「悩みのるつぼ」朝日新聞be 2023.11.18.

 

相談:「不仲だった妹の死で抜け殻に」

相談者:女性 60代

 

回答:「心の澱を涙とともに少しずつ流して」

回答者:政治学者 姜尚中さん

 

相談内容:

この夏、2歳半下の妹が突然死。

夏に手術の予定だったが、

症状が進行。手術前に他界。

 

私は真面目な優等生。

妹は正反対で、やがて露骨に

ひがみや嫉妬心を表に

出すようになり、結婚、

離婚も直接知らされなかった。

 

妹は離婚後に3人の子どもを

育て上げ、孫もできたのが救い。

最後に顔を合わせたのは、

4年前に父が亡くなった時だが

心を開いてはくれなかった。

 

妹は今に至るまで可愛い存在

だったが、妹の敵対的な言動の

裏に寂しさがあったのではと

最近思うようになった。

 

姉として妹に何をしてきたか。

妹を本気で気遣ったことが

なかったのではないか。

私は未婚。振り返ると

自分のことだけで精一杯の

人生だったと思う。

 

母より先に妹が逝くと

想像したことはなく、

両親亡き後に仲むつまじい

関係性を築く希望を抱いていたが、

叶わぬ夢となった。

 

あまりの喪失感と寂しさで

魂の抜け殻のような日々で、

いま書きながらも滂沱の涙が

止まらない。この気持ちを

どう整理すればよいのか。

 

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回答:

悲嘆に暮れるあなたに慰めの

言葉が見つからない。

 

気持ちの整理がつかないのは、

妹の死という喪失感だけでなく、

妹と葛藤を抱え、宥和と和解の

機会が永遠に失われてしまった

喪失感が重なっているから。

 

あなたのわだかまりは、

その機会を自ら作ろうと

努力しなかったという罪責感の

ようなものからきていると思える。

それが悲しみだけに浸れない

心の澱になっているのだろう。

 

あなたが光の道を歩んできたと

すれば、妹は日陰の世界を

歩んできたという劣等感の

虜になっていたようだ。

姉さんを慕いながらも、

嫉妬心に苛まれる妹。

その二律背反に気づかず、

彼女の死で思い当たるように

なったあなた。

やりきれない気持ちが罪責感と

なっているのだと思う。

 

あなたに必要なことは

心の澱を涙とともに少しずつ

流していくこと。

不遇感に苛まれた妹は、

離婚という不幸があったにせよ、

3人の子どもを残した。

妹より幸運に恵まれていると

思われたあなたは今、

孤独の中にあるようだ。

 

幸不幸、人生の明暗と生死......。

どれひとつとして正解はない。

 

ならば恩讐をこえて、

妹さんの分も生きるほかない。

なぜ妹は急逝し、あなたは

生き残っているのか。

答えは分らない。

 

ただこう考えることはできる。

妹は私に代わって先に逝って

しまったのだと。

「代受苦」という考えを

瀬戸内寂聴さんから教わった。

「姉さん、いろいろなことが

あったけれど、今はどうでも

いいの。それより、私の分も

生きてね」。

きっと妹はあなたに

そうささやいているはず。

そう思ってみよう。

人間の生きる根拠など、

絶対的なものなどないのだから。

 

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相談者さん、お気持ち、

お察しいたします。

 

突然死は、心の準備が

できていないのでショックは

はかりしれません。

 

こんなことなら、お見舞いに

行けばよかった、電話でも、

メールでもすればよかったと

悔やまれているのでしょう。

 

妹を可愛い存在だと思っても

それが妹に伝わるかどうか。

そういう心配もあって、

避けておられた、あるいは、

避けられていたのでは、

ないでしょうか。

 

キツいことを言うようですが、

お亡くなりになる前に、

すでに妹さんを失っていた

ように思えます。

 

未婚であり、自分のことで

精一杯で、妹のことを

本気で気遣ってこなかったと

思っておられるようですが、

そうすることを妹が望んで

いたかどうか。

 

かりに相談者さんが気遣って

アドバイスしても、妹さんが

感謝するとは限りませんね。

だから、自分を責めるのは

やめましょう。

 

両親亡きあとに、仲むつまじい

関係性を築く希望を持って

おられたようですが、

それは幻想。

 

親が他界すれば、

仲のよいきょうだいでも、

疎遠になることがあります。

 

かりに、相談者さんが先に

この世を去ったとしたら、

妹さんは相談者さんのように

嘆き悲しむでしょうか?

 

現実をしっかり見ましょう。

妹さんは、あなたに甘えもせず、

愚痴も言わず、生きられました。

 

離婚が不幸とも限りません。

相談者さんの価値観で

決めつけてないでしょうか。

 

妹が不幸で、助けられなかった

自分は薄情だと思うとしたら、

それは傲慢かもしれません。

 

いまはご自分の気持ちに

のみ込まれて、悲しみに

沈んでおられる状態。

 

残されたお母様は、

どうなさっておられますか?

相談者さんよりショックが

大きいはず。

 

お母様のケアをすることが、

残された者の仕事と思って

みませんか。

 

それは今は亡き妹さんが、

したくてもできないことです。

 

真面目な優等生。

 

親にそのように育てられ、

それが妹さんとの不仲の

原因だったのだとしたら、

いまできることは、

親との関係を見直すこと。

まだ間に合います。