少子化問題に対する対策について、これまで考えてきた事を整理したうえで、以下のように分析・考察を加えました


少子化問題対策の考察

《目次》

1 出生数が増えない理由

(1)既に子供を産んでいる女性が「もう一人産もう」と思う理由

(2)まだ子供を産んでいない人が「子供を産みたくない」と思う理由

(3)未来の子育て世代を担うZ世代が「将来子供はいらない」と思う理由

(4)結論

2 少子化を改善する方法

(1)少子化の主要因は何か

・東京大学大学院赤川学氏(社会学)の指摘

・中央大学山田昌弘氏(家族社会学)の指摘

・ニッセイ基礎研究所天野馨南子氏(内閣府少子化・共同参画関連有識者委員)の指摘

(2)主要因とされる未婚化の背景にある意識

(3)未婚化の鍵を握る「回避型」愛着スタイルを改善する方法

【引用・参考文献他】

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※下記( )内数字は、その箇所の内容の根拠となる引用・参考文献やデータがあることを示す。詳細は稿末で紹介。

 

1 出生数が増えない理由

(1)既に子供を産んでいる女性が「もう一人産もう」と思う理由

 東京大学大学院赤川学氏(社会学)の検証によると、第二子を産んだ女性の出生に影響を与えた要因は、第一子出生からの経過年数のみであり、夫の家事分担、父母や義父母との同居、妻の年収や官公庁勤務等の要因は無関係であった(①)。(その理由については「2ー(3)」で述べる)


(2)まだ子供を産んでいない人が「子供を産みたくない」と思う理由

「識学」調査(②)によると、20代~40代の女性会社員の中で、「子供を産みたいと思わない・産む予定がない」と答えた人達にその理由を聞いたところ、1位「子供がほしいと思わないため」2位「自由が無くなるため」3位「子供を育てる自信が無いため」「自分自身のために時間を使いたいため」7位「結婚するつもりが無いため」8位「子供が苦手なため」(「経済的な余裕が無いため」は5位)であった。

 なお、この出産意思を持たない人達の中の、既婚と未婚の内訳についてはこの調査の中で明らかにされていないが、ニッセイ基礎研究所の2019年発表の資料によると、夫婦だけの時間や余裕を確保するために意識的に子供を生まない共働き夫婦を指す「DINKs」(Double Income No Kids)の割合が1992年から2015年にかけて2倍に増加していることから、先の調査の中にも、既婚者が一定数いることがうかがわれる(上記理由の「自由が無くなるため」「自分自身のために時間を使いたいため」に相当)。


(3)未来の子育て世代を担うZ世代が「将来子供はいらない」と思う理由

「BIGLOBE」調査(③)によると、18歳から25歳までの男女の中で「将来子供はいらない」と答えた人にその理由を聞いたところ、「お金の問題」が17.7%であるのに対して「お金以外の問題」は42.1%であった。「お金以外の問題」の内訳を見ると、1位「育てる自信がないから」2位「子供が好きではないから」3位「自分の自由時間が無くなるから」であった。


(4)結論

 これまで国が行ってきたような経済支援は、現在も、今後も、出産意欲を高めるうえでは、効果があまり期待できない

 因みに、1995年比で国による家族関係社会支出(家族を支援するための現金給付やサービスのための支出)が常に増え続け、近年で約2倍にまで達している一方で、出生数は逆に徐々に減り続け、やはり1995年比で約4割減っていることが指摘されている(④)。



折れ線グラフに表した際の両者の数値は「ワニの口」とも称されるほど月日がたつにつれて開いていく一方であり、両者の相関関係は皆無である。やはりこれまで行われてきた経済支援によって出生数を増加させることは難しい。

 

2 少子化を改善する方法

(1)少子化の主要因は何か

①東京大学大学院赤川学氏(社会学)の指摘

「出生率低下の要因は、有配偶率の低下(非婚化の進行)と有配偶出生率の低下(既婚夫婦が産む子供の数の減少)に分けられる。合計特殊出生率の基準値2.01から2012年の1.38までの変化量は、約90%が初婚行動の変化(初婚年齢の上昇と非婚者割合の増加)、約10%が夫婦の出生行動の変化で説明できる。夫婦の理想子供数予定子供数はここ30年以上大きく変化しておらず、実際に産む子供数の平均もさほど下がっていない。つまり、少子化の要因の殆どは、結婚した夫婦が子供を産まなくなっているのではなく、結婚しない人の割合が増加したことにあるのである。」(⑤)

②中央大学山田昌弘氏(家族社会学)の指摘

「まず、少子化の主たる原因は『未婚化』、つまり結婚する人の減少にある。(略)保育所が不足していようが、育児休業が無かろうが、夫が家事・育児を手伝わなかろうが、2005年くらいまでは既婚女性は平均2人、子供を産み育てていたのである。一方で、たとえ保育所を増やし、育児休業制度をつくり、夫が家事を手伝うようになっても『結婚していない女性』にとっては何の意味もない。(略)人口学者でも、1990年代の主流は『若者は、独身を楽しみたいがために結婚を遅らせているだけであって、いずれ皆、結婚するはず』と判断していた。つまり、『未婚化』ではなく『晩婚化』と判断していたのである。(略)つまりは、結婚は『しようと思えばだれでも簡単にできるものだ』と考えていたふしがある。」(⑥)

③ニッセイ基礎研究所天野馨南子氏(内閣府少子化・共同参画関連有識者委員)の指摘

「では、少子化の本当の原因は何か?それは、女性のライフスタイルが変わった云々ではなく、そもそも初婚同士の結婚の数が激減したということです。(略)少子化対策の根本的かつ最も有効な手法は、ズバリ『未婚化問題を解決すること』。これこそがまさに対策の一丁目一番地なのです。」(⑦)

④結論

・出生率低下の要因は、有配偶率の低下(非婚化の進行)と有配偶出生率の低下(既婚夫婦が産む子供の数の減少)に分けられること。

・そのうち少子化の主要因は、有配偶出生率の低下ではなく、有配偶率の低下であること。

・赤川氏は、これまでの合計特殊出生率の変化量の90%を占める初婚行動の変化の内訳として、初婚年齢の上昇(晩婚化)と非婚者割合の増加(未婚化)を挙げているが、このうち、前者については山田氏が少子化の主要因ではないと指摘していることや、天野馨南子氏が「未婚化対策が少子化対策の一丁目1番地」と指摘していることから、最終的な主要因は、晩婚化や既婚夫婦が産む子供の数の減少ではなく、未婚化のみと捉えられること。


(2)主要因とされる未婚化の背景にある意識

 株式会社「オノフ」が2023年に行った調査(⑧)によると、「結婚は考えていない/したくない」と答えた女性にその理由を聞いたところ、上位から「人と一緒に住むことが負担に感じるから」(37.8%)「独り身の方が向いているから」(37.3%)「必要性を感じないから」「自由な時間が欲しいから」(いずれも31.1%)「結婚に憧れがないから」(30.4%)「結婚に対して良いイメージがないから」(26.8%)「相手の家族や親族と親しくする自信がないから」(20.5%)「子供はいらないから」(20.4%)などであった。一方で、経済事情を挙げた回答は12位で12.3%であった。

 これらは殆どが、「回避型」愛着スタイルや「不安型」愛着スタイル等を含む愛着スペクトラム障害という一般の家庭の子供に見られる人格不全の、他者愛(自分以外の人との絆を尊重する意識)よりも自己愛(自分の時間や趣味を優先する意識)が強い特徴(⑨)を顕著に表していると考えられる。その中でも、少子化に限って言えば、特に、異性や子供を含む他者との絆を回避する現象「回避型」愛着スタイルが及ぼす影響が強い(⑩)と考える。

 因みに、株式会社「リクルート」のブライダル総研が今年行った調査()でも、やはり同様の傾向が見られている(1位の理由も「結婚するだけの経済力はあるが、自分の利益が少なくなる」という理由)。


 一方で、同じく未婚理由を問う他の各調査(⑫)(⑬)(⑭) の結果を見てみると、それぞれ、「出会いがないから」「適当な相手にはまだ巡り合わないから」「適当な相手に巡り合わないから」という、いわゆる「出会うチャンスに恵まれないから」とする回答が最多を占めている。

 しかし、「出会うチャンス」は、昔よりも、SNSやマッチングアプリ等のインターネットを介した出会い方もできる現在の方が遥かに恵まれているはずである。加えて現在は、出会いのない家庭のみで過ごす専業主婦が多かった昔とは違い、女性の社会進出が進み職場で過ごす人が増えたことから、必然的に出会いの機会も増えているはずである。

 それでも、実際には婚姻数が逆に減っているという厳然たる事実がある(2000年比で約25%減)。これについては、精神科医の岡田尊司氏が(現在は愛着スタイルの関係から昔に比べて)結婚生活や子育てに希望や新鮮な興味が持てなくなっている」(⑮)と、天野馨南子氏が、既婚者と未婚者の婚活の度合いを比較する各種データから「結婚に至るには、積極的に動いて(結婚に繋がるような)活動の量を増やす必要がある」(⑯)と、それぞれ結論付けているように、先の「出会うチャンスに恵まれないから」という意識はあくまで主観的なものであり、実際には、自分から異性との絆を結ぼうという積極的な態度が弱くなり、無自覚のうちに受け身的な意識に陥っていると考えるのが適当と思われる。

 加えて、先の「オノフ」や「リクルート」の調査だけでなく、冒頭で紹介した20代~40代の現在子供がいない女性会社員やZ世代が「子供はいらない」と思う理由においても、他者愛よりも自己愛を優先する「回避型」由来のものが多かった。そのことからも、「出会うチャンスに恵まれないから」という意見が最多を占めた3調査に回答した人達だけが、婚活意欲は十分にあったと捉えることには無理がある。

 因みに、上記調査の「現在子供がいない女性会社員」の未婚・既婚の内訳が記されていないが、働く女性の中に既婚者が含まれていても不思議ではなく、既婚女性の中でもこの「回避型」化が進んでいることは十分考えられる。結婚した夫婦が一生に産む子供の数「完結出生児数」が2010年に初めて2人を切ったのも、夫婦の中での「回避型」化が進んでいる表れかもしれない。

 

 これらのことから、現在の未婚化を防ぐためには、彼らの「回避型」愛着スタイルを、他者愛を大切に考える安定型の愛着スタイルに改善することが最も有効であることが分かる。仮に、大幅な家族関係社会支出によって一時的に子供の数が増えたとしても、親の育て方が変わらなければ、結婚・出産を避ける「回避型」と非「回避型」との割合は現在と変わることがなく、将来的に産まれる子供が大人になった時の財政上の負担感も変わることはないと推測される。


 因みに、世の中には「出産や結婚できないのは経済的な事情のため」という指摘があるが、岡田尊司氏は、仮にそうであるならば、経済があれほど活発だったバブル期でも出生率が下がり続けたり、逆に今よりずっと貧しい時期でも高い出生率(例えば戦前の出生率は今の約3倍)を維持したりするはずがなく、「結婚生活や子育てに希望や新鮮な興味が持てないことの方が大きい」と反論している()。その指摘は先の未出産者や未婚者対象のアンケート結果とも合致する。


(3)未婚化の鍵を握る「回避型」愛着スタイルを改善する方法

 岡田尊司氏によると、「回避型」愛着スタイルは、乳幼児期からの親の養育の仕方によって決まり、それが「第二の遺伝子」として、その人の一生の人格を決定づけるとされる。つまり、これを改善するためには、親を対象に、子供を安定型の愛着スタイルを持った大人にするための子育ての方法を広く周知する必要がある。

 先に赤川学氏の「第2子出生に影響を与える要因は第1子出生からの経過年数のみ」という指摘を紹介したが、それは、脳が「今もまだ長い狩猟時代が続いている」と勘違いしていると言われる中にあって、既に子供を産んでいることから現在も約3分の2いる安定型愛着スタイル(⑱)と考えられる女性達が、子育て支援など無くても必要を感じれば子供を産みながら生き残ってきた狩猟時代の祖先と同じように産んでいることの表れであると推測する(つわりや産後うつも、当時の生き残るための知恵の影響だそう)。そんな人類にとっては、僅か20数年前に突如示された現金給付や保育サービス等の“ご褒美”は意味をなさないのだろう。

 少子化が始まって約50年。これまでの世代間連鎖によって子育ての中に「回避型」愛着不全を生む様々な誤解が生じている中にあっては、私達の祖先と同じように正しい愛情を注ぐ、その方法を知ることから始めなければならない。


 そこで私は、そのための親対象の啓蒙プレゼンテーションを考えた。


ポイントは、養育者との絆を諦める「回避型」を生みやすい乳児期に見られる幾つかの誤解(ワンオペ育児、0歳児保育、「抱き癖がつくから抱かずに泣かせたままにしておいた方がいい」「泣かせておけば、そのうち静かになる」「泣く子育つ」という泣くことを肯定する考え方等)の払拭、「回避型」を生みやすい子育て(日常的な叱責、親がスマホ等に依存する放任育児、頻繁な養育者の交代)の自覚、代表的な3つの生活場面の中での、子供を受容する母性と子供に社会的自立を促す父性の正しい使い分け方である(特に、子供が問題症状を起こした時の母性と、普段の生活の中での継続的な母性が重要)。

 現時点では、妊婦健診という、これから子供を産む、基本的に全ての親が受診する機会を活用して視聴を行う案を考えているが、産後であっても、早ければ早いほど安定型愛着に改善されやすいことが指摘されている(⑲)。

 因みに、この啓蒙プレゼンテーションの実施に架かるコストは、主にプレゼン視聴の際に視聴者に配る紙冊子資料の作成費だけである。

 

【引用・参考文献他】

①赤川学(2017)「これが答えだ!少子化問題」(ちくま新書)p.72-73

②https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000094.000029010.html

(●)

③https://www.biglobe.co.jp/pressroom/info/2023/02/230221-1

④https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/17313b0cb6121ff927b306d7d3381a38581179ce

⑤赤川学(2017)「これが答えだ!少子化問題」(ちくま新書)p.61-62

⑥山田昌弘(2020)「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか? 結婚・出産が回避される本当の原因」(光文社新書)p.44-46

 天野馨南子 (監修)(2021)「未婚化する日本: ペアーズ共同調査と統計データが示すその傾向と対策」(白秋社)p.48-50

⑧https://www.onoff.ne.jp/blog/?p=6295

⑨岡田尊司(2012)「愛着崩壊 子どもを愛せない大人たち」(角川選書)p.186-188

⑩岡田尊司(2022)「回避性愛着障害 絆が希薄な人たち」(光文社新書)p.97-104,108-130,136-141

⑪ https://souken.zexy.net/data/ra/renaikan2023_release.pdf p.8

 株式会社パートナーエージェント(https://www.p-a.jp/research/report_110.html)

⑬財務総合政策研究所(https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2020/jinkou202103_05.pdf)

⑭第14回出生動向基本調査(https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou14_s/doukou14_s.pdf)

⑮岡田尊司(2012)「愛着崩壊 子どもを愛せない大人たち」(角川選書)p.4

⑯天野馨南子 (監修)(2021)「未婚化する日本: ペアーズ共同調査と統計データが示すその傾向と対策」(白秋社)p.87-95,115

 岡田尊司(2012)「愛着崩壊 子どもを愛せない大人たち」(角川選書)p.4,203

 岡田尊司(2011)「愛着障害 子ども時代を引きずる人々」(光文社新書)p.48

 岡田尊司(2012)「発達障害と呼ばないで」(幻冬舎新書)p.90-91