シリーズ:マインドフルネスを考える【第6回】

 

良いアイデアは「考えているとき」には浮かばない

シャワーを浴びているとき、散歩をしているとき、うとうとしているとき——ふと良いアイデアが浮かんだ経験はないでしょうか。

これは偶然ではなく、脳科学的に説明できる現象です。今回は、マインドフルネスや「ぼんやりする時間」が、なぜ創造性やアイデア創出を促すのかを見ていきます。

 

拡散的思考と収束的思考

創造性の心理学研究では、思考のモードを大きく二つに分けます。

収束的思考(Convergent Thinking)は、一つの正解に向かって論理的に絞り込んでいく思考です。試験問題を解く、既知の方法で課題を処理するといった場面で使われます。

拡散的思考(Divergent Thinking)は、一つの問いから多方向にアイデアを広げていく思考です。新しいアイデアの創出には、この拡散的思考が不可欠です。

興味深いことに、この拡散的思考は、意識的に「頑張って考えよう」とする収束的思考のモードとは、脳の使い方が異なります。

 

第4回で紹介したデフォルトモードネットワーク(DMN)との関係

拡散的思考と深く関わっているのが、前回・前々回で紹介したデフォルトモードネットワーク(DMN)です。

課題に集中していないとき、DMNは活発化し、記憶・概念・経験の間を自由に行き来する「連想的な処理」を行います。これが、一見関係のない情報同士が結びつき、新しいアイデアが生まれる土壌になると考えられています。

重要なのは、意識的に「アイデアを出そう」と力むと、むしろ課題志向のネットワーク(実行制御ネットワーク)が優位になり、DMNの自由な連想が抑制されてしまうという点です。「考えるのをやめたときに、答えが浮かぶ」という多くの人の実感は、この脳のメカニズムと一致しています。

 

マインドフルネスが果たす役割

ではマインドフルネスは、この創造的プロセスにどう関わるのでしょうか。

一見、マインドフルネスは「今この瞬間に集中する」という収束的な作業に見えます。しかし研究が示すのは、マインドフルネス実践によって、思考への囚われ(反芻)が減り、心に余白が生まれるという効果です。

この「余白」こそが、DMNが自由に働くための土壌になります。マインドフルネスは、雑念に振り回されるのでも、無理に思考をコントロールしようとするのでもなく、その中間——思考を手放しつつも、開かれた気づきの状態を保つ——を可能にします。

創造性研究者のアリソン・ゴプニックらの研究でも、瞑想実践者は拡散的思考課題(一つの物の新しい使い方をできるだけ多く考えるなど)で高いパフォーマンスを示すことが報告されています。

 

「なにもしない時間」の価値

現代社会は「常に生産的であること」を過剰に求めがちです。しかし創造性の観点から見れば、あえて「なにもしない時間」を確保することが、実は最も生産的な投資になりうるのです。

前回のジョブズの禅実践も、第8回で扱う予定の戦国武将の茶の湯も、まさにこの「なにもしない、しかし深く今に在る時間」を意図的に生活に組み込んでいた例だと言えるでしょう。

 

臨床の場でも感じること

カウンセリングの場でも、クライエントが「頑張って答えを出そう」とするよりも、少し力を抜いて「わからないままでいる」時間を持てたときに、思いがけない気づきが訪れることをしばしば目にします。これはまさに、拡散的思考が働き始める瞬間なのかもしれません。

次回は、こうしたマインドフルネスの本質を、ホロニカル・アプローチの視点から捉え直していきます。すると「観察主体」という概念との深い関連が見えてきます。