拓也の言葉に心乱されベストコンディションでセンター入試に臨めたとは言えない私だったが、自己採点の結果は案外好調で予定通り地元大学の教育学部に願書を提出した。専攻については色々迷ったが、思い切って最初は考えていなかった心理学を第一志望にした。志保先輩が在籍しているところで、教育学部の中では難関だったのだが児童心理や青年心理といった幅広い分野を学んでみたいと思ったのだ。将来の職業についてはそれらを学んでいく中から選択していければ、という思いだった。亮太も予定通り北大医学部に願書を提出し休む間もなく私立の入試本番の時期となった。
「おっはよー。寒いねぇ。明後日から東京の叔母サンのとこに泊まって連戦だよー。泉は私立どうするの?」
純子である。3年生は既に自由登校期間となっていたが、登校して自習室を利用している者も多かった。
「考えたんだけどね。S大1本でやってみるよ。ダメだったら浪人。」
「勇気あるなぁ。私なんて私立6校だよ。」
「臆病なんだよ。地元に拘るなんてさ。第一志望、突破できるといいね!」
「無理無理!一応たっくんと一緒のところだから記念受験ってところ。けど頭の中身が違いすぎる。」
「拓也だってそれほどってわけでもないでしょ? 同じところ受けるって話したの?」
「ううん。あれからはもう全然。合格して同じ土俵に立てたらいいけどね。でもダメでも東京に決まったらもう1度きちんと話してみるから。」
心持ちうつむく純子だった。拓也のことを話題にしてはいけなかったのだ。
「氏家くんは北海道でしょ? 泉、離れ離れになっちゃっても平気なの?」
「心が通じ合ってるからね。な~んて。まぁ、まだ合格した訳じゃないし。」
「そうだよね。先のことばっかり考えても巧く行く訳じゃないんだよね。」
「とりあえずは目先の目標ってことで・・まずは純ちゃん、健闘を祈る!!」

 純子が出発した翌日、拓也も受験のために上京した。亮太からの情報によると、集中したいということでホテルに滞在しながらの連戦になるらしい。独りで校門を後にする時、葉の落ちた例の大きな樹が目に入った。「ハルニレ」と書かれたプレートには北海道に多く自生する樹木と解説が付いている。ふと「この樹が亮太を北海道へ誘ったのかも」などと脈絡の無いことを思い浮かべてしまい苦笑する。この樹が深い緑に変わる頃、私はどこで誰と一緒にいるのだろうか。