ガス人間第1号(1960年 The Human Vapor)作品解説
前年で「日本誕生」や「宇宙大戦争」といった大規模な特撮作品を連続していた東宝であるが翌年になり「太平洋の嵐」を中心に「美女と液体人間」(1958年)以来に小規模な特撮による2本の変身人間作品を制作した。
それが「電送人間」と本作品である。
企画としては比較的小予算で製作可能な特撮作品の意図もあるがよりドラマチックな内容の深い特撮作品との意図もあったようだ。
変身人間シリーズは1954年の「透明人間」からスタートし「美女と液体人間」、「電送人間」と続いたがどちらかといえばドラマ的充実というよりも寧ろ活劇路線に向かってドラマが展開されている感じもしたが本作品ではよりドラマチックな展開に力を注ぎストーリーもこれまでの作品よりも複雑な展開に向かって進行する作品となっている。
折しも本作品が製作、公開された1960年、安保闘争が起きそのあおりで全国各地で銀行強盗の事件が世間を賑わしていたのだ。
そうした不安定な世間を反映し尚且つこうした不安な状況の最中の一方で宇宙旅行のブームもありこれらを採り入れた企画が本作品の母体となっていったのだ。
さて、こうした要素を基に木村武氏が脚本を執筆するのだがここで木村氏は1958年の「美女と液体人間」に続いてジャンルとジャンルの融合した一種得体の知れない作品として仕上げていくことになるがここでは前作の「暗黒街」ものと「刑事もの」、そして「特撮物」というジャンルの融合に続き今回は更に恋愛物の要素をも採りいれてよりドラマチックな展開を試みたのである。
どちらかといえば「液体人間」に比べると暗黒街物の要素は比較的抑えられているのだがその分恋愛物と特撮物とのジャンルの融合がより充実し本多監督も幾多の恋愛ものも手がけていたこともあり変身人間シリーズでは最高傑作となるほどの秀作になった。
さてここで木村氏が意図したものとは何なのかといえば社会からドロップアウトされた者同士の恋愛ということに尽きるのではないかと思うがまずガス人間となっていく水野は図書館で勤務していた真面目な男であったが彼の夢はジェットパイロットでありこの図書館の勤務はどちらかといえば適切なものでなく妥協して就いた職であるために安定しながらも心のどこかで不満を抱いている。
ところがある日宇宙飛行士の目的で人体実験をしようとする佐野博士によって人間でない人間となってしまい体は人間だが心では怪物的なものになってしまう・・・。
一方の藤千代は日本舞踊の第1人者だったのが落ち目となっていき社会から抹殺されてしまう。
その二人が偶然の一致か水野の勤めている図書館にて出会いそして恋に落ちる・・・それが報われないとしても・・・。
この社会から疎外された二人を丹念に描くことで人間の本質を抽出しており真の人間ドラマを形成しているのだ。
本多監督によれば二人の関係は情に絆されただけで本当に藤千代が水野を愛していたわけではなかったとのことだが心中までしたラストを見ると二人は死んでしまったので最後の最後で二人は結ばれたと思いたい。
このドラマチックなストーリーを音楽で支えたのは従来の伊福部氏や「液体人間」の佐藤勝氏ではなくこの作品が初の特撮作品となる宮内國朗氏である。
ジャズ出身の彼が関わった本作品の音楽は冒頭からストレートな緊張感溢れる音楽でしかもシーンにシンクロしたものだ。
彼の音楽は伊福部氏とは別の点で映画音楽には成功しており後に円谷プロの「ウルトラQ」や「ウルトラマン」(いずれも1966年)で音楽を担当することになるのも納得出来る。
話は戻すがラストシーンでのドラマの盛り上がりはこの宮内氏の音楽があればこそ盛り上がったと思う。
さて円谷監督の特撮シーンだが本作品では主にガス人間の具現化とよりドラマに密接した特撮シーンに力が注がれている。
人間の肉体がガス化するという現在でも技術的に難しいとされる特撮シーンに円谷監督は次のように映像化している。
それは土屋嘉男氏の顔や手の輪郭にただアニメ合成の煙を重ねるのではなくやや輪郭を膨らませてドライアイスの煙と青白い光のようなアニメを合成させたのである。
これによって徐徐に水野がガス人間となっていく描写を丁寧に描いてるのが判る。
これは昨今のCGIのようなはっきりしたものでないがそれだからこそ独特の不気味さをも湛えているように思えるしあまり鮮明だとこの不気味さの雰囲気がどこかスポイルしてしまっていたことだろう。
また輪郭を一回り大きくしたことでガス化の膨張する様を見事に描いてるともいえる。
勿論それだけでなくこのガス人間のキャラクターを描写するのに更に「液体人間」でも使用されたゴム製のダミー人形を再び使用しガス人間が再び元の人間に戻るシーンや応接室で警官のガス銃に撃たれガス化し逃亡するシーンにて使われておりスピードを上げてガス化するという描写を見せた。
勿論このダミーの輪郭にもアニメ合成しているのはいうまでもない。
さて本作品にもミニチュアワークスが本領を発揮しておりシーンはラストの劇場爆破シーンのみだがこのホールのミニチュアはあまり大きなミニチュアではないが本物のホールの映像と比べても全く違和感のない出来映えで見分けが付かないほどの見事さであった。
こうして本作品は歴史に残る名作となり当時あまり芳しい評価を受けなかった特撮作品の中にドラマ的にも成功しているというお墨付きまで受け海外でも好評となったのである。
スタッフ
製作 田中友幸
脚本 木村武
撮影 小泉一
美術 清水喜与志
録音 藤好昌生、宮崎正信
照明 高島利雄
音楽 宮内國朗
作詞 片山貞一
作調 堅田喜四郎
振付 若柳美登理樹
監督助手 梶田興治
特撮スタッフ
撮影 有川貞昌
光学撮影 荒木秀三郎
美術 渡辺明
照明 岸田九一郎
合成 向山宏
キャスト
三橋達也、八千草薫、土屋嘉男、佐多契子、左ト全、田島義文、小杉義男、伊藤久哉、佐々木孝丸、松村達雄、村上冬樹、宮田羊容、三島耕、野村浩三、塩沢とき、山本廉、中村哲ほか
特技監督 円谷英二
監督 本多猪四郎
東宝、カラー、東宝スコープ
1960年12月11日公開
同時公開「金づくり太閤記」
海外配給 不明 公開1962年