弟の誕生日は少し先だが、せっかく家族四人揃ったから、本人の要望(奴はalwaysすき焼き)を実行に移す。仕事帰りの母と、駅前で待ち合わせて買い物。私が雨人間だからか、東京は今日も雨だった。その上激寒なので、慌てて親の服を借りた。


氷雨の町。友だちと遊び回っていた小学生時代、このけやきのしたで。

買い出しを終えても、父は講演会を聞きに行って留守。弟は炊飯器を買いにでかけた。私は、家族へのおみやげを買いに、新宿に出た。
霧のような冷たい雨が、風と一緒に吹き付けてくる。猛暑に慣れた体には、理解出来ない展開の早さ。東京は、いつもこんなもん?

新宿の紀伊國屋書店。ギャラリーを冷やかす。大好きな日本画家・東山魁夷さんのリトグラフ。「版画で繊細な東山ブルーが出せるわけない」そんな思い込みは、見事粉砕!あぁ、これだ、これが東山ブルー!!しかし今は、教育ローンの予定が。それに、私自身の教育投資のために、上京したんだ。ケチケチいきます!目の保養、ありがとう☆

次は百貨店地下街で、手みやげ探し。新宿東口から西口に出る、懐かしの裏道を使う。高校くらいまではよく分からなかった、東京の道。大学に入ると、本当に右も左もな人を、誘導する必要がうまれる。新宿は東京の数多いターミナルの中でも使いやすく、インカレの会合はいつも新宿だった。みんな、どうしてるのかな…知っている。伴侶を見つけ、子どもを授かり、荒波に漕ぎ出すように生きている。みんな、大学生活なんて一瞬で終わると、分かっていた。社会に出て、家庭を持ってとなると、もう学生の時のことなんて、永遠の夢になって遠ざかってしまう。

あれから二十年も経って、何を見つけるつもりなんだ?

霧吹きみたいな風が、若者とデモ隊と外国人に降りかかる。それが、今の新宿。ここは、カオスの都

すき焼きパーティーは、主賓が鍋奉行を遂行する乱暴なものだった。しかも、すき焼きのたれを忘れたので、随時何かを足して足して、結果よく分からない牛鍋に帰着。鍋奉行の采配がグレートなおかげだね!と、飲んで食べていた私達はお気楽さん。弟提供のうどん使用のうどんすき(主賓にタカるなよ…)で締めた後、駅前のケーキ屋のロールケーキを食べた。私にとっては、町に一軒しかない「いつものケーキ屋」だが、ここが本当に美味しい!こどものうちから、こんな美味いものが誕生日ケーキだったとは、我ながらぜいたくだったなぁ…

でも、25歳で東京を離れて二十年。東京や関東、家族や部活の人間関係…嫌いじゃないけど、息苦しいと感じることもあった。だからではないが、思いきって地方に住んでみた。家族のアスペルガーを話すと、やっぱり心配する母。でも、私のLGBTは打ち明けられなかった。以前LGBTのサークルに参加したときも、親には打ち明けないほうがいいって、助言されたんだ。同居していて、どうしても言わなきゃいけない場合じゃないなら、本当のことをいうのが、常に正しいわけではないから。

性の話は、この歳でも親とは難しい。さらに、トランスジェンダーだ。「そんな体に産んだ覚えはない」と、混乱させるのがオチ。これは、選べないことなんだ。でも…

才能勝負の業界で誠実に働き、脳卒中や腎臓ガンにもまっすぐ向き合っている父。
50代で働き始め、絶え間ないマシンガントークで家族を蜂の巣にしながら、仕事も伯母の介護もなんとかやっちゃうパワフルな母。
ひとり老親を任されて、不安定な仕事だけど、これまた誠実に生きている弟。

私と、わたしの家族。子どもたちはどんな大人になるんだろう。私は趣味に戻れるのか?戻った上で、伴侶と80歳を迎えるんだろうか。ロールケーキって、こんなに美味しくていいの?

さぁ翌日は、今回のお題目が待っている。「はい!敵前逃亡を希望いたします!」
…んなわけなくて、私は電車に乗った。