「悩みのるつぼ」朝日新聞 be 2024.9.14.
相談:「老いる母。実家に帰るべきか?」
相談者:女性 20代
回答:「あなたは親孝行しています」
回答者:タレント 野沢直子さん
相談内容:
東京で3年ほど一人暮らし。
地元の関西に帰るべきか
悩んでいる。
通訳の仕事をしており、
それなりに楽しんでいる。
仕事が地元より圧倒的に多く、
仕事を続けたいなら残る方が
断然有利。
先日、実家に帰った際、
母親が少しボケた感じで、
受け答えもぼんやりで
驚いた。
実家の愛犬ももう6歳。
怖がりで、母親と誰か
もう一人いないと
散歩に行かない。
父と妹は実家にいるが、
仕事や学校で留守に
することが多い。
私が実家にいた頃は、
仕事帰りに母と犬の
散歩をするのが日課だった。
あの日から、今まで
帰れば当たり前にあると
思っていた実家が少しずつ
失われていく実感があり、
怖くなった。
大切な家族を放っておいて
何をしているのだろうと思う。
何を追いかけているのか、
虚無感を感じる。
私は家族のため、と
自分の人生の重みを他人に
押し付けているだけだろうか。
それとも、何者かになるぞ、
という青臭いナルシシズムから
解放され、本当に大切なものに
気づいたのだろうか。
回答:
とてもとても難しい二択。
悩んでしまうのも納得。
まずは、20代で親元を離れて
自立し、通訳の仕事をして
楽しく暮らしていることは、
ご自分を称えてください。
それはとても素敵なこと。
私が母親の立場で言えるのは、
子どもが独り立ちして
自分の力で生活を成り立たせて
いること、なおかつそれを
楽しんでいてくれるのなら、
それが親としては一番
ありがたいこと。
親からすればそれを超える
喜びはないと思う。
順番からして、自分のほうが
先に逝くわけだから、
子どもが自分の人生を
スタートさせ、それで幸せと
確認できなければ、私は、
親としては余生は安心して
過ごせないと思う。
あなたは親孝行してると、
まず、信じてほしい。
あなたの幸せが、
親にとっては一番大切。
私にも相談者さんと同世代の
娘たちがおり、自分では
ボケてるつもりはなくても、
同じことを何回も言ったり、
言われたこともすぐ忘れたりし、
よく娘たちにからかわれる。
お母様が現在、離れていても
子どもが幸せならそれでいいと
思えるのか、そばにいなくて
寂しいと思っているのか、
一度お母様にはっきりと
尋ねてみるのはいかが?
その回答によって、
あなたの道を選択してほしい。
その際に、あなたの
「何者かになるぞ」の気持ちを
青臭いナルシシズムなどと
称して葬ってしまわないで
ほしい。
その情熱こそが人生にとって
大事なことであり、
その気持ちを持つあなたは
わがままなわけではない。
大変かもしれないが、
その気持ちと家族の両方を
大切にできる方法をご自分で
考えて、どちらかを
あきらめることのないやり方を
見つけ出せるよう頑張ってください。
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相談者さんは、お母様のことを
とても心配なさっていますね。
実家を離れて、3年ほど。
先日、実家に帰られて、
突然、お母様の老いを
感じられたのですか?
お母様が、おいくつか
わかりませんが、
まだ50代でしょうか?
もしかしたら、
たまたま体調が悪かった、
ということはないですか?
犬の散歩は、相談者さんが
おられなくなってからも、
なんとかしておられた
わけでしょう?
その話を今、持ち出して、
何か不自然さを感じます。
相談者さんがいなくても、
ご実家の生活は回ります。
長女気質もあるのでしょうが、
あなたが責任を感じる必要は
ないと思います。
お母様の変化には、
いちはやく、お父様や妹さんが
気づいているはずです。
若年性認知症、うつを
疑っていますか?
電話やメールでは、
親の老いに気づかなくても、
久しぶりに会って、
何日か過ごすと、親の老いを
目の当たりにして、
ショックを受けることも
ありますね。
「今まで帰れば当たり前に
あると思っていた実家が
少しずつ失われていく実感が
あり、怖くなった」とのこと。
それは生きている限り、
親に対しても、
子に対しても言えること。
「母親が終活を始めた」と聞いて、
仕事が手につかなくなるくらい
不安になる人もいますが、
相談者さんも、そういう症状
でしょうか。
お父様や妹さんに、
「実家に帰ってきてほしい」と
言われてから、考えてもいい話。
そのときに「帰らない」という
選択をするのも、アリ。
「仕事をやめて帰ってくる」と
言えば、お母様は喜ぶと
相談者さんは思っている
かもしれませんが、
それはどうでしょう?
お母様のケアが必要で
それをできるのは自分だけと
思いこむと、共依存に
なりかねません。
「大切な家族を放っておいて
何をしているのだろう」、
「何を追いかけているのか、
虚無感を感じる」、
「何者かになるぞ、という
青臭いナルシシズムから
解放され、本当に大切なものに
気づいたのでしょうか」と
書いておられます。
読んでいると、
仕事を楽しんでいることに
後ろめたさがあるというより、
仕事で何か悩みがあるのでは、
と感じてしまいます。
「何者かになるぞ」というのは、
青臭いナルシシズムとは違います。
なぜ、そう思うのか、
相談者さんに聞いてみたいです。
向上心は生きる原動力。
キラキラしている娘の姿を
親としては、見つづけて
いたいと思いますよ。
老いの坂道、
調子のいい日も、
悪い日もあります。
孫が大きくなるのは、
うれしいけれど、
娘の老いを見るのは、
切ないものです。
失うものもあるけれど、
得るものも、多いです。
変化を受け止めましょう。