい
相談者さんは、
「弟は人間として私より下だ、と自分を慰めている」
「私はこの事件を必要としているのではないか」
と自分を責めています。
仕事で疲れたとき。
人間関係がうまくいかないとき。
楽しそうな弟の姿を見れば、
「でも、あなたは私にあんなことをしたじゃない」
と思いたくなる。
そこには、傷ついた自分を守ろうとする気持ちと、
「加害した側は何事もなかったように人生を進み、
被害を受けた自分だけが苦しんでいる」
という不条理への怒りがあります。
ただ、その怒りで自分ひとりで
支え続けるのは、とても疲れます。
弟より上か、下か。
弟より幸せか、不幸か。
SNSを見るたびにつらくなるなら、
見ないことも立派な境界線です。
5.謝罪より先に、家族が何を受け止めるべきか
上野千鶴子さんの回答では、
「文書で謝罪してもらう方がよいかも」と
謝罪してもらうことが提案されていました。
それも一つの方法だと思います。
ただ、私は今回の相談では、
弟さんの謝罪だけでなく、
家族全体がこの出来事をどう受け止め直すかが
大切なのではないかと感じます。
相談者さんが求めているのは、
「あのとき私は本当に傷ついていた」
「家族には、そのことを覚えていてほしかった」
「私の側に立ってほしかった」という思いの方が
強いように見えます。
性被害では、加害行為そのものだけでなく、
その後の周囲の反応によって傷が深まることがあります。
家族が事件を話題にしない。
母親が「何のこと?」と反応する。
加害した弟が何事もなかったように扱われ、
むしろ自分より手厚く扱われているように見える。
こうしたことが重なると、
「私の被害は、家族にとって大したことではなかったのだ」
と感じてしまいます。
それは二次被害です。
だから、もし家族とこのことを話す機会があるなら、
「昔のことを蒸し返したいわけではない」
「弟を困らせたいわけでもない」
「私は、あのとき傷ついたことを、
家族にも重大なこととして受け止めてほしい」
と伝えてみてもいいと思います。
相談者さんに必要なのは、
「もう忘れなさい」と言われることではありません。
「忘れられないのは当然だよ」
「私たちは、あなたが傷ついたことを軽く扱ってはいけなかった」
そう、家族から認めてもらうことなのではないでしょうか。
事件そのものは過去の出来事です。
でも、その後の家族の態度によって生まれた傷は、
今も続いているのです。
今回の相談は、そこに目を向ける必要があると思います。

