「悩みのるつぼ」2020.2.15.

相談:「オレオレ詐欺に遭った私」 80代女性

回答:「被害者なのに自責の念…そのわけは」 上野千鶴子さん

 

相談内容:

 つい最近、オレオレ詐欺に遭った。初めは騙された自分が悪いと、

あきらめようとした。騙されたことが恥ずかしく誰にも言わないでおこうと

思った。でも時が経つにつれて悲しくなり涙が出た。

 美しい日本、戦争がない平和な日本。そんな国に生まれた人間が、

弱い老人を騙すなんて、とても恥ずかしいことだと思う。

 私たち老人は戦争中、そして戦後の苦しい時代をがんばって生き、

いまやっと年金をもらえる身分となり、楽しい老後を過ごさせていただき、

毎日感謝しながら生きている。この楽しい老後を、もう少し続けさせて

いただきたかったと考えるのは、わがままだろうか。

 一方で、老人相手に詐欺をするような人間を生み出した社会を作ったのも

私たち老人かもしれないとも考えてしまい、悲しい気持ちがいっそう募る。

 胃がしくしくと痛み、腸の調子もよくないので病院に行った。

今もときどき思い出しては、苦しくなる。どうしたら、忘れることができるのか。

 

回答:

 オレオレ詐欺に遭ったのですか? あんなにキャンペーンしてるのにね。

そりゃ落ち込みますよ。誰にも言いたくない気持ちもわかる。

騙された自分よりだました相手が悪い…のはあたりまえ。年寄りを騙すのも卑劣。

でもね、お年寄りの無知につけこんだかんぽ詐欺とは違う。

 

 あなたが自分を責めるのは騙された自分の愚かさだけでなく、オレオレ詐欺が、

あなたのアキレス腱を突いてきたことに後ろめたさを感じているからでは?

 オレオレ詐欺は息子を思う母心に付け込んだ詐欺。

その証拠に被害者の大多数は父親じゃなく母親。それに、オレオレ詐欺は

あっても、アタシアタシ詐欺はない。「母さん、オレ」と電話がかかってきたとき、

窮地に陥った息子が自分を頼ってきてくれたうれしさ、不始末をして老いた母を

頼るような不甲斐ない息子に育てた親としての自責の念、こんな時こそ自分の出番

という自負心、息子から感謝されたい欲など、もろもろの感情が湧かなかったか。

 騙されたとわかったとき、息子の声さえ聞き分けられなかった日ごろの距離、

動転して息子に確認の電話もしなかった焦りと愚かさ、まさか自分の息子は

そんな親に頼るようなことはしないと信じてあげられなかった哀しさ、

こんな親子関係しか作れなかった悔い…がどっと押し寄せてきたのですね。

オレオレ詐欺の被害者が申し立てをしにくいのは、こういう自責の感情が渦巻くから。

 これから解放されるには、息子さんとこういうやりとりをするしかない。

「おまえがかわいくて、母さんは騙された。愚かだったよ、おまえを信じてやれなくて。

許しておくれ」。こう言われたら、息子さんは間違っても、母親を責めてはならない。

「母さん、わかってるよ。何もかもボクのためだったんだね。でももうボクはオトナだから

大丈夫。困ったことがあっても自分でなんとかするから、母さんは心配しないで」って。

 警告してもしても、いつまでも続くオレオレ詐欺。80代の老母から50代や60代の

いい年をした大人の男が金の無心をするような自立しない親子関係からは

いいかげん卒業して、互いに親離れ・子離れいたしましょう。

 

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 オレオレ詐欺に引っかかってしまいましたか。自分は大丈夫と思っている人ほど

詐欺に遭いやすいと言いますね。相談者さんも、そんな方なのでしょうか。

相談文の半分以上が、社会の問題としての視点からくるお話で、これは自分自身の

問題に蓋をしたいという気持ちの表れでしょう。

上野先生にモヤモヤを言語化してもらって納得されたことでしょう。

でもね、見たくもないものを目の前に突き付けられるというのも、つらいもの。

こういう社会を作ったのは、我々老人であるからと自分自身をなだめるほうが、

まだラクかもしれません。「美しい日本」であっても、「戦争がない平和な日本」で

あっても、悪い人はいるのです。

 

 「おまえがかわいくて、母さんは騙された。愚かだったよ、おまえを信じてやれなくて。

許しておくれ」。こう言われたら、息子さんは間違っても、母親を責めてはならない。

 上野先生は、こう書かれてますが、息子さんは 怒るでしょうね。

でも、いっそ怒られた方が、すっきりするかも。ずっと隠している方が、しんどいもの。

 

 20年ほど前、父も義父も存命のころ、怪しい電話に遭遇したし、

10年ほど前、義母も怪しい電話を受けたと話していました。

手を変え品を変え、いろいろな詐欺が蔓延しています。

誰でも、引っかかる可能性はあるということですね。

 

 さて、「アタシアタシ詐欺」はないけれど、母からのお金の無心に困っているという

相談はよくあります。浪費や買い物依存傾向がある母が泣きついてくる、

あるいは、年貢の取りたてのように仕送り額を一方的に決めてくるなど。

「アカの他人に騙される」と、「実の親に騙される」と、どちらがつらいでしょうね。

 

詐欺は一度騙されると、他の詐欺のターゲットにもなりやすいといいますね。

親子関係でも、そういうことはあります。しっかりとお金の境界線を引きましょう。

親子の場合、もろもろの感情があって断りにくいでしょうが、「ママママ詐欺」と

思って断りましょう。金の生る木はありません。

親離れ、子離れについて考えてみましょう。