『原子力百科事典』のトリチウムに項目が、原発事故の前と後では、全く180°と言っていいほど変わってしまっていたことは、先のブログで紹介した通りだ。
 
 
たまたまググッて出てきた2000年3月のトリチウムの辞書の内容。
更新年月には、わざわざ原則として更新対象外と書いてあった。
ちょっと字が小さいかもだが、これにはそれまでの研究成果がちゃんと記載されたものとなっており、トリチウムによる被爆事故も2例報告されている。
 
 
 
原発事故の後、2012年1月に改変された現在の辞書の内容。
 
本文さえ無くなっている。
それまでの動物実験等の研究成果等は全く無視されている。
 
 
原発事故前の2000年の内容から改変された2012年の12年間で、トリチウムの研究が急速に進んだとか言う状況では全く無かったことは、先のブログで紹介した通りであり、
それどころか、不自然なほど全く研究されなくなってしまっているのが現状であることがハッキリしている。
 
 
じゃあ、何故原発事故後、僅か1年足らずのこの時期に、このような改変をされたのだろうか?
 

*記事の訂正。

グーグルで「トリチウム」で調べてヒットしたので、これが「トリチウム」のページだと勘違いしていたことが判明。

ここで紹介していたページは「トリチウムの生物影響」でした。

 

しかも、百科事典のページで「トリチウム」でも検索したのだが、当然「トリチウム」のページしか出てこないので、勘違いした「トリチウムの生物影響」は削除されてしまったと思い込んでいたのだった。

 

したがって、「トリチウム」のページが事故直後に新た錦登録されたと言うことはあったのですが、当然改変は有りませんでした。

紹介した「トリチウムの生物影響」はそのまま現在も掲載されていました。

 

この件に関しての私の推量は、まあ、この時期の私の考えの在り様を示すものとして、笑ってください。

ただ、実際の政府や東電の対応は、私の推量がただの一人相撲だったかどうかと言えば、当たらずと言えども遠からず・・だったと自分では思っています。

 
 
 
私は、原発事故直後の事故の有り様と政府の原子力政策への影響、それに溶け落ちた燃料棒デブリに直接触れた汚染水に対する対策などを思い起こしながら、特に改変後の内容を何度も読んで見た。
 
それで、やっと気付いた事がある。
 
1つ目は、
ALPSでの処理結果でも分かるようにトリチウムは他の核物質と違って、分離が困難な全くの厄介物だったという現実だ。
だから既存の原発では海に放出するしか無かったのだ。
そしてそれは福島原発事故後でも、デブリに直接触れた汚染水をALPSで処理しても、結局最後は、極めて膨大な量のトリチウムを海洋放出せざるを得ないことは、十二分に予測され得たということだ。
 
2つ目は、
しかも、それまでの研究でも明らかにされていたように、トリチウムは他の核物質よりもその水と同様な性状から人体により広範に取り込まれてしまう可能性が動物実験では明らかだったのだ。
それに、以前の辞書に書いてあるが、トリチウムによる被爆事故が1960年代にヨーロッパで起きており、2件の死亡例が記載されている。
 
自然界に存在するトリチウムは、そのβ線による外部被爆は無視出来るが、体内に取り込まれた場合はそうはならないことは以前の辞書には書いてあり、人体に対する影響がきわめて憂慮されていたということだ。
 
 
そして3つ目は、
改変された辞書にハッキリ書いてあるが、
トリチウムが使用済燃料の再処理時に放出され、また、核融合の燃料として人工的に製造しなければならない物質だったということだ。
 
それが意味するのは、六ケ所村の再処理施設を稼働させた場合には、膨大な天文学的量のトリチウムを海洋放出することになると言う事。
しかも水素の同位体であるため閉じ込めることも困難な厄介者だとも書いてある。
 
 
それで見えて来たのは、
政府や原発推進派は福島原発事故の直後から、処理出来ないトリチウムはいずれ海洋放出するしかないことに気付いていて、何とかして上手く海洋放出をする方策をそれこそ全力で考えて来たのであろうという事だ。
 
そして行きついた結論が、
自然界に普通に存在するトリチウムのデータを活用して、トリチウムがいかにも微弱で人体に影響が無いものであるかのようにミスリードするプロパガンダを、人体に関する研究がない事を逆手にとって、関係省庁はもとより関係諸団体や関連企業の研究機関等全てを網羅して、一体的に進めることにしたのだ。
 
それが、ほぼ間違いの無い方針だったことは、実際に各省庁や関係諸団体のホームページでこの問題を扱った広報を見れば、全く同じような内容なので分かりすぎるほど分かる話だ。
 
 
で、実際に環境省のHPを見てみることにするが、その前に、実際に福島第一原発でトリチウムがいくら放出されているか、それらのデータを調べて見た。
 
福島第一原発の年間のトリチウム放出量は22兆ベクレルだ。
 
それで貯蔵タンクにあるトリチウムの量はいくらなのかと調べたら、
三菱総合研究所のデータにあったものによると、
WHOの水道水のトリチウム濃度は、10000bq/L以内だが
 
貯蔵タンク内には、
数百万bq/Lのトリチウムが存在する
とあった。
 
実に、百万馬力の鉄腕アトム以上のパワーだと記憶しておいて欲しい。
 
 

 

 

 

 

で、環境省のHPの資料は以下の抜粋の通りだ。
 
(環境省の資料の抜粋分はフォントが小さい)
水道水などにふくまれている液体状のトリチウム(トリチウム水)を飲み込んだりしています。
しかし、前述したように、トリチウムから出る放射線は弱いため、シーベルトで捉えると、その影響は10000ベクレル(※)あたり0.00019ミリシーベルトです(先ほどの、身の回りの放射線の図と比較してみましょう)。また、現在の研究では、たとえトリチウム水を飲み込んでしまった場合でも、通常の水と同じように外へ排出され、特定の臓器などの体内に蓄積されていくことはないと見られています。
 
 
ここでは、あくまで自然界に存在するトリチウムを対象に説明しています。
また、「現在の研究では」と断わった上で、「トリチウム水を飲み込んでも体内に蓄積されることはないと見られています。」と、きわめて曖昧な表現を使うことで、人体に対する研究がない事をいいことにして、動物実験の研究成果を全く無視しています。
 
 
 
しかし現在の研究では、水の状態のトリチウムが生物濃縮を起こすことは確認されていません。前述したように、水と同じようにほとんどが生き物の体の外へ排出され、体内に蓄積されることはないためです。
 
 
生物濃縮では、人体に関する研究がない事を利用し、巧妙にも「確認されていない」と書いていますが、以前の辞書に書いてあるように、動物実験ではその可能性は否定されていません。
 
オッチョコチョイのヤフコメの放出賛成派は、思惑通り「確認されていない」と書いてあるにもかかわらず、「生物濃縮は無い」と言いふらしていますね。
 
 
有機結合型トリチウム(OBT)」といいます。体内に取り込まれたOBTの多くは40日程度で体外に排出され、一部は排出されるまで1年程度かかります。
 
確かに、OBTの健康影響をトリチウム水と比較すると2~5倍程度となりますが、前述したように、もともとトリチウム水の健康影響は1ベクレルあたり0.000000019で、2~5倍になったとしても、ほかの放射性物質とくらべて特別に健康影響が大きいとはいえません。セシウムから受ける健康影響と比較してみると、約300分の1になります。
 
ここでも比較対象があくまで自然界にあるトリチウムでそれも1ベクレルの話だ。
 
先に書いたように、貯蔵タンクにあるトリチウムは数百万倍だけどね。
 
数百万の5倍だとしたら、セシウムの゙300分の1は比較として意味あるのかな?
 
 
 
トリチウム原子は「β崩壊」と呼ばれる現象でヘリウム原子に変わりますが、もしこのように遺伝子を構成するトリチウム原子がヘリウム原子に変化すると、それによって原子の結合が切れ、遺伝子が傷つく、だからトリチウムは危険だという議論があります。

しかし、実は、遺伝子というものはさまざまな要因でいつも損傷を受けており、「修復酵素」のはたらきによって、日々修復されています。たとえば、太陽からの紫外線などでも損傷しています。年間約2ミリシーベルトの放射線で遺伝子が受ける損傷の頻度は、紫外線などによる損傷の頻度の100万分の1以下です。このため、トリチウム原子がヘリウム原子に変化することで遺伝子にもたらされる影響については、自然界と同程度の放射線による被ばくの場合、測定可能なレベルのものにはならないと考えられます。 
 
 
 
ここでは、もはやお里が知れている。
ハッキリ、「自然界と同程度の放射線による被爆の場合」、と書いてしまっている。
 
誰も自然界にあるトリチウムのことを問題にしていない。
水道水の基準の数百万倍のトリチウムを膨大な量海に放出した場合の影響が問題なのだ。
 
以上、環境省の資料のトリチウムについての説明のポイントを見ると、
 
明らかに自然界に存在するトリチウムの基本的なデータをベースにして説明していて、原発で生成される人工的なトリチウムの圧倒的な量と濃度は無視されている。
 
そして、トリチウムによる人体への被爆ついては、研究データそのものがない事を逆手にとって、しかもこれまでの動物実験等の研究成果を無視した上で、徹底的に自然に存在するトリチウムのβ線量が小さいことを利用して、問題が無いかのように、曖昧かつ錯誤するような書き方をしていて、その説明の仕方を全ての関係機関等の資料でも徹底しているのだ。
 
こういう、読んだ者が錯誤してしまうような組織的なプロパガンダは一朝一夕で出来るものでは無いことは確かな事だ。
 
原発推進派のヘッドクオーターとなる部署が、原発事故の直後からトリチウムの処分が結局海洋放出とならざるを得ないことを見越して、周到に準備して来たのだということが、容易に読み取れる。
 
関係者は、総理の「同意が無ければ放出しない」というお約束が、はじめから守られる訳が無い事ぐらい分かりすぎるほど分かっていただろう。
 
それほどトリチウムという放射性物質は原発推進派にとって最大の厄介過ぎる難問だったということだ。
 
それを分離すること無く、海水で薄めるだけで、文字通りそのまま海に捨てることが出来るならば、そんなに有難い話しは無いに違い無い。
 
ホリエモンが言う、規制値以下に「薄める」というロジックで、自然界にはあり得無い天文学的数量と濃度の放射性物質を人体への被爆可能性の研究も進んでいない状況で、簡単に海に捨てる免罪符が得られてしまうのだ。
 
日本がこれを強行してしまえば、他の原発推進の諸国もアメリカはもとより中国だって、有り難くこの免罪符を活用するだろう。
 
そうなってしまった後で、生命誕生の母なる海で何かが起こっても、その時は手遅れというしかないことも、残念ながら見えているのではないだろうか?
 
こんなペテンを許して、未来の子供達に顔向け出来ますか?
 
天網恢恢疎にして漏らさず、という言葉があるが、幸いにもJAEA日本原子力研究開発機構が編纂している「原子力百科事典」の過去のヘリウムのページは、まだネット上に残っていた。
 
そこには、それまでの研究成果が簡潔かつ課題を押さえた文章で明記されていた。
 
ぞれがなんの説明も無く、原発事故後には、全く当たり障りの無い内容に改竄されてしまっていた。
改竄とは許されないと言うならば、変更されてしまった経緯と説明をぜひともお願いしたい。
 
トリチウムについての研究が全く進んでいない現状では、以前の辞書の内容がまともな辞書の有り様ではないのかと私は思うけどね。
 
それにしても、この姑息なプロパガンダにしたがって、HPを書き換えた職員特に公務員の皆さんはどんな気持ちだったのだろう。
憲法を守る宣誓をして、国民のために職責を果たす誓いをしたのに、時の政権のいいように使い捨てられてしまっているのだ。
 
そういう犠牲者が長期安倍政権下でもいたことを思い出す。🙏
 
 
今のマスコミの報道を見ていると、完全に政権に牛耳られてしまって、基準値以下に薄めれば何も問題ないと言っている。
 
自然界に有るトリチウムも人工的に産み出されトリチウムも同じ物だとも言う。
それはそうだが、政府のプロパガンダ通りだ。
 
でも、現実に存在する現場に有るトリチウムの濃度と量が自然界に有るトリチウムとは比較すること自体がナンセンスなことには触れられず、薄めれば結局全量が放出されても問題ないと何故言い切れるのか、私には理解出来無い。
そんなエビデンスは研究成果は何処にあるんだ?
 
この薄めるロジックには、環境問題で常に問題となる総量規制の概念が全く無視されている。
 
徹底的に薄めれば、結局全量排出しても水俣病は発生しなかったのか?
 
自然界の許容量やメカニズムは変わらないのではないのか?
 
薄めればいいというロジックに、騙された振りして、今だにデブリの1gも回収できない現実から目をそらすのはもうやめるべきだろう。