シリーズ:マインドフルネスを考える【第4回】

 

「気のせい」ではなく、脳が変わる

前回はマインドフルネスの心理的・身体的効果をエビデンスとともに見てきました。今回は、その効果の背後にある脳の変化について、脳科学研究の視点から見ていきます。

 

構造的変化――脳の「かたち」が変わる

最も注目された研究の一つが、ハーバード大学のサラ・ラザール(Sara Lazar)らによるものです。8週間のMBSRプログラムを受けた参加者の脳をMRIで調べたところ、以下のような構造的変化が確認されました。

  • 海馬(記憶・学習に関わる部位)の灰白質密度の増加
  • 後帯状皮質(自己参照的な思考に関わる部位)の変化
  • 扁桃体(恐怖・不安反応の中枢)の灰白質密度の減少

特に扁桃体の変化は重要です。扁桃体は「闘うか逃げるか」という原始的な脅威反応を司る部位であり、その活動が調整されることは、ストレス反応そのものが和らぐことを意味します。

 

機能的変化――脳の「働き方」が変わる

構造だけでなく、脳の働き方にも変化が見られます。

fMRI(機能的MRI)を用いた研究では、マインドフルネス実践者において、ネガティブな刺激に対する扁桃体の反応性が低下する一方、前頭前野(特に理性的な判断・感情調整を担う領域)の活動が高まることが示されています。これは、感情的な反応に「乗っ取られる」のではなく、一歩引いて対処する能力が向上していることを示唆しています。

 

デフォルトモードネットワーク(DMN)という鍵概念

近年の脳科学で特に注目されているのがデフォルトモードネットワーク(DMN)です。

DMNとは、特定の課題に取り組んでいないとき(ぼんやりしているとき)に活発化する脳のネットワークです。過去の記憶の想起、未来の計画、そして——反芻思考(同じ心配事をぐるぐると考え続けること)とも深く関わっています。

うつ病や不安障害の患者では、このDMNが過活動になっている傾向があることが示されています。マインドフルネス実践は、このDMNの過剰な活動を鎮め、より「今ここ」に注意を向けた脳の状態を促すことが複数の研究で報告されています。

このDMNは、次回以降お伝えする創造性というテーマとも実は深く関わってきます。「ぼんやりしているときに良いアイデアが浮かぶ」という体験の背後には、このDMNの働きが関係していると考えられているからです。

 

神経可塑性という土台

これらの脳の変化を支えているのが神経可塑性(Neuroplasticity)という概念です。脳は生涯にわたって、経験や訓練によってその構造・機能を変化させ続けるという、現代神経科学の重要な発見です。

マインドフルネスも一種の「脳のトレーニング」であり、繰り返しの実践によって、注意制御・感情調整に関わる神経回路が強化されていくと考えられています。楽器の練習で指の動きに関わる脳領域が変化するのと、ある意味で同じ原理です。

 

エビデンスの読み方には注意も必要

脳画像研究は魅力的である一方、サンプルサイズが小さい研究も多く、再現性の検証がまだ発展途上の分野であることも正直に付け加えておきたいと思います。「瞑想で脳が劇的に変わる」という単純化された言説には、慎重な目も必要です。

それでも、心理面の変化と脳の変化がある程度対応していることは、マインドフルネスが「気の持ちよう」ではなく、実体を伴う訓練であることを示す重要な知見だと言えるでしょう。

次回は、いよいよ「創造性」というテーマに入ります。スティーブ・ジョブズが禅の瞑想実践者だったことはよく知られていますが、瞑想とアイデア創出の関係について詳しく見ていきます。