空手を始めた頃の思い出話です
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私が空手に出会ったのは今から17、18年前になるのでしょうか。当時、流派の異なる有段者の方が技の研究目的で集まり、活動し始めたばかりの空手研究会に、押しかけ道場生として入会させていただいたのが始まりでした。
当時の私は病弱で、発熱はしょっ中。通勤の電車でさえ酔う虚弱体質。加えてチビ女子。。先輩方はそんな私を「一般人女子格闘技経験値ゼロ+小柄」とカテゴリー分けをして研究対象として入会を許していただきました。私にでも理解できる、すなわち誰もが経験値を上げられるような空手を目指し稽古方法を研究されていたようです。もっともそんな事情があった事を知ったのは私が濃い色の帯をしめるようになってからで、入会したばかりの頃は空手の稽古がどんな物なのか考えもせずに、ひたすら言われた通り必死になって稽古をしていました。
そのうち「一般人女子中肉中背30代」や「一般人男子細身」など、道場生もカテゴリーも増え、年齢も性別も異なる方たちが集まりさらに楽しくなってきました。1人暮らしを始めたばかりで寂しさもあり、道場にくれば誰かに会えると毎日のように通っていました。仲間が増えてくると、お互いに上手く出来ない所を確認しあったり、稽古以外の日も集まってトレーニングらしきことをしたり。部活ってこんな感じなのかなと、学生時代部活動が出来なかった私は思ったりしました。
先輩方が特に熱心に指導されていたのは「護身」です。急所を狙って打つ蹴るではなく「護身の心構え」です。大きな声を出す練習や、すぐに逃げられるように逃げ道を確認する訓練。危険を察知する事など、稽古中は勿論、稽古上がりの食事会の席でも指導をして下さいます。女子部は、いかに早く逃げるか、そして危険な場所はどこか判断する事。男子部は、逃げる事はもちろん、万が一やり合わなくてはならない状態になった時の対処法などを教えていただきました。
空手の基本稽古や組み手、型の稽古も大好きでしたが、「護身の心構え」の稽古も、決して笑えない先輩の体験談も大好きでした。
ある日の稽古中、私とGさんが先輩に呼ばれました。
「これから、『もしも、怪しいおじさんにどこかにさらわれそうになったら』の稽古をします。」
「なんですかそれ。」
確かにGさんは、長く伸ばした髪を後ろに束ね、泥棒のようなひげをした40代の一見怪しいおじさんですが、やさしくって面倒見がよく、かわいい物が大好きな愛すべきおじさんなのです。私はGさんと仲がよく、当時流行り出した「ヘアマニキュア」をしたい!というGさんにお付き合いして、美容院に一緒に行った事もあります。
「はい!はじめて!!」
はじめてと言われてもお互いにどうしていいかわかりません。Gさんは全然怖くないし。。取りあえず正面から右手を掴んできたGさんの腕を関節技で制御しつつGさんの背中にまわりました。
「ちがうちがう!怪しいおじさんが正面から右手掴みますか!違うでしょう。どこかにさらっちゃうんだから。ななちゃんもおとなしく右手掴まれてどーすんの。逃げんといかんでしょ。」
たちまち叱られてしまいました。
今度は、後ろから忍び寄ったGさんが羽交い絞めをしてきました。またGさんが叱られます。「羽交い絞めしてどーすんの!自分ひとりで羽交い絞めしたら腕が使えんでしょ。」確かにGさんは小柄なので、羽交い絞めをしたまま抵抗する私を動かすことが出来ません。
どうにもうまく出来ない私たちを見て「では怪しいおじさんを増員します。Mくん入って!」とうとう2対1にされてしまいました。Mくんも小柄ですが、間接が非常にやわらかく妙な方向に腕がまがる曲者です、しかもぽっちゃり系、体重があるのでMくんにつかまったら簡単につれていかれてしまうでしょう。案の定、道場の隅まで追い込まれあっという間につかまってしまいました。
「どうも緊張感がたりんなー。」
「だって怖くないんだもん。」
いつも組み手をしている仲間同士です、2人がけや3人がけの組み手もするのでどうしてもその延長のような動きになってしまいます。怪しいおじさんと思え!と言われても、連れて行かれる恐怖心も生まれません。
「あ、そしたら君達ちょっと。」
先輩が2人に耳打ちします。
「ではもう一度、ななちゃん後ろむいて。怪しいおじさん来ますから逃げてくださいね。」
言われた通り背中をむけてゆっくり歩くと、後ろの方からいやな気配がします。
「えへへへ~へぇ~。」
いやな気配と不気味な声がするのと同時でした。後ろを振り返るとGさんとMくんが半笑いを浮かべ変な声を上げながら近づいてきます。Gさんは両手を上にMくんは下に。私から1メートルのところまで近づいてきていました。
「ぎゃーっ!!いやー!いやー!」
びっくりしました!見慣れた2人とわかっているのですが、こわい!
自分でも驚くほどの大音量で声が響き、叫びながら2人の間をすり抜けて女子更衣室まで逃げてしまいました。
「よし!早かった!合格。」
「。。。先輩これなんの稽古ですか。」
「ん、これか、これは、えへへ稽古です。」
その後、この「えへへ稽古」は女子部の特別稽古としてしばしば行われるようになりましたが、怪しいおじさん役の2人は「俺、いやー!って言われちゃった。。」と、少し落ち込むそうです。
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私が空手に出会ったのは今から17、18年前になるのでしょうか。当時、流派の異なる有段者の方が技の研究目的で集まり、活動し始めたばかりの空手研究会に、押しかけ道場生として入会させていただいたのが始まりでした。
当時の私は病弱で、発熱はしょっ中。通勤の電車でさえ酔う虚弱体質。加えてチビ女子。。先輩方はそんな私を「一般人女子格闘技経験値ゼロ+小柄」とカテゴリー分けをして研究対象として入会を許していただきました。私にでも理解できる、すなわち誰もが経験値を上げられるような空手を目指し稽古方法を研究されていたようです。もっともそんな事情があった事を知ったのは私が濃い色の帯をしめるようになってからで、入会したばかりの頃は空手の稽古がどんな物なのか考えもせずに、ひたすら言われた通り必死になって稽古をしていました。
そのうち「一般人女子中肉中背30代」や「一般人男子細身」など、道場生もカテゴリーも増え、年齢も性別も異なる方たちが集まりさらに楽しくなってきました。1人暮らしを始めたばかりで寂しさもあり、道場にくれば誰かに会えると毎日のように通っていました。仲間が増えてくると、お互いに上手く出来ない所を確認しあったり、稽古以外の日も集まってトレーニングらしきことをしたり。部活ってこんな感じなのかなと、学生時代部活動が出来なかった私は思ったりしました。
先輩方が特に熱心に指導されていたのは「護身」です。急所を狙って打つ蹴るではなく「護身の心構え」です。大きな声を出す練習や、すぐに逃げられるように逃げ道を確認する訓練。危険を察知する事など、稽古中は勿論、稽古上がりの食事会の席でも指導をして下さいます。女子部は、いかに早く逃げるか、そして危険な場所はどこか判断する事。男子部は、逃げる事はもちろん、万が一やり合わなくてはならない状態になった時の対処法などを教えていただきました。
空手の基本稽古や組み手、型の稽古も大好きでしたが、「護身の心構え」の稽古も、決して笑えない先輩の体験談も大好きでした。
ある日の稽古中、私とGさんが先輩に呼ばれました。
「これから、『もしも、怪しいおじさんにどこかにさらわれそうになったら』の稽古をします。」
「なんですかそれ。」
確かにGさんは、長く伸ばした髪を後ろに束ね、泥棒のようなひげをした40代の一見怪しいおじさんですが、やさしくって面倒見がよく、かわいい物が大好きな愛すべきおじさんなのです。私はGさんと仲がよく、当時流行り出した「ヘアマニキュア」をしたい!というGさんにお付き合いして、美容院に一緒に行った事もあります。
「はい!はじめて!!」
はじめてと言われてもお互いにどうしていいかわかりません。Gさんは全然怖くないし。。取りあえず正面から右手を掴んできたGさんの腕を関節技で制御しつつGさんの背中にまわりました。
「ちがうちがう!怪しいおじさんが正面から右手掴みますか!違うでしょう。どこかにさらっちゃうんだから。ななちゃんもおとなしく右手掴まれてどーすんの。逃げんといかんでしょ。」
たちまち叱られてしまいました。
今度は、後ろから忍び寄ったGさんが羽交い絞めをしてきました。またGさんが叱られます。「羽交い絞めしてどーすんの!自分ひとりで羽交い絞めしたら腕が使えんでしょ。」確かにGさんは小柄なので、羽交い絞めをしたまま抵抗する私を動かすことが出来ません。
どうにもうまく出来ない私たちを見て「では怪しいおじさんを増員します。Mくん入って!」とうとう2対1にされてしまいました。Mくんも小柄ですが、間接が非常にやわらかく妙な方向に腕がまがる曲者です、しかもぽっちゃり系、体重があるのでMくんにつかまったら簡単につれていかれてしまうでしょう。案の定、道場の隅まで追い込まれあっという間につかまってしまいました。
「どうも緊張感がたりんなー。」
「だって怖くないんだもん。」
いつも組み手をしている仲間同士です、2人がけや3人がけの組み手もするのでどうしてもその延長のような動きになってしまいます。怪しいおじさんと思え!と言われても、連れて行かれる恐怖心も生まれません。
「あ、そしたら君達ちょっと。」
先輩が2人に耳打ちします。
「ではもう一度、ななちゃん後ろむいて。怪しいおじさん来ますから逃げてくださいね。」
言われた通り背中をむけてゆっくり歩くと、後ろの方からいやな気配がします。
「えへへへ~へぇ~。」
いやな気配と不気味な声がするのと同時でした。後ろを振り返るとGさんとMくんが半笑いを浮かべ変な声を上げながら近づいてきます。Gさんは両手を上にMくんは下に。私から1メートルのところまで近づいてきていました。
「ぎゃーっ!!いやー!いやー!」
びっくりしました!見慣れた2人とわかっているのですが、こわい!
自分でも驚くほどの大音量で声が響き、叫びながら2人の間をすり抜けて女子更衣室まで逃げてしまいました。
「よし!早かった!合格。」
「。。。先輩これなんの稽古ですか。」
「ん、これか、これは、えへへ稽古です。」
その後、この「えへへ稽古」は女子部の特別稽古としてしばしば行われるようになりましたが、怪しいおじさん役の2人は「俺、いやー!って言われちゃった。。」と、少し落ち込むそうです。