「夫の介護、できますか?」――家庭内別居を続ける前に考えたいこと
朝日新聞be「悩みのるつぼ」2026.9.13.
60代の女性からのご相談です。
単に「夫婦仲が冷えた」という話ではなく、
不倫疑惑、威圧的な言動、老後不安、経済、介護、
これからの生き方が重なっています。
夫が同じ趣味のサークルに通う女性と親しくなり、
LINEには毎日のやりとりや、会う約束の履歴が残っていた。
妻の勤務予定に合わせて会っていたようにも見える。
問いただしても、夫は認めない。
相手の女性にも「会わないでほしい」と伝え、
弁護士や女性相談にも相談した。
ところが夫は、
「食事はいらない」
「話もしない」と言い出し、
不倫の話をすると物を蹴飛ばし、「出て行け」と怒鳴ることもあった。
現在は家庭内別居。
離婚も考えたけれど、60代という年齢と老後の生活を思うと決断できない。
今の支えは、資格を生かした週5日のパート勤務と、孫の世話。
このまま家庭内別居を続けるなら、どうすれば自分らしく穏やかに暮らせるのか。
そんな相談です。
回答者の上野千鶴子さんは、
「決断するなら夫が元気なうち」と、
かなりはっきりした方向を示していました。
カウンセラーの視点では、
「離婚する・しない」を急いで決めるより、
まず“家庭内別居を安全に続けられる形”を整え、
そのうえで将来の選択肢を減らさないことが大切だと思います。
ただし、先延ばししすぎないこと。
目次
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まず「安全に暮らせる家庭内別居」になっているか
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夫婦ではなく「同居人」として線を引く
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夫から離れる時間と自分の居場所を増やす
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「離婚保留」にも期限をつける
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「夫の介護、できますか?」
1.まず「安全に暮らせる家庭内別居」になっているか
相談文で気になったのは、
物を蹴飛ばす。
怒鳴る。
「出て行け」と言う。
という部分です。
今は直接、身体的な暴力を受けていないとしても、
これは十分に威圧的です。
家庭内別居を続けるなら、
「顔を合わせない」
「食事は別」
「洗濯も別」
という生活上の工夫だけでなく、
相手が怒ったとき、自分はどこへ逃げるかまで
考えておいたほうがいいと思います。
鍵をかけられる部屋があるか。
すぐ外へ出られるか。
財布、スマートフォン、鍵、保険証などをすぐ持ち出せるか。
頼れる人はいるか。
「まだ暴力ではないから」と我慢しているうちに、
恐怖に慣れてしまうことがあります。
穏やかに暮らすための第一条件は、
安心して眠れることです。
2.夫婦ではなく「同居人」として線を引く
今の夫婦関係では、
「夫婦なのだから」を基準にすると、
つらくなると思います。
食事を作るべきか。
洗濯をするべきか。
体調を気遣うべきか。
話しかけるべきか。
そう考え始めると、役割だけが残ります。
今は、いったん「同じ家に住んでいる大人二人」
くらいに考えていいのではないでしょうか。
食事は各自。
洗濯も各自。
予定も各自。
必要な連絡だけする。
共有するお金、共有しないお金を整理する。
家庭内別居は、感情だけで続けるより、
ルールがあるほうが楽です。
特に「ここまでは自分がする」
「ここから先はしない」を決めておくと、
毎回迷わなくて済みます。
毎回迷う、臨機応変の対応というのは、
エネルギーを消耗します。
3.夫から離れる時間と自分の居場所を増やす
相談者さんには、すでに大切なものがあります。
資格を生かした週5日の仕事。
お孫さんとの時間。
私は、ここをもっと大切にしてほしい。
仕事は収入だけではありません。
自分の役割がある。
人と話す。
家とは違う自分でいられる。
誰かから必要とされる。
そういう時間は、家庭内別居を続ける人にとって、
とても大切な支えになります。
お孫さんとの時間も同じです。
ただ、孫はそのうち大きくなります。
孫の世話は、言ってみれば期間限定のお楽しみです。
だからこそ、「孫がいるから大丈夫」だけにせず、
これからは自分自身の楽しみや居場所も
少しずつ増やしておくといいと思います。
一人で出かける。
図書館へ行く。
習い事をする。
友人と会う。
一人で食事を楽しむ。
そんな「夫とは関係のない時間」を増やしていくこと。
家庭の中で夫と距離を取るだけではなく、
自分の世界そのものを広げることが必要だと思います。
4.「離婚保留」にも期限をつける
相談者さんは、
「このまま家庭内別居を続けるつもり」と書いています。
それでいいと思います。
ただし、「最後まで家庭内別居」と決めなくてもいい。
今は離婚しない。
半年後、また考える。
1年後、生活費や体調、夫の様子を見て考える。
それで十分です。
「離婚するか、しないか」
今は保留と考えてもいい。
ただし、保留には期限をつけること。
たとえば、「半年後にもう一度、弁護士に相談する」
「1年後に財産や年金、住まいを見直す」と決めておく。
そうすれば、「決められない自分」を責めずに済みます。
5.「夫の介護、できますか?」
回答者からの
「そんな男の介護ができますか?」
という問いは、とても重要だと思います。
今は夫が元気だから、家庭内別居もできます。
食事を別にする。
話さない。
お互い自分のことは自分でする。
それで成り立つ。
こんな話があります。
義母の介護が終わって、
「やっと今度こそ、夫に離婚を切り出そう」
と思った矢先、夫が入院。
「逃げそこなってしまった」と嘆く女性の話を、
私は何度か聞いたことがあります。
介護は、こちらの都合のいいタイミングで
始まってはくれません。
どちらが病気になっても、状況は変わります。
夫が倒れたとき、
病院へ連れて行くのか。
入院手続きをするのか。
退院後の世話をするのか。
認知症になったらどうするのか。
そして逆に、
自分が先に倒れたら、夫に頼れますか。
こちらも大切です。
家庭内別居を続けるなら、
「元気な今」だけではなく、
どちらかが弱ったときの暮らしまで、
一度想像しておいたほうがいいと思います。
夫婦の愛情があるかどうかだけではなく、
生活の現実としてです。
相談者さんは、
「自分らしく穏やかに暮らしたい」と書いています。
私は、その言葉が一番大切だと思います。
夫を許す必要はありません。
不倫だったのかどうかを、夫に認めさせる必要もありません。
相手の女性とのことを考え続ける必要もありません。
そこに時間を使えば使うほど、夫の問題が、
相談者さんの人生の中心になっていきます。
これから必要なのは、
夫をどうするかだけではなく、
私は、残りの人生をどう暮らしたいか
という問いです。
60代。
まだ先は長いかもしれません。
もしかしたら、短い場合もあるかもしれません。
離婚してもしなくても、
家庭内別居を続けても、
途中で考えが変わってもいい。
ただ、怖い思いをしながら暮らすことだけは、
「仕方がない」と思わないでください。
穏やかな暮らしとは、
夫が静かになることではなく、
夫の機嫌に左右されず、
自分の生活を自分で選べることだと思います。



