五味の香りを持つもの
前回の「塗香」に関連した続きです。
塗香の調合は古来インドの経典に記されており
沈香、白檀、龍脳、丁字、鬱金と言う五香を
基本に厳選された天然香料のみを使用。
この場合の五香は単に五つの香と言う意味で
陰陽五行の五とは関連していません。
五つに香の内想像のつく香りとしては
丁字はクローブ、鬱金はウコンと
言い換えるとカレーのスパイスとして
なじみがありますし、白檀はお線香の
香りとして有名ですからこの三香については
想像しやすいのではないかと思います。
残りの二香の内、龍脳(りゅうのう)は
東南アジアの熱帯雨林に自生する龍脳樹
から採れる樹脂を原料とする天然香料です。
森林浴を思わせるウッディで爽やかな
清涼感のある香りは身も心もリフレッシュ
させてくれる力があり、古来より精神統一や
瞑想に用いられ落ち着きと安らぎに満ちた
芳香ということです。
最後の一香は沈香(じんこう)です。
沈香は主に東南アジア諸国の熱帯地域で
生育する「沈丁花(じんちょうげ)科
アキラリア属」に属する木がもとに
なっている香木です。
香木と書きましたが不思議なことに
原木そのものには香はほとんどありません。
どういうことかと言えば
原木が老木や土中に埋没した倒木になったり
虫食い等の様々な原因で傷害木となったものが
傷害を修復するために樹液が分泌され
やがて樹脂に変化します。その樹脂の成分が
バクテリアなどの分解などによって
長い時間をかけて変質し、特有の香りを
放つようになったものが沈香です。
その蓄積された樹脂からなる香りの成分
によって、普通の木よりも重くなり
水に沈む特徴があるので沈香と言われる
ようになったということです。
沈香の原木が育つまでに約20年
傷害木から沈香になるまでには50年
かかるとされ、高品質な沈香となるのには
100年~150年以上の月日が
かかると言われています。
沈香になるまでの仕組みは明確に
判明していないため、人工的に生み出す
事が難しい貴重な香料の一つです。
沈香は産地や木の種類によって少しずつ
香りが異なりますが、基本的には
陰陽五行の五味、
木の「酸味」火の「苦味」土の「甘味」
金の「辛味」水の「鹹味(しおからみ)」
といった五味が複雑に絡み合った
香りと表現されます。
沈香の最高級品を「伽羅(きゃら)」と
といいます。
沈香よりも「五味に通じる香」は
まろやかで深みのある香りだと
言われています。
伽羅はベトナムのごくわずかな地域
でしか採取されず、非常に希少で
高価な香木です。
現在も詳しいことはほとんど分かって
おらず、沈香と伽羅の違いは含まれる
成分の違いであるという解釈に
とどまっているのが現状です。
木火土金水木火土金水の
陰陽五行の循環で考えると
水の次に木が来ますので
水は木を助けるだから木は水に浮く
沈香は木が水に沈む形になり
五行循環が逆転しています。
そして、五味を抱えて水に
沈んでゆく全く新しいものに
生まれ変わって。