10時に宿をチェックアウト。帰りのバスは16:25発。草津温泉は湯量が豊富で、良質な浴場がたくさんあるが、さすがに6時間以上、温泉に入っているだけというのは厳しい。
なので、どこかに観光に行くことにしたのだが、草津温泉にはいわゆる「観るもの」は少ない。個人的に興味があるのはB級スポット的動物園の「草津熱帯圏」くらい。正直、湯もみショーとかは興味ない。そこで、バスターミナルに「重監房資料館」のポスターが張られているのを思い出し、徒歩で行くことにした。
「重監房」とは、かつて草津温泉に送り込まれて来たハンセン病患者を対象とした懲罰用建物のこと。2019年頃に開館したらしく、草津温泉からはかなり歩くことにはなるが、入場無料。また、俺自身、かつて(仕事柄)清瀬駅からバスで行く「国立ハンセン病資料館」を見学したこともあり、繋がりもあると言える。方向的には重監房資料館は草津熱帯圏のさらに先なので、時間次第では帰りに草津熱帯圏にも寄ることにする。
荷物を背負って出発。湯畑の横を通り、国道292号をひたすら東へと進む。遠い…。
途中、国道292号沿いに無料共同浴場「こぶしの湯」を発見。重監房資料館に向かってグーグルマップを見ていたら、見つけた。外観を撮影し、建物の外側を確認すると、「地域住民以外入湯禁止」の類の張り出しが一切ない。これは…? 観光客でも入れるのか? 入るとしても帰りに寄るとし、ともあれさらに東へと進む。
国道292号をひたすら歩く。道路の両脇には積雪。温泉街からは遠く離れた場所まで来たが、重監房資料館の姿はまだ見えない。
山の中の国道をかなり歩き進め、ようやく重監房資料館への道の分岐点に到着。この後は積雪が固められて凍結した道の上を歩く。
「重監房資料館」に到着。入場無料。まずはハンセン病の歴史、及び、資料館建設に至った動画を観るとのことで、職員が案内してくれた。
動画2本を観た後、館内に展示されている重監房のレプリカを観る。
重監房の実寸大レプリカ。
ここには全国から隔離されたハンセン病患者の中で反抗的な者が集められていた。正式名称は「特別病室」だが、病室とは名ばかりで、冬には雪が吹き込むような、非常に環境の厳しい独房であったという。1938~1947年までの9年間で、特に反抗的とされた延べ93名のハンセン病患者が入室として習慣され、そのうち23名が亡くなったという。この監房への収監は正式な裁判によるものではなく、ハンセン病療養所の所長が有する「懲戒検束権」に基づいて行われ、患者の人権は完全に無視されていた。中には冤罪的な収監も多かったという。
70年以上が経った今、重監房は基礎部分を残すのみとなっており、2013年にその基礎部分の発掘調査が行われ、南京錠、椀、眼鏡など、そこに人が収監されていたことを示す遺物が複数、出土されたという。なお、その現存する基礎部分を見てみたかったのだが、その場所は資料館から少し離れた山の中で、記念碑などもあるらしいが、今の時期は積雪の下に埋まっているという。
資料館には重監房の基礎部分から発掘された出土遺物も展示されていた。
重監房資料館を後にする。敷地には資料館の他に納骨堂があり、一般の人が立ち入ることができるのはその2つの建物だけとされている。資料館の敷地は「国立療養所 栗生楽泉園」の敷地と隣接しており、栗生楽泉園には今もハンセン病患者が住んでいるとのことだが、だいぶ高齢で、現在の人数は100人に満たないらしい。
栗生楽泉園の住民居住棟と思われる建物群。プライバシー保守のため、重監房資料館に来た観光客が栗生楽泉園の敷地に立ち入ることは禁止されている。そういえば「国立ハンセン病資料館」を訪れた時も、今もハンセン病患者が暮らしているのは、(その時も敷地の中には入っていないが)こんな感じの建物群であった。
来た道=国道292号を東に向かって戻り、無料共同浴場「こぶしの湯」に到着。改めて建物の外観を確認したが、やはり「地域住民以外入湯禁止」の類の張り出しは一切ない。なので、入湯することにした。
「こぶしの湯」浴槽を撮影。源泉は万代鉱源泉。
どうやら18ヶ所の無料共同浴場の中ではかなり新しい方のようで、他の無料共同浴場では見られなかったステンレス製カラン蛇口やシャワー、鏡などが設置されており、印象に残った。湯温は熱めだが、シャワーで水を引っ張って埋めたところ、浴槽に浸かることができた。
脱衣場の中にも「地域住民以外入湯禁止」の類の張り出しは為されていない。それどころか、むしろ逆に「この浴場は地域住民が管理運営している地域住民の浴場です。入浴には充分なマナーを守り入浴してください」「入浴時に挨拶を。特に地域住民以外の方、挨拶を交わしお互いに気持ち良く入浴しましょう」等、現在も部外者の入湯を歓迎するかのような張り紙が複数為されている。その紙の古さからは、コロナ前から張り出されていることが窺えるが、「地域住民以外入湯禁止」の旨で上書きされてはいない。
しかも加えて、募金箱が置いてあり、「ポケットから落ちましたコイン等、いただけました時は来季の花に咲きます。又、出かけてください(『また来てください』の意味か)」と、なかなか粋なことが書いてある。草津温泉の他の無料共同浴場では、こういう寸志を求める箱は見たことがない。自分が部外者だから手前勝手な発想になってしまうのだろうが、地域の無料共同浴場運営のためには、部外者の入湯を禁止するよりも、歓迎して寸志を受ける方が効果があるのではないか?と感じる。
そもそもこの「こぶしの湯」は立地的に温泉街から遠く離れた位置(昭和区)にある無料共同浴場であり、通常であれば外部から来た観光客が入る機会は少ないと言える。少なくとも外国人観光客が無料でここに入れるという情報を得ることは困難であろう。だからこういう対応が通用する…とも言える。
俺は今回、外観のみ撮影したところを含めて、18ヶ所の無料共同浴場のうち11ヶ所を訪れた。入湯したのは5ヶ所(白旗温泉にはこの後に入った)。思えば、その「部外者への対応」は各所によってまちまちであった。かなりヒステリックに「地域住民以外入湯禁止」の旨を張り出しているところ。「地域住民以外入湯禁止」の張り出しはあるが中から出て来た人が「入っていいよ」と言ってくれたところ。建物の外側に「地域住民以外入湯禁止」の旨が一切張り出されていない(ので入った)ところ。建物の外側には「地域住民以外入湯禁止」の旨が一切張り出されていないが中に入ると張り出されているところ。そして、ここ「こぶしの湯」のように、現在も部外者の入湯に対し歓迎の意を張り出しているところ。
ネット上で調べた事前情報によると、部外者が入れる無料共同浴場は湯畑の近くの3ヶ所のみだが、実際には他にも2ヶ所あった。これはやはり、実際に来てみないとわからないことである。また、長距離を歩いたので、この位置に部外者でも入れる無料共同浴場があったのは有り難かった。
長距離を歩いたため、だいぶ腹も空いて来た。さらに国道292号を戻り、事前に調べておいた「和食処みやたや」にて昼食を取ることにする。
天ぷら定食・ご飯大盛1350円(税込)を注文。ご飯が普通盛なら1200円(税込)である。これが凄かった! まるで懐石料理かのように、見るからに豪華で品数が多く、器も美しい。これだったら3000円でもおかしくない…いや、昨今の物価高騰状況ならもっと高額でも「ぼったくり」とは思えない、それほどのクオリティである。
この天ぷら定食はメニュー表の一番上に書いてあるが、値段も最も高い部類のメニューであった。つまり、丼ものなど、もっと安いメニューもあるということ。食材費も急高騰しているであろうこのご時世において、この価格は正直、驚きでしかない。しかも、味も超美味。
店は夫婦で切り盛りしており、店内は客で満席。俺はカウンターに座った。客層は地元の人が多い様子だが、俺以外にも観光客らしき人もいる。ただ、2人で店を回しているため、切り盛りに限界があるようで、1~2人程度の客は受け入れていたが、4人以上の来店客には「すみません、今は対応できません」と言って入店を断っていた。その辺は、お一人様である俺個人的には構わない。草津温泉にて、超穴場の名店を発見してしまった。
昼食を終え、「和食処みやたや」の近くにあるB級スポット的動物園「草津熱帯圏」に入ることにする。
続く。