和食処みやたやの近く、「草津熱帯圏」に到着。
草津熱帯圏の入口外観を撮影。昭和45年開園。海抜1165m、日本で最高地に位置する動物園で、国内唯一のペット同伴で入園できる動物園とのこと。
入場券売場を撮影。現在の入園料は1300円で、宿に置いてあった100円割引券の適用で1200円で入れた。ちなみにその割引券には「通常入園料1200円→1100円の100円割引」とあるが、昨今の物価高騰に伴い、通常入園料は最近1300円に上がったようだ。国や自治体の傘下にない民間の動物園で、入園料だけで経営を賄っているとのこと。
歴史の長い動物園だけに、取材を受ける機会も多かったようで、入場券売場の周囲には多くの著名人のサインが飾られていた。個人的に目を引いたのはアニマル浜口(2015年)、新日本の永田・小島・中西(2016年)のサインであった。
入場券売場の棟を抜けると屋外に出て、そこにニホンザルの「モンキーパーク」がある。今の時期、猿山には積雪があり、その上で猿が観光客に餌をねだっていた。猿の餌は園内で100円で売られている。
さらに奥に進むと動物園としての本体である「熱帯大ドーム」がある。中に入ると…暑い! 草津温泉の地熱を暖房として利用し、熱帯圏に棲む動物を飼育・展示しており、動物園に温水プールを加えたような、独特の臭いもする。
熱帯大ドームの内部から天井に向かって撮影。地方にありがちな、いまだ昭和の雰囲気満載の動物園である。進路に従い、動物を見ながら通路や階段を進んで行く。
展示されていた動物は魚類(古代魚、ナマズ)、爬虫類(ワニ、毒蛇、大蛇、イグアナ、トカゲ、亀)、哺乳類(カピバラ、マーラ、猿類、ミーアキャット)、鳥類(フラミンゴ、インコ、フクロウ、オニオオハシ)等々。懐かしのエリマキトカゲも展示されていた。この草津熱帯圏はパプアニューギニアで捕らえて来たエリマキトカゲを日本で最初に展示した動物園で、現在飼育されているのは3代めとのこと。
飼育動物のラインナップは同じ群馬にあるジャパンスネークセンターに近い。ジャパンスネークセンターも脱走した大蛇など、違法飼育から押収されていた動物を引き取っていたが、この草津熱帯圏でもグリーンイグアナなど、飼育できなくなったペットの爬虫類を引き取って飼育・展示していた。
この動物園のイチ押しはカピバラ。別名オニテンジクネズミ。展示場の柵の一部が小窓のように開かれていて、そこから撮影ができたり、触れたい人は触れることもできる。展示場には各カピバラの家族ストーリーが図示されており、それによると、育児放棄や兄弟間の苛めみたいなものもあるらしい。wikipediaには「社会性が高く上下関係に厳しい動物」とある。
最大のげっ歯類=ねずみの仲間で、現在は日本でもけっこういろんな動物園で飼育されているメジャーな動物であるが、俺が1994年にモントリオールのバイオドームで初めてカピバラを観た時は、「何だ? この動物は? 体型はイノシシのようにも見えるが…?」と衝撃を受けた憶えがある。
この草津熱帯圏を代表する動物の一種である「オニオオハシ」。ぱっと見た時、マレーシアのパンコール島で野生のを見たことがある「サイチョウ」の一種かと思ったが、サイチョウの特徴であるツノがない。オニオオハシはオオハシ類の最大種で、ブラジルに棲息し、大きな黄色い嘴が特徴で、「アマゾンの宝石」と呼ばれるらしい。
実際、熱帯大ドームには様々な動物が飼育展示されていたわけだが…現在、草津温泉自体はインバウンド需要もあって栄えてる、儲かってると言えるのであろうが、この草津熱帯圏はなかなかに厳しい経営を強いられているとのこと。ただ、それでも、園内からは職員の情熱が感じられた。古臭い昭和の説明書きと併せて、子どもが楽しめるようにイラストを交えた説明書きや、各個体の性質や性格を紹介する説明書きもあった。資金は潤沢でないながらも、来てくれた人を楽しませようという意気込みが感じられた。
最も好感が持てたのは、空(から)の展示ケージには簡易ながら「休止中」のメモが張られていたこと。これは動物園・水族館あるあるなのだが、説明展示のある展示ゲージの中に何もいなかったり、空なのかどうかがわからない展示ケージが「そのままに放置」されていることが多い。それだけならまだしも、何の説明もない状態の檻や水槽に全然わからん生物が収められていることもある。これは観に来た人、特に子どもにとっては「何じゃこりゃ?」の極みでしかない。
勿論、園側に何らかの理由があって、一時的に展示ケージをその状態にしておかなければならないのであろうことはわかる。それでも、それを放置したのでは、大袈裟に言えば入園客を置いてきぼりにしているのに等しい。そこに「休止中」のメモ書きが張られているだけで、入園客に対して不可欠なホスピタリティと成り得るのだ。それがちゃんとしているのは良かった。
なお、熱帯大ドーム内で一番元気だったのは、園内のその辺をうろちょろしていた野良のクマネズミであった。
熱帯大ドームを出て、「ふれあい館」に入る。ここでは触れることができる動物が飼育展示されている。
丸まっているハリネズミが3匹。これも触れることができる。他にもリスザル、フェネック、カメレオンなどが展示されていたが…正直、万が一にも噛みつかれたり引っ掻かれたりしたくないなら、触らない方が無難だ。
外に出て、入場券売場の棟に戻る。
棟の一角に手浴・足浴用の水槽がある。これがビューティーフィッシュ。俗に言うドクターフィッシュである。有料で体験できる施設は日帰り温泉などにもあるが、この草津熱帯圏では無料で魚に啄まれる体験ができる。
で、重要なこととして(?)、この魚は英名もドクターフィッシュなのだが、日本では「ドクターフィッシュ」というのは他社の登録商標であるため、この動物園では使えないらしい。よって、ここではビューティーフィッシュなる名称を使っている。
昔、アホロートル(和名メキシコサンショウウオ)の白色種を「日清やきそばUFO」のCMで商標登録して「ウーパールーパー」と呼んだのに近いものがあるのか? 一般的に使えない登録商標の言葉は、一時的なブームにはなっても定着し難い。時が経ち、ウーパールーパー自体も今や「死語」か。
ドクター=ビューティーフィッシュは基本、日本では学名の「ガラルファ」と呼ばれるようだ。1980年代にトルコに存在するものをTV番組「なるほどザワールド」で取り上げられたことがきっかけで、日本でもその存在が広く知れ渡った。実際に日本に輸入され、ペットや商用とされるようになったのは、おそらくその後20年くらい経ってからのことだと思う。
手浴の水槽の中を泳ぐガラルファ。体長10cm程度、クチボソくらいの大きさである。足浴の水槽もあるが、そこにはあまり魚がいないし、足を浸けている人もいない。一方、手浴の水槽には多くの魚がいる。備え付けの水道で手を洗い、手を浸けてみた。
手を入れて動かさずにしばらく待つと、多数のガラルファが寄って来る。そして、指をつんつんとつつき始めた。
そのうち、ガラルファ達は競うように俺の手の皮をつつき出した。皮膚の表面の古い角質層を食べ、クリーニングしてくれている。俺自身、このビューティーフィッシュは初体験なのだが、その触感は痛くもくすぐったくもなくて、親近感や可愛らしさが感じられる、ちょうど良いものであった。
実際、ガラルファのクリーニングは「フィッシュセラピー」という医療目的で使われることもあり、トルコやドイツでは保険適用の医療行為として認められているという。一方で、衛生面を理由に医療行為として認められていない国もある。
ガラルファは、通常は淡水の河川や池沼に棲むが、1950年代にトルコにて実施された開発により、34℃の温泉が湧出する河川に棲んでいた魚群が温泉と一緒に隔離された。そこから水温37℃台でも棲息できる生態学的適応が始まり、温泉浴に来る人間の皮膚をつつくようになったのだという。
草津熱帯圏を辞去する。この動物園は、草津温泉における数少ない観光資源の1つであり、草津温泉の地熱を暖房として利用するというのはエコでもある。無料のビューティーフィッシュも良かった。今後も厳しい経営が続くとは思うが、園の維持に努めて欲しい。
徒歩で湯畑方面へと戻る。時刻は14時過ぎ。帰りの長距離バスの時刻までは2時間以上ある。最後に「白旗乃湯」で入浴することにする。
白旗乃湯の浴槽。場所は湯畑に近いが、ここの源泉は白旗源泉である。入ると…熱い!
浴槽は2つあり、向かって左の浴槽が特に熱く、右の方が若干ぬるい…と感じたが、それでも右の方も熱い! 温度を下げるための水道蛇口はあるのだが、それを浴槽まで伸ばすためのホースがない。肩まで浴槽に浸かっては、熱さに耐えられず浴槽外に出る、を繰り返した。
ちなみに今更だが、草津温泉の共同浴場はどこもソープ・シャンプー使用不可である。使用禁止というか、その必要がないほどに酸性と硫黄成分が強い。
白旗乃湯を出ると、目の前には隣の建物の「湯もみショー」待ちの大行列。前日も多くの人で溢れていた草津温泉だが、この日は金曜日=週末だけに、さらに人が多い。
いったんスーパーもくべえへと出向き、惣菜弁当などの食料を調達してから、草津温泉バスターミナルに移動した。
草津温泉バスターミナルにてトイレに寄ったら、廊下の天井に「草津温泉駅」なる表示があった。ここは鉄道駅ではなくバスターミナルなのだが、その昔、国鉄時代に「バス駅」と呼ばれていた頃の名残のようだ。
16:25発の吉祥寺駅行きバスに乗車。乗車率は8割程度。途中、サービスエリアで20分程度の休憩があったので、買っておいた惣菜弁当をそこで食す。全般的に物価が高過ぎるサービスエリアでは、そこで何を買って食べるよりも、スーパーの惣菜弁当の方が安い。
20:20に吉祥寺駅着の予定が、渋滞に巻き込まれなかったこともあり、少し早めに到着した。JR中央線で武蔵小金井駅に移動し、徒歩で帰宅した。万歩計は2日間で49000歩を越えていた。
草津温泉は観光ポスター等で「泉質主義」を掲げているだけあり、相変わらずのパワー&クオリティを持つ「温泉」であった。首都圏からも近い上、直通の高速長距離バスを利用したこともあり、手軽に湯治に行けることを実証できた。正直、インバウンド需要もあっての人混み(そして聞こえて来る中国語)には辟易した部分もあったが、まあしょうがない、そういう時代なんだろう。機会があったら、また行ってみたいと思う。
以上です。