「あのジェイという子。理事が連れてきたそうですね。うちの事務所の子ですか?」
「なんでそんなことを聞く?」
チャンミンは2つ目のシーン撮影のために扮装しているジェジュンを残して、タバコを吸おうと喫煙所に向かっていたところだった。しかし、いつのまにか現れ、ちょこちょこ追いかけて、ジェジュンのことについて問うユチョンのせいで、足止めを食らう。
そして、警戒を緩めずに、関心のない返事をした。「興味があるんです。」と目を輝かせながら回答するユチョンはチャンミンがまた歩き始めると、再び歩きながらあれこれ聞き始めた。何歳なのか、本当に日本から来たのか、デビューはいつするのか。そして。
「でも、本当に韓国語できないんですよね?俺さっき喋ったの聞いたんですけど。」
「何?」
ぐっと足が止まった。一緒に止まったユチョンをじっと見下ろした。ジェジュンがことを喋ったとはややもすればことが大きくなることもある。まだユチョンだけが知ってることなら、早く口止めをしなければならない。
「ジェイが話したのかしたのか?」
「はい。上手かったですよ。悪口だったけど。」
「なんて言ったんだ?」
「このクソ野郎、どけ、と。」
「ぷッ」
「何だよ。 まさか理事が教えたものなの?」
「まさか。」
「とにかく初めて来た時も、あのこの雰囲気に惹かれたけど、あの妙に魅力的なハスキーボイスを聞くと、もっと興味が湧くんですよね?理事!僕の車を買う代わりにジェイを紹介して頂けませんか?」
「何?」
「スキャンダルがでないように注意するよ。俺、ちゃんと女子にハマったのは初めてだよ。」
チャンミンは笑いを収めて、ユチョンの本心が滲み出る茶褐色の瞳を黙って見ていた。ジェジュンの声を聞いたにもかかわらず、ユチョンはジェジュン君を女だと誤認している。しかし、それが重要なのではない。ジェジュンに惚れたというのが問題だ。 なぜならジェジュンの厳然たる男だから。
「あいつは絶対にだめだ。いっそ他の女ならスキャンダルが起きまいが問題ない。若干のスキャンダルはむしろファンを刺激する触媒の役割をする。」
「え?他の女はいいのにジェイはなんでダメ何ですか?」
「それは会社の機密だ。つまらないこと考えずに今日の撮影が終わったら、しばらく実家で休みなさい。」
執拗に掘り下げるユチョンの疑問を厳しい目つきで切り捨てる。
しかし、すでにジェジュンは彼の最大の関心の的になっていたようだ。
ジェジュンをトイレに送って、いらいらしながら時計を見て外で待ってると、しょんぼりしながら待機室に戻ったユチョンが再び姿を現した。今にもジェジュンが中から飛び出して来るのではないかと考えてはらはらししているのに、ユチョンはまた深刻な表情で意地を張る。
「どうも理解できません。なぜ他の女の子はよくてジェイはだめなんですか。」
「それじゃあ他の女もダメだ。これでいいか?」
「理事、僕は今言葉遊びにきたんじゃないです。本気なんです。」
「本気?」
「はい。初めて強く惹かれたんです。本当に真剣に付き合ってみたいんです。」
自分の信念が正しいという自信に満ちて、両目を輝かすユチョンを見て、チャンミンはピック、プッと笑った。本気か... 面白いな。君の本気はこの中に入ってジェジュンが男という事実に気づいたら、割れる価値のないガラスのかけらに過ぎないのにね。
「時には直接見て、確固として下した真実が嘘であるときがある。たまに目は立派な外装のごまかしに騙されるんだ。」
「どういう意味ですか?」
「ただ気になって。君が真実と信じていたことが嘘なら、君はどんな反応を見せるだろうかと。」
「?」
「OK、パク・ユチョン。機会を与える。けど、恨まないでくれよ。そして、どんな衝撃を受けたとしても一切誰にもそれについて口外してはいけないよ。」
「まったく、なんなんですか?何をもったいぶってるんですか?」
「中に入ってみろ。そうすれば、僕の言っていることが何かすぐにわかるだろう。」
「え?トイレ?何でここなんですか?用はないんですけど。」
「そこに君の望むものがある。」
不思議そう思いながらもドアを開けて入って行くユチョンを見ながらチャンミンは再びにっこりと笑った。今自分が行った方法は実に残忍で苛酷である。しかし、最も速い方法だ。パク・ユチョン、全部君のためにだよ。いや、もしかしたら…僕のためかもしれない。
チャンミンは謎の笑みを浮かべたまま、壁にもたれかかった。