しつこいけど、私は、中国のほうがトリチウムなど放射性物質の放出が多く、また原発の管理体制も日本よりも杜撰だろうというようなことは、わかりきった話だ、という前提で、この議論について考えている。
中国が、日本の22兆ベクレルでの放出を問題として、それを根拠に輸入禁止の措置に出たことには、科学的根拠がないことぐらい、はっきりしている話だ。
それが不当だというのなら、対抗措置として22兆ベクレル以上の放出をしている中国の原発地域の水産物や農産物、その加工品などの日本への輸入禁止とかやってくれてもいいのだが、それは出来ないんだろう・・・?
ここでも、日本の安保・外交戦略の無策ぶりは明らかだ。
私が問題にしているのは、結果としての放出されるトリチウムだけが問題だとするのは、政府が意図した「薄めれば大丈夫論」と同じ土俵に乗ってしまって、まるで通常運転中の原子炉と、事故で燃料デブリむき出しの原子炉との本質的な違いや、事故処理の課題などから目をそらせてしまうという風潮が生まれる、いや生まれているということなのだ。
実際上、福島第一では毎日「核汚染水」が発生している。
そんな原発は世界中で福島だけだ。
通常運転の原子炉では、本来、燃料棒の冷却用水は基本的に外部に出ないように設計されている。当然含まれる放射性物質の種類も少ない。
漏水や軽微な事故などで溜まった「汚染水」をまとめて数か月に1回とか放出しているのが普通だろう。
ヤフコメ読めばわかるが、今の福島第一の汚染水の海洋放出自体が、本来あり得ない事態だということが忘れられているような議論になっているというのが、実情だ。
昨日のニュースでは、 少しだけ中国の反論が詳しく書いてあった。
(上記より引用)
現在、世界中の原発で、通常運転時にトリチウムを処理する適切な方法や技術は存在しないため、各国の原発で生成されるトリチウムは基本的にすべて放出されている。そのため日本は、「欧米諸国がトリチウムを処理できないことをよく理解した上で、注意をそらして無謀な放出計画への批判を黙らせるため、(中国の)トリチウム量を重要問題として取り上げている」と専門家は述べた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・以上、
これに対するヤフコメは以下のようなものがほとんどだ。
(ヤフコメ その1)
トリチウムの濃度だけで言えば、中国は9倍だが、「溶融した炉心に触れた福島核汚染水とは本質的に異なる」のだから、中国原発から放出したトリチウムと福島原発事故から排出されるトリチウムは異なる性質のものだ!と主張しているのだろう。
きちんと処理した結果排出されるのがトリチウムなのであって、その過程は関係ない。トリチウム以外のものが放出されていないかは、IAEAの発表をみれば明らか。
科学的に何も根拠のない言い掛かり。さっさと反論して憐みの眼で見てやればよい。
(その2)
具体的何が質が違うのか。メルトダウンした炉心を触れたから、処理によって他の放射性物質を除去し、トリチウムしか残ってないのなら、単純にお互いの排出水の中のトリチウム量を比較するのが妥当。違いと言うのなら具体的何が違うのかを示さなければ全く説得力がないね。
(その3)
言うまでもなく、日本政府は国連の公式データや中共自身の公表データを元に発表しているが、そのことには一切触れることなく、日本側がねつ造しているなどと、一方的に被害者面をしている。
これがコミュニストの宣伝工作の姿。常に自分たちが不当な攻撃を受けていて、それから人民を擁護し解放するのが共産党の使命だと、自己宣伝の材料に使うのだ。全ては統治の正統性を示すために存在する。裏を返せば、連中はそれほど自分たちの存在の軽さにおびえ続けている、ということでもある。こんなデタラメなプロパガンダに対しては、とにかく怯むことなく声高に、そして世界に向けて正論を唱え続けることだ。
科学に裏付けられた知性は、イデオロギーという虚構を纏った暴力に必ず打ち勝つ。それは遠からず証明されるだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・以上
なかなか意気盛んで、当然な反論だ。
このトリチウムの排出量比較問題では、中国側には何の科学的な根拠はない話で、禁輸措置が不当なことは明白だから、泰山が福島より9倍も放出しているということは事実だし、ヤフコメ民は思いっきり批判できて盛り上がっている。
私がこの議論で気になる点は、
第一に、もう既にトリチウムという放射性物質を海洋投棄することは、世界中の原発でも通常されており、福島第一でも同じよう規制基準を守って放出するのだから全く問題ない、と認識されていることだ。
ここでの問題点は、通常運転中の原子炉は年間排出基準(放出管理目標値)があるが、福島には、本来それが無く、今援用している22兆にしろ、今後日本政府の都合で変えられてしまうものだということだ。
しかも、トリチウムの排出は、実際には何の処理もできないのだから、出てきたトリチウムはそのままの濃度と量が海洋投棄されているというのが実態だ。
政府が排出基準値をなかなか表に出さない理由は、排出基準値が出ると排出量が多いということに対する批判の法令上の正当性がなくなるからだ。
法令を守っているのであれば多いからといって不当性を批判ができないということだ。
輸入禁止の根拠としていることの不当性を強調するためには、この問題は出したくない話だろう。
また、事故った炉には排出基準値などもう存在しないという事実は、逆に事故炉の放出量は実態通りに青天井になり、それが燃料デブリの処分・保管ができるまで延々と続くということだ。
さらに言えば、現在は、10年間かかってやっと放射性物質の9割を除去できた処理水を海水で400倍に薄めて放出しているが、
残りの除去できないで貯水タンクに残存する7割弱の汚染水や毎日排出されている「核汚染水」をどこまでALPS処理して、排出できるのか、これは実際は大変困難で膨大な費用と時間がかかるということ。
いつの間にか、400倍じゃなくて4万倍、40万倍に海水で薄めて放出するようなことにならないのか、私は心配なんだけどね。
だって、今回の海洋放出の理由は、貯蔵タンクが満杯だ、廃炉のための余地がない、だったけど、今後廃炉を具体的に進めようとすれば、余地はないのだから貯蔵タンクは減らさないといけないのだろう?
今の22兆ベクレルでは、絶対間に合わないのですよ。
東電のゆるゆるの計画でも貯蔵タンクの汚染水排出は30年以上かかるのだから。
ちなみに「アルプス処理機の1日の処理能力はいくらなの」でググると、
東京電力福島第一原発でたまり続ける汚染水を浄化処理した水(処理水)の1日当たりの発生量が、2022年は94トンと前年と比べて25%減り、事故後初めて100トンを切ったことが分かった。
ということが、書いてあったが、この処理水の放射能の除去率などは書いてない。
もし東電が2次処理すれば問題ないと「確認」したレベルならば、即放出すればいいはずだから、この処理水は2次処理が必要な放射能除去途上水なんだろうね。
二つ目に問題なのは、除去できない、世界中の原子炉でも水で薄めて垂れ流ししているというトリチウムの問題だ。
これについては、政府は自然界にあるトリチウムを引き合いに出して、まるで安全であるかのように書いて、錯誤させるようなやり方をしていると、これまでもブログで書いてきたので、詳しくは書かない。
政府お抱えの財団が編集している原子力百科事典の「トリチウムの生物影響」の項をぜひ読んでほしい。
(この項の概要には以下の通り記載)
「トリチウムはトリチウム水(HTO)の形で環境に放出され人体にはきわめて吸収されやすい。また、有機結合型トリチウム(OBT)はトリチウムとは異なった挙動をとることが知られている。動物実験で造血組織を中心に障害を生ずることが明らかにされ、ヒトが長期間摂取した重大事故も発生している。」
ぜひ本文を読んで欲しい。
政府の説明に騙された人は、
トリチウムは水と同じですぐ尿で排出されるから大丈夫とか言っているが、水と同じというほど人体には親和性があるので、ほかの放射性物質と違い骨髄にたまるとかではなく、体中万遍にいきわたり、しかもたんぱく質と結合して1か月以上滞留する。
(以下、上記の本文から引用)
飲料水や食物から摂取されたトリチウム水は胃腸管からほぼ完全に吸収される。トリチウム水蒸気を含む空気を呼吸することによって肺に取り込まれ、そのほとんどは血液中に入る。血中のトリチウムは細胞に移行し、24時間以内に体液中にほぼ均等に分布する。
・・・・・・・・・・・・中略・・・・・・・・・
トリチウムは水素と同じ化学的性質を持つため生物体内での主要な化合物である蛋白質、糖、脂肪などの有機物にも結合する。経口摂取したトリチウム水の生物学的半減期が約10日であるのに対し、有機結合型トリチウムのそれは約30日〜45日滞留するとされている。
トリチウムのβ線による外部被ばくの影響は無視できるが、ヒトに障害が起きるのはトリチウムを体内に取り込んだ場合である。ヒトの場合にはこのような事故例は少ないので、主として動物実験から被ばく量と障害の関係が推定されている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・以上
長期被爆した実例もあれば、生物濃縮もある。
体中に血液を通して万遍なくいきわたれば脳内での影響も出るかもね。
ちなみに、飲料水での基準とかが持ち出されるが、日本では飲料水でのトリチウムの規制基準はない。
それほど、トリチウムは自然界である分では問題にしなくてよいレベルだということだろう。
それが、今原発などで、ほとんど発生したらそのまま薄めて流されているというのが現状だ。
排出基準値があるけど、実はそれ自体がゆるゆるの強制力もあまりない紳士協定的なものだということ。
福島第一でも、放出管理目標値が22兆と平常時の10倍、泰山は800兆ベクレルで約4倍だというのが分かったけど、
各原子炉の排出基準値は全部合わせると自然界でのトリチウムの量の10の1以下になるように割り当てられたという話だったが、
フランスの再処理施設の放出量が1京ベクレルというのなら、それは自然界で発生する量7京の7分の一だから、再処理施設などには排出基準値などないんだろうね。
だとすれば、現実の世界での人工的なトリチウムの年間排出量は実際いくらなんだろう?
ググった結果は以下の通り
「天然のトリチウムは年に約7京(7万兆)ベクレル発生し、地球上には100京~130京(100万兆~130万兆)ベクレルが存在しています=図6参照。 国などが定めた排出基準を守った上で日本全国の原子力発電所から海に放出されていたトリチウムは、合計で年に約380兆ベクレルです。」
「日本周辺における環境中へのトリチウム排出量について、自然由来の環境中でのトリチウ ム生成量約110~680兆ベクレルと原子力発電所由来の排出量は同程度。 事故前の原子力発電所の近隣海域のトリチウム濃度はND~21ベクレル/リットル。」
何故か、世界中での原発等で発生するトリチウムの総量ははっきりしない。
(誰か知っていたら教えてほしい)
日本の原発等から出る量は、自然界での生成量と同程度というのもあったが・・。
いずれにしろ、たぶん自然界での年間生成量よりも多い人工的なトリチウムが環境に放出されているのは間違いないのではないかな?
政府や東電は福島第一から出るトリチウムの量は、
例えば、以下のように説明されたりしている。
「・・・このモデルによれば、海洋放出と水蒸気放出のどちらの場合も、仮に現在タンクに貯蔵されているすべてのALPS処理水(トリチウム量は約860兆ベクレル)を1年間で処分し、それを毎年継続したとしても、自然に存在する放射性物質から受ける影響(2.1ミリシーベルト/年)の1000分の1以下の影響にとどまるという計算結果が得られました。」
すごいですね。
日本で出る人工的トリチウム380兆の2倍以上の今タンクにあるALPS処理水860兆を毎年放出しても、
自然に存在する放射性物質から受ける影響(2.1ミリシーベルト/年)の1000分の1以下の影響にとどまるという
だったら、まんまどんどん流せばいいのに、なぜ上限22兆で30年以上かけて放出するんだ?
はっきりしているのは、
天然のトリチウムは年に約7京(7万兆)ベクレル発生し、地球上には100京~130京(100万兆~130万兆)ベクレルが存在しているのだから、
それと福島第一の排出量を比較して数値を出しても、それが問題にならない数値だということは、きわめて当然の結果だということだ。
そんな小細工で、いかにもトリチウムを出しても安全だと言いたいのだろう。
問題はそういうことではなく、
福島第一は事故炉で垂れ流し続けるし、世界中の原発も見かけ上排出基準を守ってますとかだが、実態は出てきたトリチウムは垂れ流しという実情で、それが多分自然界での年間発生量を超えているんじゃないかということだ。
要するに問題は、自然界での許容量はどこまで許されるのかということではないのか?
それを誰も指摘しないし、誰もそれはわからないのか?
というより、
原発推進派の連中には、この排出基準さえも問題にしないようなトリチウム垂れ流しの実態は、あまり触れてもらいたくない問題なんだろう。
だから、トリチウムはほかの放射性廃棄物よりも、とんでもなく安全みたいな書き方を徹底し、排出基準値に注目が行くことにならないようにしていると思えるのだけどね。
果たしてこのまま、無責任に垂れ流し続けて済むのか?
と、いうことだと思うのだが・・・