母方の祖父が亡くなった日、私は部活の大会に参加していた。不謹慎でしょうが、だからやめる、というのも無責任なことなのです。

この大会はインカレ主宰のもので、なにしろあちこちの大学の学生が寄り集まってやる会だ。練習時間が圧倒的に足りず、それだけでも自分の中ではちゃんと出来てなかったのに、こうしてリハーサルも打ち上げの会も欠席…ときたもんだ。誰が悪いわけでも、ないのだけれど……

開始前の弁当タイムには、間に合った。チームのメンバーは、四人。
「残念だったね…今夜、お通夜?」
「そうしたかったけど、お寺さんに先客?がいて、明日お通夜で、月曜に告別式になりました。でも、今日は早く帰ります、いろいろ準備あるんで」
この時のメンバーは、セミプロが二人入っているハイレベルな面子でした。ちなみにそのセミプロさんたちは夫婦になり、今もセミプロしてます☆←我が家ではありません

「葛飾の本家の伯父一家が仕切るから、あたしら指示通りに働くだけですよ」
「本家の長男とか、大変だな…」
そこよ!と、私は身をのり出した。
「伯父さんの息子、今大学四年なの。いとこの身びいきだけど、すごくいい奴です!顔よし、頭よし、運動神経よし、おまけに性格もよいときたもんだ!本家の長男だからちょっと大変だけど、お買い得ですよ~」
残りの三人は顔を見合わせ、ふう~ん、なるほどねぇ~と、イヤな納得をした。
「とむちゃんに恋人がいないのは、そういうコンプレックスが原因か」
「ちょっ、待ってよ勝手なこと言わないで、そんなんじゃないから!だって、1つしか歳違わないし、それこそ一緒に育った兄弟みたいなもんなんだよ」
だ~か~ら~と、本当にニヤニヤされた。
「こりゃ根が深い。大変だねぇ~ そのいとこ以上の人じゃないと、パスしないんだ」
「ハードル設定なんかしてないよ!」
私は怒りながら、パクパク弁当を食った。
「優秀ないとこを持つと、比較されてツラい、って言いたかったの。あと、自閉症のいとこもいる。こっちも大変なんだから」
これまた、シ~ンとなっちゃった。結局発達障害の人と結婚したんだけどね、私。

「お、来たか。この度は、ご愁傷様で…」
同じ大学の同期が、尋ねてくれた。この大会では、別のチームで参加してた。
「ちゃーす。またトラブって、ごめん。葬式月曜になったから、大学休むわ。予定の入っている人には、ちゃんと連絡しとく」
誰か葬式行こうか?と聞かれたから、いいよみんな授業あるんだし来ないでよ、と答えた。
「気持ちだけ、ありがたくいただきました。私も火曜から学校に行くつもり。まだ、初七日、四十九日、初盆とつづくんだしさぁ…」
同期は、腕組みして、眉をひそめた。
「お前さぁ、なんか憑いてんじゃねぇの?」
「なんだよ、やぶからぼうに。厄払いしろってか?うち、クリスチャンなんだけど…」
「なんかオカシイって、去年は大会直前に病気、こないだの春合宿では交通事故、それでこれだろ?なんか祟ってるって、お前」
迷信深い奴だな~とは思いながら、確かにもう勘弁してほしい、と自分でもあきれていた。
「分かった、信心はあまりないけど、行いを慎むようにはするよ。19歳の本厄祓わなかったのがまずかったかな…とにかく、君たちに迷惑かからないようにはするさ」
頼むぜマジ、と同期は去った。

「とむちゃん家って、キリスト教なの?」
「父方は。今回は母方の祖父の葬儀だから、仏式なんだ」
「…家庭内で、信仰の違いってヤバくない?」
いやぁ、べつに…
「父の実家は、そりゃあ熱心な教会員だけど、母方は全然。仏壇も位牌も無いや。墓はあるけど」
いろいろだねぇ…と、まったく葬式弁当になってしまった。これから本番だってのに、景気が悪くて申し訳なかった。

せっかくの復帰後初の大会だけど、私個人としては足りないところの多い結果となった。メンバーのみんな、ごめんありがとう!卒業したのに来てくれた先輩、また力不足を見せてしまって、すみません… 後輩諸君、これは私の実力ではないぞ!待っていてくれ、そのうち本領を発揮するから!!
「そうですか?さすが三年生四年生ともなるとスゴい実力だなって、みんなで言っていたところなんです」
「それは君、セミプロが二人もいたからだよ。周りが優れていると苦労もあるんだ、いずれ分かるよ、一年生にも。んじゃ、また来週、学校でね」

お疲れさまでしたー!と、会場を後にした。今朝家を出てきた時も逃げるみたいだったのに、また脱兎みたい。葬式という大会に集中出来なくて、ちょっと二股交際したみたいな後ろめたさがあった。自分の中での反省はともかく、これでじいちゃんをちゃんと見送ることが出来る。

そうか、そうだったんだ…

ふいに、緊張がとけた。涙。やっと…泣くことが、出来た。