プランバナン周辺には、プランバナン寺院を中心におよそ5km四方に渡って、数々の古代遺跡が点在している。また、プランバナン寺院遺跡公園自体も南北の長さが1.7~1.8kmほどある。要は、とにかく広い。そして、暑い。これらの遺跡を時間的にも、体力的にも、費用的にも、効率よく巡るためには、自転車の利用が望ましい。

 

プランバナン寺院遺跡公園の正面入口は南側にある。正面入口の近くに立つプランバナン寺院遺跡を観た後、その先の公園内を北に向かって進むと、ルンブン寺院遺跡、ブブラー寺院遺跡、セウ寺院遺跡の3つの遺跡群があり、セウ寺院遺跡は公園の最北端に立っている。

 

また、公園の北側には出口があり、そこから公園の外に出ると、そこから北東方面にもガナ寺院遺跡、プラオサン寺院遺跡という2つの遺跡群がある。暑さや疲れにもよるが、できれば今日のうちにそれらを巡っておきたい。

 

 

プランバナン寺院遺跡の裏側には、レンタル自転車屋がある。少し前の情報だと料金は30分Rp10,000(123円)だが、世界的に急激な物価上昇の傾向にあるので、現在の料金はもっと高いと思われる。

 

ただ、このレンタル自転車は、おそらくは遺跡公園内でしか使えない見込みが強い。つまり、プランバナン寺院遺跡公園の外に位置する遺跡を観に行くには使えない、ということ。

 

当初はこのレンタル自転車を使って、まずは先に公園内の3つの遺跡群だけを観て回ることも考えた。ただ、その後に公園外の北東方面の遺跡を巡るには、北側の公園出口辺りで自転車の乗り捨てができれば良いが、それはできない様子。つまり、南側に近いこの場所に自転車を返却に来なければならない。そうなると、距離と時間の多大なロスとなる。

 

ただ、俺は事前調べにより、公園北側の出口から公園の外に出て少し移動すると、別のレンタル自転車屋があるとの情報を得ていた。なので、この先の遺跡巡りのプランとしては、「プランバナン寺院遺跡の裏側から徒歩で北に向かって出発→公園内の3遺跡を巡る→公園北側の出口から公園の外に出る→レンタル自転車屋で自転車を借りる→公園の北東方面に点在する2遺跡を自転車で巡る→その後は時間、体力、暑さ次第」ということにした。

 

 

ルンブン寺院遺跡、ブブラー寺院遺跡、セウ寺院遺跡が立つ方向(=北)を示す道標看板。これら3つの遺跡の入場料はプランバナン寺院遺跡公園の入場料に含まれている。なお、プランバナン寺院はヒンドゥー教の寺院だが、これら3つの寺院は皆、仏教寺院である。そして、何気にこれら3つの遺跡もプランバナン寺院遺跡と共に世界遺産に登録されている。

 

道標に従い、徒歩で出発。ここから先は、俺は31年前には観に行っておらず、未踏である。

 

まずは3つの遺跡のうち、一番手前に立つルンブン寺院遺跡を目指す。その途中に「プランバナン博物館」があったらしいが、道を逸れた場所であったため、気が付かず。ただ、時間や体力を考えると、結果としてそれくらいはスルーして正解であった。

 

 

ルンブン寺院に到着。本堂を撮影。上部が未修復のようで小ぶりな寺院だが、巨大なプランバナン寺院を観た後ではそう見えるのは致し方ない。

 

 

ルンブン寺院の本堂は16棟のストゥーパ(仏塔)的な小堂に囲まれている。

 

 

本堂の中には、「ここに仏像が収められていたであろう窪み」はあるが、彫像の類は無い。遺失や盗難に遭ったのであろう。

 

徒歩でさらに北へと向かう。プランバナン寺院には観光客がたくさんいたが、公園の奥の北の方の寺院遺跡まで観に来る観光客は非常に少なく、静かで良かった(…まあ、修学旅行生に取り囲まれるのも悪い気はしないんだが)。

 

 

ブブラー寺院に到着。本堂のみが現存しており、撮影。ブブラーとはジャワ語(≠インドネシア語)で「壊れる」という意味で、発見当初は損壊が激しかったためその名が付けられたらしい。内部に入ったが、彫像の類は無かった。

 

 

ブブラー寺院の裏側を撮影。ていうか、公園内の進路に沿って歩いていると、道に面しているのはこっちの裏側なのだが。

 

 

さらに歩いて行くと、セウ寺院が見えて来た。ここは前2者と違って祠堂の数が多く、寺院敷地も広い。実際、セウとはジャワ語で「1000(≒たくさん)」の意味で、多くの祠堂が立っているためその名が付いたという。

 

 

セウ寺院に到着。ボロブドゥルに次ぐ、インドネシアで2番目に大きい仏教寺院であるという。敷地の入口に立つ2体の彫像は「守護神ドゥワラパラ」像。ここは仏教寺院だが、事実上はヒンドゥー教との混合宗教であったらしく、建設当時の異宗教の王国同士の交流が反映されている。

 

 

 

セウ寺院は、1つの本堂と4つの副堂を240の小祠堂が四方を取り囲むように立つ構成となっている。

 

 

ただ、実際には未修復の祠堂が多く、現在進行形で修復作業が行われている様子が伺えた。こうして見ると、修復の手順は、まず土台となるパーツを探して、土台から上に向けてパーツを積んで行く。キーになるパーツが見当たらない場合は形に合わせて石で新しく作り、ジグゾーパズルの穴を塞ぐように完成に近づける、という感じか。

 

 

そして、敷地内に残る仏像のほとんどが、人為的に首が切られて、無い状態であった。仏像の頭は高値で売れるらしいので、盗難に遭ったのであろう。

 

 

本堂を裏側から撮影。なお、ここも本堂の内部には彫像の類は無かった。

 

 

本堂の外壁には精巧な彫刻が掘られている。この寺院は事実上、仏教とヒンドゥー教との混合宗教であったから、これらの彫刻はヒンドゥー教の神なのかもしれない。

 

このセウ寺院はかなり広く、それぞれの祠堂も立派なのだが、俺がセウ寺院の敷地内に居る間、俺以外の観光客は誰も来なかった。ここで手持ちの水とアミノ酸を飲み干し、痙攣止めの薬3錠を飲んだ。

 

 

プランバナン寺院遺跡公園内の観光を終えたので、北側の出口から公園の外に出る。

 

この後は、レンタル自転車屋まで徒歩で移動し、自転車を借りるつもりなのだが…そのレンタル自転車屋が見つからない。声をかけてくれた地元住民のおっちゃんに道を聞いたりして、地図を追ってさらに歩くが、どんどんと田舎の農村エリアに入って行く。こんな田んぼだらけの地域の中に、観光客向けのレンタル自転車屋なんてあるか? 方向は合ってるはずだが…?

 

途中、裏路地で屋台を見つけた。そう言えば今日は、朝から何も食べていない。腹が減ったので、まずは何か食べることにする。

 

 

辿り着いた屋台、というか、小さな食堂?を撮影。屋台をプレハブで覆っているというか、倉庫を改良した感じ? プランバナンは観光地だが、この店構えで裏路地に位置しているのでは、日本人観光客が食べに来ることはまずない店であろう。

 

メニューにチャプチャイ(野菜炒め)があったので、ナシ(白飯)、アイスティーと合わせて注文。屋台の店員はお姉さんとお婆ちゃん。ここで、お姉さんの方は少し英語が通じそうだったので、調理前に「レンタルサイクルショップ、ディマナ(どこ)?」と、自転車を漕ぐジェスチャーをしながら聞いてみた。

 

すると、店員のお姉さんは俺を食堂から連れ出してくれて、カーブしている小路に沿って歩き、その先にあるレンタル自転車屋の店舗を指さして、教えてくれた。これは有り難い。そして、助かった。果たして、レンタル自転車屋は田んぼだらけの農村エリアの中にあった。早速、食事が出て来る前にレンタル自転車屋へと出向くことにした。

 

 

店の名称は「アルガ・ロヴァ・ツアー」。ツアーというからには、広義での旅行会社なのであろうか? 実際には、店頭に看板フラッグが張り出されていなかったら、ただの農村の一般的な民家である。

 

「プルミシー(すいませーん)」と言いながら中に入ると、スタッフは不在で、寝たきり(?)の婆さんが留守番をしていた。その婆さんに話しかけると、婆さんが爺さんを呼んでくれた。2人とも英語は解さない。爺さんにジェスチャーで「自転車を借りたい」との旨を伝えると、爺さんは店頭の看板フラッグに載っている電話番号を指さした。「ここに電話しろ」ということだ。

 

おそらく、スタッフ(爺さんの息子?)の携帯番号なのであろう。しかし、俺のスマホは基本、国外では通信機器として機能しない。なので、その旨をジェスチャーで伝え、店内にあった自転車2台を指さし、「イニ、サトゥ(これ1台貸してくれ=それだけで良いから)」と頼み込んだ。すると爺さんは、徐に空気入れを持ち出し、1台の自転車のタイヤに空気を入れてくれた。つまり、貸してくれるということだ。有り難い。

 

レンタル料金は不明。爺さんも知らなそうなので、後で言い値で払うことにする。ただ、返却時刻だけは確認が必要なので、ジェスチャーを交えて「リターン、ジャンブラパ(何時?)」と聞くと、爺さんは指で「3」と示した。15時までに返却ということだ。その時点で時刻は12時。使えるのは3時間。まあ、良いだろう。そして、ここでも片言のインドネシア語が使えることの強みを実感した。

 

 

苦労して(?)借りた自転車を撮影。ヘルメットの菅笠も貸してくれた。菅笠はだいぶ埃を被っていたが、日差しの強い国では有効だ。自転車に跨り、屋台へと戻る。

 

 

屋台に戻ると、注文していた「ナシ・チャプチャイ」が出て来た。チャプチャイは野菜炒めの一種と聞いていたが、実際には肉(たぶん鶏肉)も入っていた。美味。なお、暑くて喉が渇いていたので、先に出て来たアイスティーを飲み干すと、お婆ちゃんが「水も飲む?」と言って、水も出してくれた(有料)。計Rp28,000(344円)。

 

世話になったお姉さんとお婆ちゃんにお礼を言って、菅笠を被って自転車に跨り、北東方面の遺跡巡りに出発。次に目指す「ガナ寺院遺跡」は「アルガ・ロヴァ・ツアー」の店から近い。

 

ガナ寺院遺跡に到着。寺院の敷地は金網に囲まれており、入口には施錠がされている。ただ、遺跡修復の業者(?)のためのスペースが寺院敷地に隣接しており、スタッフがいたので声を掛けたところ、「入れよ」と言ってくれたので、業者スペースを通って寺院に入場した。入場無料。

 

 

ガナ寺院遺跡。仏教寺院で、敷地内にあるのは基壇(土台)とパーツ瓦礫のみ。

 

 

祠堂の類が無いため地味だが、このガナ寺院もプランバナン寺院と共に世界遺産に登録された遺跡である。なお、プランバナン地域の世界遺産のうち、プランバナン寺院遺跡公園の外にある遺跡は、このガナ寺院が唯一とのこと。

 

続いて、ガナ寺院から約1.5kmの位置にある「プラオサン寺院遺跡」へと向かう。長い一本道の車道に出て、ひたすら東に向かって自転車を漕ぐ。レンタル自転車屋を探して彷徨っていた時、この道の序盤を歩いていたため、当然に既視感もあり、道に迷うことはなかった。

 


プラオサン寺院遺跡が見えて来た。ここも仏教寺院で、北院本堂(向かって左)、南院本堂(右)の2棟をメインに構成されている。寺院敷地の手前で野焼き(?)が為されており、立ち上る煙越しに見える本堂2棟の姿には風情があって、画になる。…ただ、画像撮影に限っては、画像が霞んでしまうので煙は邪魔なんだが。

 

 

寺院入口に着き、入場券を購入。Rp50,000(615円)。クレカ支払い不可で、キャッシュで払う。入場券の半券を撮影。今の時代、こういった入場券は、インドネシアでも「味気ない感熱紙レシート」が主流なのだが、ここではちゃんとデザインされた入場券があった。なお、このプラオサン寺院遺跡は世界遺産ではない。

 

手持ちの水分が尽きていたので、入場前に入口近くの売店で水とコーラを購入。冷えていたが、Rp15,000(184.5円)と高いのはやはり観光地価格か。と言っても、ここプラオサン寺院でも俺が敷地内に居る間、俺以外の観光客は誰も来なかったのだが。

 

 

 

プラオサン寺院の敷地に入場。まずは手前に立つ南院本堂の外観を撮影。横幅があってどっしりとした、中世ヨーロッパの古城を思わせる形態をしている。南院では、69基のストゥーパ(仏塔)と16棟のペルワラ(小祠堂)がこの本堂を取り囲むように立っていたという。

 

続いて南院本堂の内部に入る。なお、このプラオサン寺院の内部は土足禁止で、靴を脱いで靴下を履いたまま入った。

 

 

南院本堂の内部には、元々3体の彫像(仏像)があったものと思われるが、現在は真ん中の彫像が無かった。

 

 

続いて、奥に立つ北院本堂の外観を撮影。外観は南院本堂と一緒で、撮影した画像を見返してもデザイン上の違いは見当たらない。北院では、239基のストゥーパ(仏塔)と116棟のペルワラ(小祠堂)がこの本堂を取り囲むように立っていたというので、その数からして南院よりも規模が大きい寺院であったと思われる。

 

 

北院本堂の内部に入る。南院本堂と同様、こちらにも元々3体の彫像(仏像)があったものと思われるが、こちらも現在は真ん中の彫像が無く、しかも、両サイドの彫像の頭部が人為的に切られて、無い状態であった。

 

 

このプラオサン寺院でも、ストゥーパ(仏塔)とペルワラ(小祠堂)の多くは今も瓦礫のまま、修復作業の時が来るのを待っている。

 

セウ寺院やプラオサン寺院は敷地が広く、その基壇(土台)の数や状態から、元々は幾多の祠堂が立っていたことがわかる。もしこれらの瓦礫がすべて修復に至るなら、プランバナン寺院に匹敵するようなヒストリカルサイト(歴史的見所)になるのではないか?という気がする。

 

尤も、プランバナン寺院にもいまだ多数の瓦礫が残っているわけで、そちらの方も修復に至ったならば、やはりプランバナン寺院の方が神殿が最も高くて豪華なので、そっちが一番メジャーなヒストリカルサイトとなるのだろうな、とは思うが。

 

 

なお、事後に知ったのだが、このプラオサン寺院は正式には「北プラオサン寺院」というらしい。少し離れたところに「南プラオサン寺院」もあるのだが、今回は事前情報がなくて、俺は行けなかった。

 

何しろ、「北プラオサン寺院」の中に「北院本堂」「南院本堂」があるため、事前調べをしているうちに、俺の中でそれらが混同してしまったようだ。南プラオサン寺院の遺跡は小規模だが、元々は北プラオサン寺院と合わせて広大な敷地を持つ1つの寺院だったと考えられているらしい。

 

プラオサン寺院を辞去し、自転車に乗ってプランバナン寺院遺跡公園の方面へと戻る。この後、どうするか。プランバナン周辺には、南方面、南西方面にも遺跡が点在している。ただ、南方面の遺跡は丘陵地域にあるため、今の体力で自転車を漕いで行くには、時間的にも体力的にもしんどい。行くなら南西方面の遺跡か。

 
ともあれ、行けるどころまで行ってみることにする。続く。