始まりは夜道を走る車。

沢山の犬の鳴き声、イランは野良犬が多いのだろうか?

夫婦と後部座席に女の子。

 

なにかとぶつかる音。

車を停め、確認する父親。

どうやら犬をはねたようだ。

耳に付くキュッキュッという音は何なんだろう?

あぁこれが【義足のエグバル】(エブラヒム・アジジ)の義足の立てる音か。(予習した)

 

それまではしゃいでいた娘が犬は死んだの?と悲しく訪ね、母親は「神の思し召し」みたいなことを言う、「パパは悪くないのよ…」と。

そして車が故障、それも「神の思し召し」と。

 

車が停まっていたのが「偶然」ワヒド(ワヒド・モバシェリ)が勤める工房の前。

「見るぐらいならできるよ」と同じ工房の人が工具を貸し出すが…その男のたてる奇妙な音(義足)に、二階にいたワヒドは凍りつく。

隠れて声を偽り、顔を見ようとするがちょうど顔は見えない。

男たちが工房を出た後をバイクで着けるワヒド。

 

翌日、車の修理のためにレッカーを呼んだ男の後をつけるワヒド。

隙を見て男をシャベルで殴り、車に押し込み砂漠地帯へ。

穴を掘り、男を入れて生き埋めにしようとする。

 

かつてワヒドは賃金の支払いを要求しただけで政治犯と見なされて不当に収監された過去がある。

刑務所で執拗に拷問を加えてきたエグバルという看守が【義足のエグバル】で、シリア内戦で片脚を失ったことを誇っていたようだ。

ワヒドは5年の収監中に妻を自殺で亡くし、尊厳を踏みにじられ人生の大切なものをすべて奪われた、挙句に蹴られたせいで腎臓を悪くしている。

 

縛られ目隠しをされ、土をかけられて男は必死に叫ぶ。

「家族がいるんだ。やめてくれ!」

ワヒドの人の好さ?が現れだして迷いが生じる…「確かめなくては」と。

ずっと目隠しをされていたワヒドは、エグバルの顔を一度も見たことがなかったから。

 

男の身分証には“ラシド・シャーサヴァリ”という名前。

「エグバルって誰だ? 聞いたこともない名前だ…私は去年、事故で脚を失ったばかりなんだ、傷を見ればわかる、5年前のものかどうか」と必死に懇願する、迷うワヒド。

ズボンを切り裂き、義足を外して見るが…ワヒドには判断がつかない。

 

 

ここから、ややブラックコメディのエピソードが満載で物語は進む。

 

この男が【義足のエグバル】かどうかを確かめるために、伝手をたどり、同じく【反体制派】とみなされ投獄された人たちに協力を仰ぐが…

忘れたい記憶として日々を生きている人たちには忌まわしい記憶はを呼び覚まされたくないシヴァ(マルヤム・アフシャリ)

カメラマンとして生計を立てているようで、結婚式の前撮り中。

 

花嫁は収監された過去を持つゴリ(ハディス・パクバデン)

首に縄をかけられ吊るされる恐怖に3日間さらされたよう。

花婿アリ(マジッド・パナヒ)はゴリの気持ちに寄り添うが【忘れるんだ、復讐なんてやめよう】と手を引こうとするが、ゴリから離れられず珍道中に付き合う。

 

狭いワゴン車の中でそれぞれ【義足のエグバル】かどうかを確かめようとするが…

やはりみんな目隠しをされていたので「声」程度でしかエグバルかどうか確かめられない。

 

そこで決め手?になりそうなハミド(モハマッド・アリ・エリヤスメール)も加えることにするが…

シヴァとハミドはかつて恋人同士だったようです。

キレやすいとのことで確かに?いきなりシヴァを突き飛ばした後に二人でワゴン車に乗り込む。

男の足を撫で、エグバルに間違いない!と。

毎日撫でさせられていたから手が憶えている、と。

 

刑務所内で様々な拷問が行われていた(らしい)ことが、彼らの発言から晒される。

各々が刑務所での拷問について話す場面が長い。

話すことで映像化しないから想像するんだけども、反体制派とみなされ投獄されるとはどうゆうことかが感じられる…そして怖い。

 

現金を持ち歩かないようでチップや賄賂?もカード支払い。(街中に治安警察みたいなのがいる)

ガス欠で停まった車をみんなでスタンドまで押す、周りの人も手伝う。

ハミドはキレやすいから耳栓を買うとか、男を眠らせる薬を買うとか、男がクソを漏らしてゴリが気持ち悪くなって吐くとか、ついクスリとしてしまうシーンがあって…コメディか?と思ったり。

 

男のスマホが鳴り、娘からの電話。

騙されておびき出されているのでは?と訝しがるも男の家に行くと、妻が破水していて病院に運ぶ彼ら。

男が入っている箱の上に妻を乗せ、娘に男の子と女の子どっちかな、などと話しかけるシーンは…なんだかちょっとほのぼの。

病院(の名前がエグバルってゆーのも…💦)の受付の女性は父親がいないと、IDがないと診られないと冷たいが、通りかかった医師が自分が責任を取るからと子どもを取り上げる、男の子。

が、この病院の支払いもカード、しかもワヒドのカード。

子どもが生まれたらお菓子をふるまう風習があるのか…それもちゃんとやってる。

【義足のエグバル】かどうかもはっきりしない中、親切なワヒドって本当に普通のおひとよしな市民なんだろうなと思う。

 

そんな普通の一般市民が【反体制派】とみなされたらどんな目に遭うのか。

ただ「給料を払ってほしい」と訴えただけで?

このへん、イランの国内体制の不穏さが伝わる。
 

で、結局この男は【義足のエグバル】でした。

木に縛り付けた男の周りを行ったり来たりしながらワヒドが問い詰める、エグバルだと白状した男は、しかしワヒドを見下したような話し方…ムカつく!

殺したければ殺せ、殉教者になれると言い切ったところでシヴァが登場。

ほほを平手打ちし、顎をつかみながら「真剣に心から謝罪しろ」と詰め寄る所は、本当に彼女もどれほどこの看守に理不尽な暴力を受け尊厳を踏みにじられてきたかが伝わる。

 

ラスト、暴力の連鎖は止めるべきと思ったのだろうか。

やり切れない思いを抱えつつも、ワヒドは男を縛っていた手の縄だけを切り、そばにカッターを置き、15分も歩けば舗装された道に出ると言ってシヴァと去る。

 

 

 

場面は変わり、ワヒドの工房。

ワゴンに何やら色々積み込んでいるワヒド。

母に「良いからお茶を持って行きなよ」と言ってから階段の方に向かうそのワヒドの後ろ姿のカットにあのイヤな義足のきしむ音が…

 

振りかえらず固まっているワヒド、鳴り続ける義足のきしむ音。

怖いラスト。

 

人は変われるのだろうか…

【恩】を感じるのか、【復讐】なのか…

怖い、怖い、怖いラスト。

 

去年観た聖なるイチジクの種もイラン映画。
こちらは地味に暗い映画でしたが、【シンプル・アクシデント】はコメディ要素がちりばめられつつも…色々考えさせられる良い映画でした。


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