車で丘の高い地域へと向かう。この後に観るドゥワラワティ寺院遺跡とトゥクビモルカー遺跡は、従来のツアープランには入っておらず、追加オーダーしたもの。いずれも入場無料で、同じディエン高原内にあるため、追加料金は発生しない。ただ、ゆえにヤシンさんもあまり客を連れて行かないからか、道を知らず、スマホのナビを頼りに移動していた。
ドゥワラワティ寺院遺跡の近くに到着。駐車場がないため、ヤシンさんは車の道の脇に停めて待機。そこから俺1人で結構長い歩行階段を上って行くこととなった。なお、雨はまだ降っていたが、車の中には傘が常備してあり、貸してくれた。
「なんだ、車に傘があるならアルジュナ寺院遺跡群の時に借りておきゃ良かった」と思ったが、そう言えばアルジュナに行く前に「傘要るか?」と聞かれたのに、まだ降っていなかったので「要らない」と返事していたことを思い出した。雨が本格的に降り出したのは、その後のことだった。今回はしっかりと傘を差した。
向かっている途中、突然誰かに「ねえ」と誰かに声をかけられた気がした。振り向いたが、周囲には誰もいない。…? 何だ? 確かに今、とりわけ日本語っぽいイントネーションで「ねえ」と言われた気がしたのだが。怪奇現象か?
すると、近くの建物の中からごそごそと物音が聞こえて、「メエー」という鳴き声が聞こえた。内部は伺えないが、どうやらこの建物は山羊小屋で、中にいる山羊が「メエー」と鳴いたのが日本人のイントネーションの「ねえ」に聞こえたようだ。山羊はインドネシア語でカンビン。インドネシア人は山羊肉を普通に食し、山羊肉の串焼きのことを「サテ・カンビン」という。
ドゥワラワティ寺院遺跡に到着。入場無料。外観を撮影。内部には何も無し。建物の塔頂部は未修復で、まだ無い。かつてはこの標高が高い丘の辺りにもヒンドゥー寺院群が形成されていたらしいが、現在復元されているのはこのドゥワラワティ寺院だけらしい。
この日は雲が厚いが、ドゥワラワティ寺院遺跡は標高が高いところに建つだけあって眺望が良く、周囲の集落民家の景色が美しい。この頃、かなりの雨が降っていたが、傘を差していたので身体を濡らさずに済んだ。
続いてこの日の最後の見所、トゥクビモルカー遺跡へと向かう。トゥクビモルカー遺跡は古代のマタラム時代から続く水浴び場で、イメージとしては「聖泉」という感じ。遺跡についての情報は少ないが、現役の水場でもあるということに興味が湧く。ここもヤシンさんはスマホのナビで調べながら移動し、着いた。
トゥクビモルカー遺跡に到着。入場無料。外観を撮影。現在も水は流れており、地元住民の日常生活水や儀式の場として使われているという。
水場は3段式の構造で、下段に2つの噴水口がある。上段が儀式や供物を捧げる神聖な場、中段が水を溜める場、下段が水浴び場となっているらしい。
2つの噴水口のうち、向かって左側の噴水口には何らかの彫像が設置されている。少し前までは右側の噴水口にも彫像があったが、今はなかった。内部にアクリル製のパイプが埋め込まれていることから、この彫像は7世紀から続く本物ではなくて、近現代に作られたレプリカと思われる。
ただ、雨天だからか、この時の噴水口から流れ出る水は茶色の泥水で汚かった。正直、この泥水では手や顔を洗う気にはなれない。それでも、雰囲気の良い場所であった。
トゥクビモルカー遺跡の上部に登ると、展望台らしき建物があったので、登ってみた。
展望台からは周囲の野菜畑の景色が美しかった。
これにてティエン高原での観光は終了。ディエン高原という地の感想は、正直、涼しいを越えて寒かった。雨、霧。インドネシア人の観光客はここに涼しさそのものを楽しみに来ている様子だったが、こっちは日本に帰れば冬で普通に寒いし。それでも、俺はマイナーでマニアックなレア観光地が大好きだし、前日までの旅でできた足のマメが痛くて長くは歩けなかったので、ツーリストカーを手配して回ったのは正解であった。
車に乗り、ジョグジャへと戻る3時間半の長い移動が始まった。
途中、ヤシンさんが「ミー・オンゴロッ」の店「クダイ・オンゴロッ・ディエン」を見つけたので、遅めの昼食を食べることにする。クダイは「店」の意味で、オンゴロッはディエン高原地域の郷土料理である。観光客向きのレストランで、内部では土産もたくさん売っていた。
俺はミー・オンゴロッ&サテ・サピ(牛肉の串焼き)3本のセット(Rp25000=307.5円)にエステーマニス=甘いアイスティー(Rp7000=86円)をつけて。ヤシンさんはミー・オンゴロッ&サテ・アヤム(焼き鳥)3本のセット(Rp22000=270.6円)にオレンジジュース(Rp9000=110.7円)をつけて、注文。こちらの習慣に従って、ヤシンさんの分は俺が支払い、2人分で計Rp63000=774.9円であった。
ミー・オンゴロッとはミー(麺)の中にこの地域の名産であるジャガイモが練り込んである料理で、タレはとろみのある甘辛あんで、ピーナツソースで味付けされている。若干、量が少なめではあったが、美味。なお、ヤシンさんによるとディエン高原はウサギ肉の名産地とのことなので、「サテ・クリンチ(兎肉の串焼き)」を食べてみたかったのだが、この店には置いていなかった。
店内では土産用にミー・オンゴロッのインスタントラーメンも売っていたが、高いので買わなかった。また、土産物の中に「カリカ」なるものがあった。これもディエン高原の名産品で、パパイヤのシロップ漬けとのこと。確かに、この地域にはパパイヤ畑があって、実が成っていた。ヤシンさんいわく「高地のパパイヤはすべてシロップ漬け用に栽培されているもの」とのこと。あまり食指が湧かなかったので、買わなかったが。
続いて、日本への土産用にコーヒーや紅茶を購入するため、ウォノソボのローカルマーケットへと向かった。
ウォノソボへと向かう道の途中、我々の車が多量の麻袋を荷台に積んだドラックの後ろに付いた。この荷物が何なのか、ヤシンさんに聞くと、テールスープ用の「牛の尾」とのこと。確かに、今回は食べる機会がなかったが、インドネシア料理には牛の尾のスープがある。それにしても、牛の尾だけをこんなにたくさん積んでいるのか。
ウォノソボのローカルマーケットに到着。午後なので、マーケットの店はかなり閉まっている。ヤシンさんが野菜売り場に居た店員のお姉さんに聞いてくれて、コーヒーや紅茶を売っている店まで連れて行ってもらった。
「トコ・ブディ」なる店。トコとは「商店」のことで、どうやら問屋のような店であった。ブディは固有名詞=商店名であろう。この店でインスタントのジャワコーヒー(事後に知ったが砂糖入り)とジャワティーの紅茶葉を多量に購入した。いずれも純正ジャワ産で、特に紅茶葉は100%ディエン高原周辺産とのこと。
砂糖入りインスタントコーヒーがRp1500×40袋でRp60000(738円)。紅茶葉が10袋セットだと1袋あたりRp3800で計Rp38000(467.4円)。バラ売りだと1袋Rp4000。この時の紅茶葉の在庫は全部で18袋しかなく、8袋分はバラ売りの値段で1袋あたりRp4000で計Rp32000(393.6円)。紅茶葉は合わせて18袋でRp70000(861円)。いずれも包装は簡素だが、現地価格で安い。インスタントコーヒーと紅茶葉を合わせて58袋で計Rp130000(1599円)。1袋あたり27円となり、日本への土産として良い買い物ができた。
その後、ヤシンさんは「嫁のために(ディエン高原の名産である)ジャガイモを(案内してくれた店員のお姉さんの店で)買って行く」と言っていたのだが、午後になっていたからか、思うようなものがなかったようで、結局、買わないでいた。替わりに、案内をしてくれた野菜売り場の店員のお姉さんにはヤシンさんからチップを渡していた。
また、ディエン高原はドリアンの名産地でもあるとのことで、ウォノソボのマーケットで買って食べたかったのだが、閉まっている店が多く、時間もなかったので、探して買うことができなかった。まあ、しょうがない。日本への土産の購入の方が優先順位は上だから、多量のインスタントコーヒーと紅茶葉が買えただけでも十分だ。
その後、ジョグジャへ向かう長いドライブが続く。空が暗くなってきて、俺は眠気にも襲われた。相当の長時間が経ったため、後部座席に広げておいた濡れたTシャツも乾いていた。
車はジョグジャの街に入った。外はもう真っ暗である。この後、夕食に「ナシ・グドゥ」を食したいので、車から下してもらう場所は宿よりもマリオボロ通りの方が良い。その旨、ヤシンさんに伝えたところ、「今日は土曜日で、土曜日のマリオボロ通りは17~22時の間、許可車両以外の車両は進入禁止になる」とのこと。そのため、マリオボロ通りの手前、トゥグ駅の辺りで下ろしてもらった。
この日は従来のディエン高原ツアーに加え、ドゥワラワティ寺院遺跡とトゥクビモルカー遺跡の2ヶ所を加えたのと、帰りの車移動の途中で事故渋滞があったこともあり、12時間の予定のツアーが13時間半になってしまった。終始運転していたヤシンさんは、疲れていたであろう。
加えて、ヤシンさん自身、行きも帰りもボロブドゥル⇄ジョグジャの運転移動があるから、この日は計16時間ほど運転していたことになる。さらに明日は朝から俺の空港送迎。ハードな仕事になるが、33歳のヤシンさんはまだ若いし、こっちのツーリストドライバーはそれくらいタフでないと務まらないのだろう。それに、そういう仕事が入ると報酬も多いわけだから、疲れるとはいえ意外にラッキー?なのかもしれない。
トゥグ駅近くから徒歩でマリオボロ通りを進む。前日のジャランジャラン(散歩・散策)により、マリオボロ通りと交差するダゲン通りにナシ・グドッの店があるとわかっていたため、直行する。
ダゲン通り沿いにある「ナシ・グドッ」の店、「ラハルジャ」に到着。ジョグジャの至るところに支店があるという老舗で、このダゲン通り沿いだけでも複数の店舗がある。店頭にて、メイン商品と思われる「ナシ・グドッ・コンプリート」なるメニューを注文し、店内へと入る。
店内は、こんな感じ。「ゴザ」の上に「胡坐座り」で「ちゃぶ台」につくスタイルが良い。
「ナシ・グドッ・コンプリート」。Rp46000(565.8円)。ナシ(白飯)にグドッ=ナンカ(ジャックフルーツ)の甘辛煮、チキン、茹で卵、クレチェック(牛の皮=ゼラチンor脂肪?)、薬味のチリが1プレートで乗っている。
味は美味。ただ、料理の内容は前夜にマリオボロ通り沿いの屋台で食べた「ほぼナシ・グドゥッのナシ・プチェル」と大差ない。あっちの方には野菜が乗っていたが、こちらには無い、という程度しか違いがない。「なんだ、やっぱり昨夜食べたものは事実上のナシ・グドッだったのか」と知った。
そして、わかったというか思い出した。俺が31年前にジャカルタのホストファミリーに連れられてナシ・グドッを食べたのは、このラハルジャという店だ。もしかしたら違う支店かもしれんし、当時、尻をゴザに下ろして座るスタイルだったかの記憶は曖昧だが…雰囲気的に、まず間違いない。今更ながら、ちゃんと「ナシ・グドッの老舗の名店」に連れて行ってくれていた31年前のホストファミリーに感謝である。
なお、土曜日の夜のマリオボロ通りには物乞いも多い。ラハルジャの店内でナシ・グドッを食べていると、物乞いがギターを持って歌いながら勝手に店に入って来て、食事客に「喜捨」を要求していた。店員はそれを追い出したりもしない。そういや、31年前にもそういうことがあったっけ。でも、雰囲気は平和。そして、俺は喜捨はしなかった。
ナシ・グドッを食べ終えて、宿へと戻ることにする。
帰りがけ、宿に通ずる小径の入口にある食堂に到着。ラハルジャで食べたナシ・グドッは美味だったが、正直、コンプリートというメニュー名の割には量が少なかった。なので、2日連続でこの食堂で食べ加えることにした。
ナシ(白飯)の上に、店頭のショーケースにあった6種類の惣菜すべてを注文して乗せてもらった。メニュー名でいうなら「ナシ・チャンプル」。チキン、チキンのつみれのサテ(?)、ナス炒め、ゴーヤ炒め、かき揚げ、タフ(豆腐)のつみれ(?)の6種類。ドリンクはつけず、調味料のサンバルとケチャップマニスをつけてRp22000(270.6円)。これでさすがに腹いっぱい。ていうか、揚げ物多めで、ナシ・グドッを食べた後ではちょっと重かったかも…。
宿のシンガマカナンへと戻る。バリ島から来ていた若いカップルの滞在は今朝までだったようで、今日は俺1人で空き家に宿泊状態。しかも夜中に建物内の一部が停電し、お湯シャワーが出なくなり、コーヒー&紅茶用の湯も沸かせなくなった。足のマメが痛くて、もう歩けないので、寝る。部屋の空気清浄機は一部停電から免れて作動していたが、それでも暑くて汗だくになり、眠れん…。
暑さで夜中に目が覚める。キッチンには俺宛てに菓子パン的な軽食が3つ、置かれていた。この宿には常駐スタッフはいないが、朝のうちにスタッフが来て、連泊の宿泊者には朝食用の軽食を置いて行くらしい。朝食用だが夜中に食して、再び寝た。
続く。次回、ようやく最終回。